エピソード47-52
薄木航空基地 第七格納庫――
格納庫の事務所に戻って来た澪たちは、一人残されたみのりに質問責めに合っていた。
「じゃあ、私だけ静流様にお会い出来なかったの? ヒドぉい!」
「まぁまぁみのりさん、コレでも見て、機嫌直してよ」
みのりに言い寄られ、美紀はアノ本をみのりに貸した。
「何よ、この薄い本って、むっほほぉ~ん♡」
みのりは若干目が血走り、本を凝視している。
「こ、これは未発表の新作!? うはぁ、気合ビンビンじゃない!」フー、フー
みのりが本にかじりついているのを横目に、澪は腕時計を見た。
「そろそろ隊長が帰って来る頃ね。佳乃、零号機の駐機位置、確保してあるわね?」
「それはバッチリであります!」
今のやり取りを聞き、みのりは我に返った。
「へ? 隊長って今日帰って来るんですか?」
「もうすぐよ。外に出て、お迎えしましょう」
澪たちが格納庫の外で待っていると、音もなく零号機が不可視化を解き、搭乗モードに変形した。
「おい! 今帰ったぞ!」
「お邪魔しますぅ」
キャノピーが開き、郁が顔を出した。
「隊長! おどかさないで下さい!」
「悪いな。佳乃! コイツを中に入れてやれ」
「了解であります!」
佳乃は郁たちが降りた後の操縦席に飛び乗り、周りを見渡した。
「ふむふむ……理解したであります!」
すると画面のリアが、佳乃に話しかけた。
〔ほう。コイツの操縦方法、もう取得したのか? 郁からは聞いておったが、お主は乗り物の操縦に関してはピカイチらしいな〕
「自分には、これくらいしか取り柄がないのであります……」
ギャキィィ……キュゥゥン
そう言いながら、佳乃は脚部に装備されているローラーダッシュを使い、搭乗モードのまま器用に零号機を操り、格納庫の指定位置にピッタリと停めた。
〔ふむ。大したもんじゃ〕
「お褒め頂いて光栄であります!」
リアに褒められ、佳乃は微笑んだ。すると、どこからか通信が入った。
〔やっぱ乗り物の操縦は、佳乃さんが一番ですね? スゴいや〕
「静流様、でありますか?」
通信が終わると同時に、不可視化を解いた壱号機が姿を現し、搭乗モードに変形した。
「えっ? 静流クンなの!?」
「「「静流様ぁ~!?」」」
キャノピーが跳ね上がり、ココナと静流が顔を出した。
「試験飛行の帰りに、イク姉がちょっと寄ってけって言うもんだから」
「また会ったな、郁の部下たちよ」キリッ
ココナはドヤ顔で、余裕たっぷりにそう言った。
「何なの? あれじゃあラブラブシートじゃない!?」
「あれで複座型って言えるのかしら?」
真紀と萌が、壱号機の操縦席を見て嫌悪感を抱いている。
すると、静流に気付いたみのりが突進して来た。
「静流様ぁーっ!」
「あ、みのりさん、今晩は」
「私も行きたかったですぅ、静流様の学校……」
「ま、まぁ次の機会に……ん? 何を持ってるんです?」
「こ、これは、何でもありませんっ!」
静流が覗き込もうとしたので、みのりは手に持っていた薄い本を後ろに隠した。
「さて、長居は無用。静流殿、ご自宅まで送ろう。お母上にもご挨拶しないとな……」
「「「「うげぇえ~!?!?」」」
突然のココナの爆弾発言に、一同は奇声を上げた。
「ん? 何か、おかしな事を言ったか?」
ココナは、周りの雰囲気がどんよりし始めているのに全く気付いていない。
「ココナさん、本当に、ウチに来るんですか?」
「無論だ。 これからの人生設計について、お母上とご相談せねばならんしな。あ、ウチの親には会う必要は無いぞ。 とっくに勘当されているのでな」
ココナは次第に早口になり、静流が引き気味になっているのを無視してまくし立てた。
静流は苦笑いを浮かべ、ココナに聞いた。
「僕、『メル友』から始めましょうって、言いましたよね?」
「しかしだな、今後の事をだな、お母上にきちんと説明を……」
静流の問いに、くどくどと言い訳を始めたココナに、ひと言告げた。
「聞き分けの無い人は、苦手です」
静流のひと言に、一瞬で場が凍りついた。
「静流様が……怒っている?」
「ひいっ、私も、気を付けないと……」
ココナはキョロキョロと周囲を見回し、自分のやらかした事態に今更気付いた。
「ぐはぁ……私は、やってしまった……のか?」
