エピソード47-41

国分尼寺魔導高校 闘技場 オークション特設ステージ――


 客席の誘導が終わり、あとはオークションが始まるのを待っている客たち。

 その中に、軍の制服を着た者たちが、周りから少し浮いた状態で座っていた。


「ちょっと澪先輩? 制服じゃ目立つって言ったじゃないですか?」コソ

「しょうが無いでしょ萌、 公務中にちょっと寄り道した、って設定なんだから」コソ

「一般観覧が間に合わなかったからって、オークションに顔出すなんて、澪先輩ナイス!」

「無理矢理付いて来て良かったぁ。 みのりには申し訳ないけど……」

「いやぁ、澪殿がここまで大胆になるとは、予想外だったであります!」

「佳乃? アンタが悪いのよ!? あんなものを見せられちゃ、黙っていられますかっ!」

「ネットに『静流様の自画像』が貼り付けられたのを見て、自分だけコッソリ参加するつもりだったのでありますが……」

「佳乃!? アンタねぇ……」


 会話の感じから、メンバーは澪、佳乃、萌、工藤姉妹の5人のようだ。

 みのりは何かしらの都合で、置き去りになったようだ。

 お目当ては当然、静流の『自画像』であろう。


「あ、始まるみたい」


 時間となり、オークションが始まった。

 一瞬すべての照明が落ち、数秒後にスポットライトがステージ中央を照らす。

 ステージの背面には大型のスクリーンがあり、商品の詳細を確認する事が出来る。

 生徒らしき者が、ひょいとスポットライトの中心に現れた。



「どうもぉ! 皆様、此度はこの『国尼祭』オークションにようこそ! わたくしはオークショニアを務めさせて頂く、元生徒会書記長、柳生睦美でございまーす!」



 ワァァァ! パチパチパチパチ



 マイクを片手に、流暢な語り口で自己紹介する睦美は、男物の制服に、蝶ネクタイを付けて白縁のメガネを掛けていた。

 睦美はそのままステージの端にある司会席に行き、マイクを固定する。


「えー、進行はお手元のパンフレットにあるリストのロットナンバー順に行います! 皆さまはお配りしたプラカードを上げ、入札価格をお申し付け下さい!」


 忍たちの番号は55番、澪たちは69番であった。


「落札後はコチラにいらっしゃる当校のメインバンク『ボゾン銀行 国分尼寺支店』の担当者様とお支払いについてご相談願います!」


 睦美に紹介された銀行員は、うやうやしく頭を下げた。


「では早速、ロットナンバー1! いきなり大物です! 花形実作、『俺色に、染まれ』!」


 黒子たちが5、6人で運んで来た最初の作品は、体育館で展示していて好評を得た、高さ3mはあろうかと言う大型の彫刻であった。

 彫刻は、古代ギリシャ人風の衣装を着けた静流と石動が、社交ダンスで言う『キメ』のポーズのようになり、見つめ合っている。

 当然攻めは石動で、受けが静流であった。

 この彫刻は以前、美術部の部長である花形実から頼まれて、静流がモデルのバイトをやった時のものである。


「ちなみにこの作品は、『第69回 矢追展』にて、金賞を頂いたものです!」


「「「おぉーっ!」」」


 睦美が補足事項を付け加えると、各席からどよめきが起こった。

 黒子が作品をゆっくりとターンさせ、スクリーンに詳細を映し出す。


「美しい……まさに美の境地。 どれだけ徳を積めば、たどり着けるのだろう……はぅ」

「お……おほぉ……何という肉体美……むふぅ」

「素晴らしい! 是非とも当館の『BLギャラリー』に展示したい!」


 5分ほど経つと、頃合いとばかりに睦美が進行を進めた。


「さて、ご堪能頂けたでしょうか? では早速始めます。こちらは製作費のみで30万円でしたので、50万円からスタート!」コンッ


 睦美が開始の号令と共に、ハンマーを叩いた。すると、


「60万!」

 「70!」

「100万!」


 とポンポン価格が上がっていく。


「おっと3ケタ突入です! 他に無いか?」


「120!」

 「150!」 

