エピソード50-12

桃魔術研究会 第二部室 睦美のオフィス兼カナメのラボ――


 睦美たちが企画したプロジェクト『S4』の活動内容を説明された静流。

 ユーザーからの要望を、四人の静流が分担し、要望に対応する事の様だ。


「問題無いさ。キツめのオーダーは静流キュンには回さないから」

「ほんっとに、お願いしますね?」


「ああ、約束する。それと……」


 睦美はある事を思い出し、静流たちに言った。


「尚『癒し』の空間については、スペースの関係上、『インベントリ』内の仮設住宅の一室を、軍から借りる予定だ」

「成程。で、どうやってお客さんを『インベントリ』に誘導するんです?」

「当日は、『愛の献血カー』が会場内に来るそうで、それを上手く利用する」


 それを聞いた達也が、睦美に質問した。


「献血って、鼻血も出来るんスかね?」

「出来るわけねーだろ? お前、アホか?」


 即座に蘭子から突っ込まれる達也。

 さらに続ける達也。


「しょっちゅう鼻血出してる奴らの為に、『愛の輸血カー』も用意しないとダメなんじゃないッスか?」

「部員のみんな、いつもフラフラしてるもんね……」


 達也たちの会話を聞きながら、睦美は顎に手をやり、黙考していたが、ブツブツと呟き始めた。


「ふむ。確かに当日は貧血になるユーザーが続出しそうだな……運営に掛け合って、救護所をウチのブースの近くに配置してもらうか……」ブツブツ

「睦美先輩? 大丈夫ですか?」

 

 静流が睦美の顔を覗き込んだ。

 睦美は急に立ち上がり、声を荒げた。


「否! 一人でも体調不良者を出したとなれば、我社の沽券に関わる。もっと根本から対策せねば……」


 睦美は額に手をあて、思考を巡らせている。

 すると、それを見た静流が睦美に言った。

 

「それなら、専属のドクターを雇いますか?」

「む? ツテがあるのかい?」

「僕の知ってる限り、カチュア先生か宗方ドクターですけど……」

「どちらも多忙なのではないかね? 静流キュン?」

「どうでしょう? ちょっと失礼」

  

 静流が席を立ち、勾玉を使って念話を始めた。


「……って言うワケで、もしもの時の為に待機してくれると助かるんですが……え? ホントですか? ありがとうございます! 埋め合わせは後日、それでは」


 ペコペコと頭を何度も下げている静流は、使えない営業職の様だった。

 念話が終わり、静流はニコっと微笑んで睦美に言った。


「朗報です! カチュア先生と宗方ドクターで、一日ずつ診てもらえる事になりました!」パァ

「そうか! 良くやってくれた静流キュン! 恩に着る!」


 厳しい顔だった睦美は、静流の言葉を聞いた途端、安堵と感嘆の声を上げた。

 しかし、その余韻は残らず、睦美の眉間にしわが寄った。


「む? 静流キュン、あの先生の事だ、代わりに何か要求されたのではないかね?」

「え、ええ。冬休みの旅行の時、オイルマッサージをする事で手を打ちました」 


「「「何ィィィィ!!」」」


 今のひと言で、一斉に席を立つ面々。


「まぁ、元々ご奉仕する事になっていましたから、オプションが追加された位、どうって事無いですよ」


 あまりダメージを受けていない様子の静流に、蘭子は食って掛かった。


「どうって事あるだろう!? 何だ!? そのいかがわしい響きは!」

「そ、そう言うのじゃないよ、安心して。マッサージだから。肩もみの延長みたいなものだよ」

「ほ、本当なんだな? 土屋?」


 蘭子は目を細め、達也に聞いた。


「まぁな。オイルでグチョグチョのヌメヌメのヌプヌプだけどな」

「うっ! やっぱエロの方じゃないか! お静、何考えてんだ!?」


 達也の言い方に、顔を真っ赤にした蘭子。


「達也ぁ、誤解を招く言い方は止めてくれよ。お蘭さん、落ち着いて。どうどう」


 それから小一時間、蘭子にオイルマッサージについて細かく説明し、やっと理解してもらえた静流であった。


「そうか、『施術』か。もっと早く言えよ! つうか土屋、てめぇの説明が紛らわしいんだ!」

「悪りぃ、でも嘘は言ってねぇからな?」


 険悪なムードがやっと通常に戻ったかのように思えたが……


「じゃあそれ、アタイにもしてくれよ! ゲームのやり過ぎで、最近肩が凝っててな……」

「え? えぇ~!?」


 蘭子の衝撃発言に、周りの者が一斉に立ち上がった。


「な、何だよ? おかしいか?」

「蘭子クン、静流キュンの極上マッサージはな、そう易々とやってもらえる事では無いのだよ。だから軍医たちもそれを所望したのだ」

「そうなのか? お静?」

「う、うん。ちょっとオイルとかコストがかかるんで、滅多にやらないんだ……ゴメン」

「そうなのか? 気にすんなって。無理言って悪かったな」


 出まかせを連発し、何とか蘭子に納得してもらい、ほっと溜息をついた静流と睦美。


「ともあれ、これで問題は解決した。後は本番を待つだけだ!」


 睦美は右手を握り締め、天に向かって突き上げた。





              ◆ ◆ ◆ ◆




桃魔術研究会 第一部室――


 静流たちが去った後、白黒ミサは、ネットに何を書き込むか相談していた。


「さぁて、スレタイは何にしようかな?」

「そうね、こんなのはどうかしら?」


 白ミサが提示した、某巨大掲示板である、『Nちゃんねる』に立てるスレッド名の候補は以下のものだった。


【衝撃】実物降臨か!? 冬の膜張は五十嵐出版ブースが熱い!!!

【悲報】静流様、なんと四人に分裂してしまうWWWWWWWWWW

【朗報】不朽の名作、コミマケで復活! シズムンも参戦か?!?!


「イイんじゃないか? この線で行く。スレ立てたらみんな、一斉に書き込め!」


「「「了解!」」」


 黒ミサがスレッドを立てると、あおり役の部員たちが書き込み始めた。


「よぉーし、盛大に煽ってくれよ?」

「はいっ!」


 一定の書き込み数になったのを確認し、黒ミサが大きく頷いた。


「よし、これで『しずアンテナ』にピン止めするぞ」

「あとは『静流様ファンサイト』にカキコすればOKね」


 白ミサが言っているのは、桃魔が黒魔の時から運用している公式ファンサイトである。

 静流の目撃情報などを定期的に流して、話題提供に貢献している。


「お、早速食いついたぞ?」

「PV数が一気に跳ね上がった!」


 今頃、この情報を入手したユーザーたちは、どんな反応を示したか、少し覗いてみよう。


「何……だと? 静流様が、四人!? むっほぉ……けしからん!」ハァハァ

「静流様を名乗り、容姿を模倣するとは……許し難い、万死に値する!」

「実物!? 今年は等身大ボードでは無いのか?」ハァハァ

「ポイントを貯めると、生の静流様に会える?……目が、目が孕むぅ」ハァハァ 

「『あの方』を人身御供にするつもりか!? 虫唾が走る!」

「やりやがったな……是が非でも馳せ参じねば!」ハァハァ 

「釣りならもう少し上手くやりたまえよ。正直不愉快だ」


 好意的な書き込みの中に、素直に受け入れていない者たちがいるらしい。

 その書き込みを見た白ミサは、顎に手をやり、考え始めた。

 それを見た黒ミサが、PCの画面を覗き込んだ。


「どうした白、む? これは……裏目に出たか?」

「ふぅむ……どうやら、もう一押しする必要がありそうね」

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