エピソード47-48

国分尼寺魔導高校 生徒会室――


 生徒会室で雑談をしていた所に、忍たち『国尼四羽ガラス』が乱入した。、

 また、オークションでの静流の『自画像』が一千万円でココナが落札した事を聞かされた静流。


「い、一千万円!? あの絵が?」

「ああ。イイ買い物が出来た。アレは寝室に飾る事にしよう。納品が楽しみだ。ヌフゥ」


 ココナは緩んだ顔で妄想に耽っている。

 そんなココナにイラついた忍は、ココナに向き直り、怒鳴りつけた。


「ココナ! 私は、どうやってオークションに間に合ったか? を聞いてるの!」

「む? それはだな……」


 ココナは『ラプロス』に乗り、【ワープ】によって数時間前のココに来たことを忍たちに伝えた。


「【ワープ】ですって?」

「おいおい、そりゃあ、ちょっとした『タイムマシン』じゃねぇかよ?」

「フム。確かにそうとも言えますね? 実に興味深い」


 この話題になった時、ノートPCの画面のメルクが反応した。


〔お主らの言う『タイムマシン』とは、ちと違うな〕

「ドコが違うんだよ? メルクよぉ」

〔【ワープ】では、過去や未来、好きな時間の好きな場所に行ける、と言う事は出来ないのじゃ〕

「ん? よくわかんねえぞ?」

〔簡単に言えば、『物凄く速く移動した結果、時間をもすっ飛ばした』くらいの認識でよい〕

「ふーん。それなら何となくわかるな」


 メルクはあえて肝心な部分をぼやかして、リナを納得させた。


〔うむ。詳しい事はこれから少佐を交えて解析するが、【ワープ】の使用については、慎重に進める事が妥当じゃろう〕

「その方が無難のようですね。機体についてもトップシークレット扱いでしょうから」


 睦美はうんうんと頷いた。


「でも、あの絵が一千万で売れたか……何か恥ずかしいなぁ……」


 静流はあの絵に描かれている自分を思い出し、下を向いた。


「ちょっと睦美、こちらに」

「なんでしょうか? 雪乃お姉様」


 雪乃は睦美を手招きし、小声で話し始めた。

 

「あの絵、私の【鑑定】では、せいぜい400万といった所でしたよ?」コソ

「流石は雪乃お姉様。私は358万と見ましたね」コソ


 お互いの査定が概ね正しかった事を確認し、薄笑いを浮かべる二人。


「静流キュン、後日で構わないが、ご自宅で使用している銀行の口座情報を教えて欲しい。シズム君も頼むよ」

「は、はい。わかりました。シズムの絵も売れたんですか?」

「うん。そうみたい」

「ちなみにシズム君の絵は、85万円だったよ」

「シズムの絵も、結構高く売れたんだね? スゴいじゃんか」


 それを聞いて静流は、シズムを褒め称えた。

 シズムは上目遣いで、静流に問いかけた。


「静流クン、何か欲しい物、あるぅ?」

「え? 特に無いけど、どうしてそんな事聞くの?」

「静流クンにはお世話になってるから、何かプレゼントしたくて……」ポォ


「ななな、何ぃ~!?」


 二人のやり取りを聞いて、ココナは奇声を上げた。


「し、シズムとやら、貴殿は静流殿とはどの様なご関係なのだろうか?」


 ココナは、恐る恐るシズムに聞いた。


「どの様な関係? 一緒に住んでるケド?」


 シズムは首を傾げ、そのままの事実を述べた。


「は? もしや、ど、どど、同棲……と言う事か?」

「おばさんと美千留ちゃんと四人暮らしでも、同棲って言うのかな? う~ん……」

「か、家族ぐるみのお付き合いなのか?」


 ココナの顔が、みるみるうちに青くなっていった。


「こら! ココナさんをからかっちゃダメでしょう?」


 静流がたまりかねてシズムを叱った。


「すみませんココナ様。貴方の反応が面白かったもので」シュン


 シズムはそう言うと、一瞬でデフォルトの豹の姿に戻った。


「はぇ? どう言う手品なのだ? 静流殿?」


 一瞬で豹に変わったシズムを見て、呆気に取られているココナ。


「そっかぁ、ココナちゃん、知らなかったんだ?」

「プッ、狼狽してるエロ将校、ウケた」


 そんなココナを見て、ルリと忍はニンマリと笑った。


「ココナさん、実はこの子、『聖遺物』なんですよ。ロディ、ブック!」ポンッ


 静流の掛け声に、ロディは豹から本に変わり、静流の手に収まった。


「っと、こんな感じです」

「驚いたな、ロストテクノロジーの成せる技か?」

「そうですね。実際、あの塔とも深く関係していますし」

「ラプロスの件もある。いちいち驚いていては身が持たんな。フフ」


 静流の説明に、納得したココナは笑みを浮かべた。


「成程。よくわかった。とりあえず静流殿の貞操を脅かす者はいない、と言う認識で良いのだな?」

「ん? どう言う意味、ですか?」


 ココナは眉間にしわを寄せ、周囲の面々を睨みつけながらそう言った。


「つまりだな、静流殿の寝込みを襲おうと企む輩とかは、いないのだな?」

「フフフ。大丈夫です。そんなもの好きな人、いませんから」


 静流はそう言って笑ったが、静流の背後にいる面々の目が、ギラギラと光っていた。


「それはどうかな? 静流クン、気を付けた方がイイよぉ?」

「セキュリティの強化が必要ですね。私が相談に乗りましょうか? ウヒヒヒ」

「何かあってからでは遅いのであります! 今晩から自分が護衛に付くのであります!」

 

