エピソード47-49

国分尼寺魔導高校 生徒会室――


 静流の『自画像』の落札者であるココナに、改めてお礼を言った静流。

 落札価格が一千万円と高額だった為、静流は他にお礼出来る事は無いかとココナに聞き、紆余曲折の末、結果的に静流をドラゴン型MT『ラプロス』に乗せる事となった。


「では、静流は複座式の『零号機』に乗せる。残念だったなココナ! はっはっは」


 郁はそう言って、手を腰に当て、高笑いした。

 静流の専用機である『零号機』は、メルクにより定員二名の複座式に改造されていた。

 ココナの『壱号機』は、仕様の変更は行われず、定員は一名である。


「うわぁ、隊長ったら、ちゃっかりしてるわね……」

「それでは、絵を買った特典にはならないのであります!」


 郁の策略にまんまとハマったはずのココナであったが、全然余裕であった。


「フッ、貴様の考えそうな事だな。 問題無い。静流殿は私と『壱号機』で遊覧飛行を楽しんだ後、お宅まで送ろう」

「な、何ぃ? まさか貴様、静流を自分の膝の上に乗せるつもりか?」


 郁がそう言うと、若干二名が声を荒げた。


「競りで負けた者として、大概の事は目を瞑ろうとしてたけど、流石に認めるわけにはいかない!」

「間違いがあったら困る! 静流、イイ子だから二人乗りの方にしなさい!」


 忍と薫子は、タガが外れた様にまくし立てた。

 ここでも眉ひとつ動かさないココナ。


「問題ない。私の機体には、『補助席』が付いているからな! はっはっは」


 そう言ってココナは、手を腰に当て、高笑いした。

 不信に思ったルリは、すかさずノートPCの画面に向かって話しかけた。

 

「今の話って、本当なのですか? リアさん?」

〔うむ。 そう言う使い方も出来る、という事なら、可能じゃ〕


 画面にいるリアは、うんうんと頷いた。


「補助席って、観光バスのやつ、みたいな?」

「大丈夫だ。座り心地は悪くない、と思うぞ? ヌフ」

「くっ、まさかの補助席か。今回は一本とられたな」

 

