エピソード47-42

ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫 事務所――


 アマンダは得意げに言い放った。


「この機体の一番の売り、それは……亜空間航行、つまり……【ワープ】よ!!」


「「「「【ワープ】!?」」」」


 それを聞いた一同は、様々な反応を示した。

 ブラムは察していたのか、特に驚いてはいなかった。


「なるほどね。そう言う事か」


「何だとぉ!?」

「宇宙空間での戦闘用という事だけでも驚きなのに……」

「むっほぉ! スゲェ、スゴ過ぎッス!」


 郁とルリはごく一般的な驚き方で、万里は興奮して身を乗り出した。


「【ワープ】って……もう完全にSFの世界ですよね?」

「あり得ません! そんな事が可能になったら、現行の交通手段って最早……」


 夏樹と瞳は、少し青ざめた顔で、疑いを隠せないでいた。

 残りのココナとケイはと言うと……。


「ふむ……はて、【ワープ】とは何だ?」

「私も、よくわかんなぁい」


 二人は腕を組み、首を同じ方向に傾けた。

 そんな二人に、アマンダは溜息をつき、説明を始めた。


「ふぅ。 簡単に言うと【ワープ】とは、【転移】の上位魔法に近いニュアンスよ。 空間に『ゆがみ』を発生させ、離れた距離にある目的地に瞬時に移動出来る、と言う事」


 大人しく説明を聞いていたケイが、素朴な疑問をアマンダにぶつけた。


「それだったら【ゲート】で済むんじゃないの?」

「確かにそうだな。どうなんだ? 少佐殿?」


 アマンダはその問いに人差し指を立て、左右に振った。


「チッチッチ、それがちょっと違うのよ。確かに原理は【ゲート】とほぼ同じなんだけど、【ゲート】はあくまで人を運ぶもの。特大の【ゲート】を作り出せれば、アレを運ぶ事も可能でしょう」


 ここで一回話を切るアマンダ。


「しかーし、魔法には『コスト』が掛かる。以前、静流クンに転移用のバギーを作ってあげた事があって、その時は【転移】に必要な触媒として『純粋な魔素』が結構必要だった」

「確かに、ウチが作れる【ゲート】にも、大きさには限界があるもんね……魔力が無限にあれば出来るかもだけど」


 うんうん、と頷いているブラム。 

 アマンダは改めてメルクに聞いた。


「その亜空間航行を可能とする技術を、あの機体は有している、って事よね? メルクさん?」

〔いかにも。 そしてこの航行技術には、ワシの【重力操作】の魔法が必要不可欠じゃった〕

「やはり、カギは『ロスト・テクノロジー』だったか……素晴らしい! 僥倖よ!」


 アマンダが褒め称えると、画面の中でメルクは腰に手をあて、胸を張っていた。

 今までの話を聞いて、ココナは要点をまとめた。


「ふむ……つまりあの機体は、瞬時にドコにでも行ける、と言う事だな?」

「そう言う事。でも、それだけじゃないわよね? メルクさん? ヌフフ」


 アマンダは緩みっぱなしの顔で、画面の中のメルクを見て言った。


〔フン、お主の言いたい事はわかる。じゃが、この先は『神』の領域じゃと、ワシは思う。少なくとも、今すぐに使う事は避けるべきじゃろう〕

「まぁイイわ。そう言う事にしておいてあげる」


 アマンダたちが意味深な会話をしているので、万里は口をとんがらせて言った。


「ちょっとお二人さん? 勝手に盛り上がってないで、教えて下さいよぉ」

「おいおい説明するわ。今後のお楽しみって事で。 ムフフ」


 アマンダにはぐらかされ、納得いかない万里。


「うぇぇ!? それじゃあ今晩、気になって寝られないッスよ!」


 アマンダは向き直り、メルクに聞いた。


「それで、静流クンの所まで試験飛行するって話だけど……」

〔説明した通りじゃ。 移動には問題なかろう?〕

「確かに、移動についてはクリアしているとして、他の問題はどうするの? 所轄に一言入れないといけないし……」

〔コイツらのステルス性能は群を抜いておる。レーダーには映らんし、光学迷彩も搭載しておる〕

「だからと言って、ダマテンはマズいわ。何とかしないと……」 


 その話に、ルリが反応した。

 