 澪とルリがそう言うと、佳乃がそれに乗っかった。


「そう言うのは問題無いわよ。暗黙の『不可侵条約』があるんだから。 わかってるわよね?」


「「「「ですよねー」」」」


 相変わらずベタベタと静流にまとわりついている薫子は、一言で澪たちを黙らせた。

 そんな薫子を見て、ココナは郁に聞いた。

 

「郁、静流殿と戯れているあの方は、髪の色からして近親者の方か?」

「ああ。従姉だな。名を五十嵐薫子と言う」


 郁は簡単に薫子たちの現状を、ココナに説明した。


「何? 異世界に飛ばされた、だと?」

「ああ。ウチの隊と静流で『流刑ドーム』を発見し、あ奴らの存在を確認したのだ」


 ココナは顎に手をやり、少し考えた後に睦美に聞いた。


「むぅ……睦美殿、貴殿が知りたかった事とは、もしかして『あの組織』の事で、薫子殿たちに関わる事か?」

「ええ。 その件については、後日お聞きします」 


 睦美は、薫子たちに聞かせるのは時期尚早と見たようだ。

 雪乃は急に思い出したように、静流に声をかけた。


「そうそう静流さん? いきなり大金が転がり込んで来るのです。財布のひもは、しっかり管理しないといけませんよ?」

「静坊のカネだろ? 何に使ってもイイじゃねえかよ?」

「おカネは大事なものです。リナに預けたら、さんざん無駄遣いを重ね、直ぐに枯渇してしまうわ」

「おいヅラ、アタイだって将来設計ぐらい立てられるぜ?」

「どうだか。アナタに話題を振った事自体が無駄でしたわね」

「何ぃ? どう言う意味だ?」


 雪乃とリナが言い争っているのをよそに、静流はぼそっと呟いた。


「そうだった。うわぁ、どうしよう、困ったなぁ……」

「一人で悩む事無いわよ。先ずはおばさんに相談でしょ?」

「そうだけど、母さんにおカネの話はあんまりしたくないなぁ……」

「グッドなニュースなんだから、もっと喜んでイイのよ?」

「でもなぁ……」


 真琴にそう言われても、素直に喜べない静流。


「ちょっと雪乃? アナタがキツく言うもんだから、静流が不安がってるじゃない!」

「わ、私は、静流さんの為を思って……さぁて、そろそろ失礼しましょうか?」


 薫子に怒鳴られ、雪乃は早々に退散しようと言い出した。


「え? もう帰るの?」 

「静流さんはこの三日間で二つのミッションをこなしたのですよ? もう許してあげなさい」

「わ、わかったわよ。静流? 明日お休みよね? 塔に遊びに来れば?」

「う~ん、一日ぐらい、部屋でゆっくりしたいかな……」

「そ、そうよね。ごめんね静流、自分の都合ばっかり考えてた」

「こっちこそ。近いうちに遊びに行くから」


 ぺこぺこと頭を下げる薫子を、静流は苦笑いしながらなだめた。

 睦美は静流に声をかけた。


「静流キュン、お客様にお礼、しないとね?」

「おっと、肝心な事、忘れてた」


 睦美に促され、静流はココナの前に立ち、気を付けのポーズをとった。


「ん? どうかしたか? 静流殿?」


「竜崎ココナ様、僕の絵をお買い上げ頂き、ありがとうございました!」ペコリ


 そう言うと静流は、頭を深々と下げた。


「お陰でイイ絵が手に入った。こちらこそ、ありがとう」ペコ


 にこやかな笑みを浮かべたココナが、お返しに頭を下げた。


「僕の予想をはるかに超えた高額落札でした。お礼に、他に何かして差し上げられる事があればイイのですが……」



「「「「ななな、何ですとぉ?」」」」



 静流の無防備な発言に、一同に戦慄が走った。

 

「何でも、イイのかい?」

「僕に出来る事なら、何なりと」

「ふむ。どうしたものか……」

(きゃあ、どうしよう♡ 何をお願いしようかしら♡)


 ココナは余裕ぶっているが、内心はメルトダウン寸前であった。

 そう言ってから、暫くフリーズしているココナに、静流が声をかけた。


「……さん? ココナさん、大丈夫ですか?」 

「へ? ああ、大丈夫だとも」

「では、それでお願いします」

「は? 私はまだ何も言っていないが?」


 状況が今一つ飲み込めていないココナ。

 そんなココナに、郁が声をかけた。


「お前がトリップしている間に、私が話を付けてやったぞ?」

「そんな、勝手に……して、何を望んだ?」

「僕をラプロスに乗せてくれるんですよね? うわぁ、楽しみだなぁ」パァァ


「きゃっふぅぅ~ん♡」


 ココナは今日イチのニパを食らい、大きくのけ反った。

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