「200!」


 次第にプラカードの数が減り、代わりに額の上がり方が雑になった。


「200万、他に無いか?」


「250!」

 「……400!」


「おおっ……」


 やがて勝負は15番と36番の戦いになった。

 ついに400万の大台に乗った時、少しどよめいた。

 数秒間の沈黙があり、睦美は煽った。


「36番様、よろしいですか?……では400万で15番様、落札ですっ!」コーンッ


「ワァァー!!」


 最初の品が落札され、会場は徐々にヒートアップしていった。





              ◆ ◆ ◆ ◆





ダーナ・オシー駐屯地内 第九格納庫前――


 廃材置き場から移動して来た、大小二機のドラゴン型MT。

 着くなり搭乗時モードに変形する。


 ゴゴゴゴ……プシュゥ


 キャノピーが跳ね上がり、操縦席から出て来たココナとブラムを迎えるアマンダ。


「戻って来たわね? どちらも完成なのかしら?」

「ああ。そうらしい」

「それでね、メルクたちがシズル様の所にアレで行きたいって言うの」

「何、ですって?」


 アマンダは搭乗時モードでたたずんでいる二機を改めて見た。

 頭を地面にこすりつける様なポーズを取っている。


「無理でしょ!? 大体あの質量で【ゲート】を通るつもり? 他にも所轄に許可を取らなくてはダメだし、あんなもんが東京上空を飛行したら、『なんや!? あのけったいな飛行物体は!?』ってすっちゃかめっちゃかのてんやわんやのすったもんだの……」


 アマンダはマシンガンの様にくどくどとしゃべり出した。

 ブラムがUSBメモリーを挿したノートPCをアマンダの前に出した。


〔いつまで続くのだ? このどうでも良い会話は?〕

「……とにかく、大パニックになっちゃうわよ!?」

「ウチもそう思ったんだけどね、何かね、そうはならないみたいなの」

「どういう事? メルクさん、説明して頂戴!」

「私も知りたいッス。勿体ぶらないで早く教えて下さいよぉ」


 ノートPCの画面に、アマンダと万里がずずずいと迫って来た。


〔わかったわかった。そう急かすでない〕

「私も魔導科学者の端くれ。納得いく説明を要求しますっ!」フー、フー


 真っ赤な顔のアマンダをなだめながら、格納庫内の事務所に移動する一同。





              ◆ ◆ ◆ ◆




第九格納庫 事務所――


 一同を座らせ、テーブルにノートPCを置く。

 画面の中には、メルクとリアがいた。


「さぁ、私が納得するようにちゃんと理論立てて説明しなさい!」

〔うむ。 では説明するぞぃ〕


 メルクとリアが、二機の機体について説明を始めた。

 主な項目は、


 ・シックハックから得た機体の情報や、ブラックボックスにあった設計図の事

 ・機体の自己修復機能による機体の再生について

 ・この機体が宇宙空間での戦闘に特化したものである事


 であった。

 説明を聞いたアマンダは、何やら興奮しており、顔が緩んでいた。


「メルクさん? 宇宙での活動を考慮しているって事は、この機体、光速で飛べたりして? ンフ」

〔無論、可能であろうな〕

「って事は、もしかして光りよりも速く飛べたりして? ムフ」

〔何が言いたいのだ? 少佐?〕

「わかってるクセにぃ。もう、お茶目さんなんだから♡」

〔気色悪いぞ? お主の言いたい事くらい、わかっておるわい〕


 アマンダとメルクのやり取りは、周りの連中にはチンプンカンプンであった。

 たまりかねたココナは、アマンダに聞いた。


「少佐、私たちにもわかるよう、説明して欲しいのだが?」

「あら、ごめんなさいね。 覚悟はイイかしら? この機体の一番の売り、それは……」


 アマンダはゆっくりと言葉を切りながら、得意げに言い放った。



「亜空間航行、つまり……【ワープ】よ!!」

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