「その件については、私に考えがあります!」

「どんな策? ルリさん?」

「あそこの周辺はウチ、太刀川の管轄です。『魔導研究所の試作機が、管轄内を試験飛行する』旨を私が管制に連絡すればイイのです!」

「成程。それで、アナタの狙いは何、かしら?」


 アマンダにそう聞かれ、ルリは自信たっぷりに言った。


「あの機体って、自動操縦なんですよね? だったら私が乗りますっ!」


「何ぃぃ? ルリ、貴様本気か?」


 真っ先に反応したのは、郁であった。


「本気も本気。 国分尼寺はお隣ですし、ウチに帰る手間が省けますから。 ムフフフフ」

「自動操縦でも、もしも、と言う事があるだろう? 私が乗る! ココナ! 貴様も何か言え!」


 郁がココナの方を見ると、ココナは自分の世界に入っていた。 


「私の機体には、当然私が乗る……ムフ。しばらく会えないと諦めていたが、こんなに早く再会できるとは……待っていてくれ静流殿。 ムフ、ムフフフ」

「ココナ……貴様と言う奴は!」


 ココナの腑抜けた姿を見て、郁が掴みかかろうとしたその時、ブラムが横やりを入れた。


「あ、その事なら問題無いよ。だってシズル様の機体、『複座式』に改造してもらったもん」

「何ぃ? では定員は二名か?」

「うん。そーゆう事。 ヘヘヘ。 ウチが注文しといたの♪」

「ブラムさん、グッジョブです」グッ


 ルリはブラムに向かって親指を立てた。


「じゃあ、メンバーはこれで決まりね」

「了解した!」


 ココナはさっきまでの腑抜けた態度から一変して、ビシッと背筋を伸ばした。

 ケイは指をくわえて、ココナを羨ましそうに見ていた。


「イイなぁ姫様、ズルいよぉ」

「こら、ケイったらもう……」


「済まんなケイ。コイツの晴れの処女飛行なのだ! 私が乗らないで誰が乗ると言うのだ!」

「処女飛行……何て甘美な響き……ああっ、静流様……ムフ、ムフフフ」


 ココナは腰に手をあて、ドヤ顔でケイに言った。

 ルリは顔を赤らめ、終始緩んだ顔をしていた。


「よし! ここまでは思惑通り。 ムフフフ」


 ルリの不審な態度に、ココナはピンと来た。


「ところでルリちゃん? アナタ、あのひとの絵をオークションで手に入れようとしてるわよね?」

「ココナちゃんこそ! 根端見え見えだぞぉ?」

「ああ、さっきネットで見た静流様の『自画像』ですね? オークションに出すんですか?」

「一目惚れ、 とはこう言う時に使うのね? ルリ」

「不思議な感覚です……あの絵を見ると、何故か心拍数が跳ね上がるんです」

「何としても落として見せる!」フン!

「私だって、頑張りますからっ」フン!


 ルリとココナがガンを飛ばし合っていると、アマンダが声をかけた。


「ねぇアナタたち、何か忘れてない?」

「ん? 何をだ?」


「コッチとアッチ、時差があるって事」

「うっ! しまったぁ……向こうのが6時間進んでるんだった……」

「ほぇ? じゃあ、オークションはとっくに?」

「そうね……もう終わってるんじゃないかしら?」


「「うぇ~!?」」


 二人は同時に情けない顔になり、がっくりとうなだれた。


「クッ、不覚……」

「やっぱり、あの時静流様と一緒に帰れればよかったのね……クジ運なさ過ぎ……」


 二人の落ち込み様に、アマンダは引き気味に言った。


「と、とりあえず、静流クンに完成の報告は済ませないと、ね?」

「そうだな。そうと決まればルリ、ココナ、とっとと行くぞ!」


 郁は二人に声をかけた。


「そんなにあの絵が欲しいのか? ならば、落札した奴から買い取ればイイだろ?」

「む? その手があったか!」

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