 郁はあっさり引き下がった。


「ほ、補助席が何よ? 狭い空間に二人っきりなのは、変わらないじゃない!」

「ぐぬぬ……」


 薫子は、必死に抵抗しているが、忍は何も言い返せなかった。

 そんな薫子たちに向け、ココナは済み切った声で言った。


「忍殿には今回世話になった。アノ絵を一週間ほどお貸ししようと思うのだが、 どうだろう?」

「……姫様、あり難き幸せ」シュバ


 ココナの粋な計らいに、忍は瞬歩でココナの前に移動し、片膝をついた。


「な、忍? アンタ……」

「薫子殿も、愛でたいであろう? アノ絵を?」

「……姫様、恐悦至極にございます!」シュバ


 なんと薫子までが、ココナの前で片膝をついた。


「何言う変わり身? あの子たちを手懐けるとは、流石ね」

「長い物には巻かれろとは、よく言ったもんだぜ……」


 雪乃とリナは、二人の豹変ぶりにため息をついた。


「もめごとは片付いた様ですね? お姉様方?」

「その様ね。さぁて、そろそろ本当に帰らないとね」


 そこで睦美は、はっと何かを思い出したようだった。 


「おっとそうでした。皆さんにお土産を用意しますね」


 睦美はポンと手を叩き、左京を呼んだ。


「おい左京! 例のモノを皆様に」

「はっ、御意!」


 左京は、数冊の本を抱え、生徒会室に入って来た。


「どうもぉ、現生徒会長の、片山左京でございます! GM、例のモノお持ち致しました」

「ご苦労」


 睦美は左京から本を受け取ると、ココナたちの前にズンと置いた。


「これはお近づきの印です。よろしければ、どうぞ」


 目の前に出された本の表紙を見て、ココナやルリ、佳乃は驚きと興奮が入り混じった奇声を上げた。



「「「むっほほぉ~ん!」」」



 本のタイトルは、『嗚咽の八重歯~吉原編~』であった。

 すかさず本を手にしたヘビーユーザーたちは、早口でまくし立てた。


「こ、これは未発表の新作……?」フー、フー

「この、竹をくわえているシズ子、カワイ過ぎるのであります!」

「そのシズ子が、あんな事やこんな事を……むぅ、凄まじい破壊力……圧倒的だ」フー、フー

「最速で手に入った……無茶して強引に付いて来た甲斐がありました!」フー、フー


 本にかじり付いている四人を見て、満足げに睦美は言った。


「お喜び頂けましたか? これは、数週間後に迫った『冬コミ』に出す予定のものです」

「『コミマケ冬の陣』でありますね? むはぁ、コーフンするでありますなぁ」フー、フー


 付け加える様に、左京が自信たっぷりに言い放った。


「今年の『五十嵐出版』ブースは、様々な工夫をこらして、売り上げ倍増を目論んでおります! ご期待下さい!」

「む? それはとても気になりますね、具体的には?」

「その時のお楽しみですよぉ。 ヌッフッフ」


 左京は扇子を出し、口元を隠した。


「お前たちは【ゲート】から帰れ。私は零号機にルリと乗り込み、壱号機とランデブー飛行の後、ルリを太刀川で降ろした後、帰還する! イイな?」

「はぁい、わかりましたぁ……」


 郁がそう部下に言うと、部下たちは少々不満げであったが、素直に従った。


「仕方ない、とっとと帰りましょう。静流クン、また会いましょう」

「静流様! 零号機はいつでも出撃できるよう、完璧に整備するのであります!」

「静流様……いつもあまりお話し出来ませんが、待ってますから……」

「「静流様ぁ、またね♪」」


 それぞれが静流に声をかけた。


「さぁ、私たちも帰りましょう。 静流さん? くれぐれも無駄遣いはダメですからね?」

「おい、お前たち、引き上げるぞ! 静坊、またな!」


 雪乃たちも帰るようだ。


「静流ぅ、困った事があったら、私を呼びなさい。 ドコにいようと直ぐに行ってあげるからね♡」

「静流、たまに会ってくれないと、発狂するから」


 薫子たちは静流に声をかけた後、ココナに言った。


「「姫様、お約束の件、お忘れなく」」

「うむ。承知した」 


 帰りの準備が出来たゲストたちに向け、静流が挨拶した。


「皆さん、今日はありがとうございました! また、お会いしましょう」ペコ




              ◆ ◆ ◆ ◆




 みんなを【ゲート】まで見送った後、睦美は静流にねぎらいの言葉をかけた。


「静流キュン、今回のミッション、お疲れ様」

「いやぁ、今回はかなりヘビーでしたね。今後、仕事を掛け持つのはちょっと遠慮したい、かな?」

「フフ。わかったよ。スケジュール管理に細心の注意を払おう。ね、1stマネの真琴クン?」

「そうですね。今回みたいな突貫工事は、なるべく避けるべきです!」


 気が付くと、校庭は日が陰り、辺りが薄暗くなっていた。


「丁度暗くなって来た。旧校舎の辺りなら、人気もないし、機体に乗り込むには最適じゃないか?」

「そうですね。じゃあ、そちらに移動しましょう」


 機体に乗り込む静流、ココナ、郁、ルリと、見送る睦美、左京、真琴、シズムは、旧校舎に向かった。

 旧校舎裏の空地に着くと、ココナは辺りを見回し、腕に付けた通信用レシーバーに話しかけた。


「うむ。ココなら大丈夫そうだ。リア、機体をこちらに」

〔了解じゃ!〕


 それを見て郁は同じ様に、腕に付けた通信用レシーバーに話しかけた。


「メルク! 機体を寄こせ!」

〔おう!〕


 二人がそう言った後、暫く経つが変わった様子が無い。


「何も、起こらないが?」

「あ、そうだった」クリ


 静流はメガネの『光学迷彩キャンセラー』のツマミをひねった。


「うわ。駆動音とか全く無いんですね? しかもわずかに浮いている……」

「今はサイレントモードで動かしているのだ。ゆえに無音なのだ」

「ふぅん、成程ね」

「こら郁! 説明は私がする! こいつはな、出力を30%程に落とすと、ほぼ無音状態になるのだ!」


 郁が自慢げに静流に説明しているのをココナが割り込み、説明を始めた。





              ◆ ◆ ◆ ◆



昇降口――


 オカルト研究部の部長である板倉こずえは、みんなから『イタコ』と呼ばれ、予知夢による未来予知を得意としている。

 イタコは下駄箱から靴を出した際に、ある事に気付いた。


「はっ、いけない、部室に鍵を掛けるの、忘れちゃいましたわ」


 そう言ってイタコは靴を戻し、部室のある旧校舎の方に小走りで向かった。

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