ココナは膝から崩れ落ち、アッシュブロンドの緩いウェーブのかかった長い髪をくしゃくしゃに搔きむしり、両手で顔を覆った。
郁とルリが、すかさずココナに言った。
「ココナちゃん、自爆しちゃダメじゃない。 また闇に戻るの?」
「調子コイてたから、イイ薬になったんじゃないか?」
はっと我に返ったココナは、静流に深々と頭を下げた。
「し、静流殿! 申し訳ない! 私が悪かった!」
「そ、そんな意味じゃないんです、ただしつこいのはどうかと思っただけで……」
ただただ平謝りのココナに、静流は恐縮して言った。
「イメージ力が豊かなのは、イイ事だと思いますよ」ぱぁ
静流は少しぎこちないニパを放った。
「きゃぅん♡……許してくれるのか?」
「許すも何も、妄想は脳内に留めて、ほどほどにして下さいね」
「わ、わかった。以後気を付ける!」
静流の逆鱗に触れたわけでは無い事がわかり、ココナは直ぐに復活した。
「さぁ静流殿、ご自宅まで送ろう!」キリッ
簡単に挨拶を済ませ、静流は零号機のメルクに話しかけた。
「メルク、 連絡はどうやってすればイイ?」
〔簡単な事じゃ。例のアプリを立ち上げれば、ネットワーク回線が使える環境ならば、ワシらといつでも会えるぞ〕
「なるほど。それは助かるな」
〔静流にも、コイツの操縦をマスターしてもらわんとな。たまには乗りに来い〕
「わかった。冬休みにでも練習に行くよ」
メルクとのやり取りを聞いて、周りがざわついた。
「きゃあ、静流様がココに来てくれるって♡」
「静流様ぁ、冬休みと言わず、いつでも来てくださいね♡」
工藤姉妹がきゃいきゃいやっている所に、佳乃が割り込んだ。
「静流様、操縦の事でしたら、自分が手取り足取りご指導するのであります!」
「それは助かります。ありがとう、佳乃さん」パァ
「ぱっふぅぅ~ん♡」
佳乃は至近距離からのニパを浴び、今まで引き締まっていた顔が、次第に緩んでいった。
〔ではな。静流、また会おう〕
「じゃあね、メルク」
零号機のメルクに挨拶を済ませた静流は、薄木の一同に挨拶した。
「皆さん、お騒がせしました。またお会いしましょう」
「静流クン、困ったことがあったら、いつでも相談に乗るからね?」
「ありがとう、ミオ姉」
「零号機の事は任せろ。いつでも出撃出来る様にしておく」
「イク姉、お願いします」
「「「静流様ぁ~!」」」
「皆さん、じゃあ、また」
一同に挨拶を済ませた静流は、壱号機のココナの所に行った。
「お別れの挨拶は済ませたかい?」
「ええ。それじゃあお願いします」
壱号機の操縦席にココナが先に座り、そのあと静流が座った。
「ア、アジャスト」きゅぅぅ
ココナが操縦席の微調整を行うと、二人は密着した。
「な、何ですかあの装置は!? 近い、近すぎます!」
「勝者の特権、か……萌ちゃん、目の毒だけど、辛抱するのよ……」
萌が指差して抗議するも、澪はそれを止めた。
キャノピーが閉まり、壱号機の頭部がせり上がっていく。
羽根を広げ、ゆっくりと高度を上げていき、空中で制止した。
みのりは壱号機に向かって叫んだ。
「静流さまぁー! 今度は私とも、遊んで下さいねー!」
その後壱号機は、不可視化を展開し、忽然と消えた。
◆ ◆ ◆ ◆
アスガルド駐屯地 厚生施設内 洋食屋ポセイドン――
リリィと仁奈、レヴィは夕食中だった。
「しっかし驚いたわね、ドラゴン型MTが完成してたなんて……」
「たまげたのは、飛行ユニットを搭載してる事ですよ、仁奈さん」
「少佐殿の話じゃ、宇宙空間でも稼働出来るらしいよ?」
「「「はぁーっ……」」」
リリィがそう言い、三人は深くため息をついた。
「ここまで想像の斜め上をいかれると、驚くのが馬鹿らしくなっちゃうよ」
「でもでも、こんなのはまだ序の口、かもしれませんよぉ?」
仁奈とレヴィがそんな事を話しているのを眺めながら、リリィが呟いた。
「『空のしもべ』ゲットか。 あとは海だね、静流クン?」
リリィたちの席より少し離れたカウンターに、アマンダは一人で水割りを飲んでいた。
アマンダはグラスを傾けると、周りに聞こえない音量で呟いた。
「静流クン、ミッションクリアよ、お疲れ様♡」
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