エピソード47-15

生徒会室――


 睦美は静流の絵が今現在どの様な状況にあるか、学園の者たちに説明した。


「静流キュンの絵は、今朝から視聴覚室で一般観覧を始めたんだが、この絵の噂を耳にしたのか、近隣のゲソリック系お嬢様校がゾロゾロと生徒を引き連れて来てしまってね、そりゃあもう大騒ぎだったよ」

「ゲソリック系お嬢様校?」

「制服で確認出来たのは予想通りの二校。聖オサリバンと聖ドドリアだったね」


 そこまで話した所で、ムムちゃん先生がため息まじりにしゃべり出した。


「ふう。ホント困っちゃうわよね。まさかあんな大ごとになるなんて……」

「ムム? それで、どうなったのです?」チャ

「『我が校が先です!』『いいえ、我が校です!』って引率の先生同士が睨み合い始めて、終いには攻撃魔法を放とうとしたの。でもウチの結界がそれを打ち消してくれたから、損害はゼロだったけど」

「流石は『静流派』元総長の結界術、素晴らしい!」


 現生徒会長の左京が、まるで自分の手柄のようにドヤ顔で自慢した。 


「それで、仕方なくクローズにしたんですか?」 

「ああ。つまらないイザコザを我が校に持ち込んだ二校については、即刻退場してもらったがね」

「ふぅ。恐らく、明日も来るんでしょうね……」


 ムムちゃん先生の顔が曇った。すると睦美が付け加えた。


「その件でしたら手を打っておきましたよ。 な、左京クン?」

「え? そうなの?」

「は。一応生徒会から、二校には出入り禁止にしない代わりに、注文を付けておきました」

「ちなみに、どんな注文なの?」

「一つ、他校とのトラブルを持ち込まない事。二つ、学校単位での観覧は、我が校と書類を交わした後、別の指定日に観覧する事。三つ、この他に我が校にとって被害を被る可能性があると認められた場合、退場を言い渡されたら即座に退場する事」

「なんだ。完璧じゃないの。それで二校は了承したの?」

「ええ。二校は明日のオークションに重点を置くでしょうからね」

「うへぇ、オークション、かぁ……」

 

 ムムちゃん先生は、『オークション』と言うワードを耳にした直後、うなだれてぼそっとこぼした。

 真琴が睦美に聞いた。 


「今回のオークションは、何点エントリーするんです?」

「今の所、5点だね。そうそう、シズム君の絵もオークションに掛ける事になったよ」

「そうなの? スゴいじゃん!」

「エヘヘ。そぉかなぁ?」

「失礼致します!」シュバッ


 アンナとシズムが話していると、何処からともなく影が睦美の横に出現し、耳打ちをした。


「そうか。ご苦労。下がって良し」

「はっ!」シュバッ

「今のって、ニンジャ?」

「気配が完全に消えてたわね……」


 サラとナギサがそんな事を話していると、睦美がパンと手を叩いた。


「皆さん朗報です。視聴覚室は午後から観覧を再開します!」

「よかったぁ。肝心の絵が見られないなんて事にならなくって」

「静流キュン、キミは案内係だったね。学園の皆さんを案内して差し上げてくれないか?」

「はぁ。そうしたいのは山々なんですけど……」


 静流は睦美と学園一同を、交互に見ながら、弱々しくそう言った。


「問題ありませんよ。ね、ムム先生?」

「え、ええ。姉妹校の方々がわざわざ来て下さったんです。五十嵐クン、頼んだわよ?」

「は、はい。わかりました」


 意外にあっさりと了承したムムちゃん先生に、静流は拍子抜けした。 


「ええ? イイのぉ?」

「わぁい、静流様と回れるんだ。ラッキー!」


 学園の一同は大いに喜んだが、事情を知っているヨーコだけは冷静だった。

 

「井川さんも案内役でしたね? 一緒にご案内して差し上げなさい」

「はぁい、かしこまりぃ」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 4階 医務室――


「『夢モニター』のセット、終わったよ」

「うん。これで写る、と思う」 


 医務室では、竜崎ココナが『エターナル症候群』を発症するきっかけとなった夢を分析する為、塔の仮眠室にある睡眠カプセルから『夢モニター』を流用し、手術台に設置した所であった。

 設置にはブラムと、古代語が読める忍が担当した。


「よし、早速見て見ましょう。メルクさん、お願い」

「横になって目を閉じればイイのか?」

「そう。何も考えないで、そのまま……【スリープ】」ポウ


 忍はメルクにスリープを掛けた。


「すぅー、すぅー……」

「ブラム、チューニングお願い」

「りょーかい」


 ブラムがモニターを注意深く見ながら、操作盤のつまみを少しずつ回す。

 やがて映像が映った。


「何か写りましたね……」

「ん? 森の中を疾走しているの?」

「視点が切り替わって、まるで映画みたいですね」

「補正が掛かってる。『最適化』というらしい」


 凄い速さで森の中を走り抜け、やがて広い場所に出たココナ。

 すると地響きと共に、空から10m級の灰色の翼竜が舞い降りた。


「あれが『ドラムロ』ですか?」

「想像していたのより、少し小さめかな?」


 ココナは長剣を抜き、刀身に魔力を注ぎ始めた。


〔【ローリングサンダー・スラッシュ】!!〕シュバー 

「いきなり大技を繰り出したわ!」


 長剣を振り下ろすと、刀身から衝撃波が発生し、ドラムロに一直線に向かっていく。 


〔ギャァァ!〕バサッ


 ドラムロはすぐさま飛び上がり、衝撃波を躱した。


「反応が速いわね」

「移動速度もかなり速い」


 ココナは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ます。

 ドラムロは高度を高くとり、やがてココナ目掛けて急降下して来た。


〔今だ【スティンガー・アタック】!!〕ババッ


 ココナは目を開き、長剣を水平に降った。すると刀身が赤く光り、二発の光弾が放たれた。


〔グギャァァ!〕バサッ


 ドラムロは一発目の光弾を難なく躱すが、その先に二発目が向かって来ていたのを見落としていた。

 さらに、躱した筈の一発目が、旋回してドラムロに向かっていく。


〔グワァァ!!〕ダダン!


 二発ともドラムロに命中し、ドラムロはバランスを崩し、地面に叩き付けられた。


〔グルルル……〕


 ココナの攻撃が効いたのか、ドラムロは地面でうずくまり、ココナを睨みつけ、うなった。


〔悪く思わないでね。今すぐ楽にしてあげる〕


 ココナは再び、刀身に魔力を注ぎ始めた。

 先程の大技を繰り出すつもりだ。


〔【ローリングサンダー・ス……】〕 

〔クワァァァ……ギャァァァ!!〕


 ココナが技を繰り出すその時、ドラムロの口から怪光線が放たれた。


〔くっ!!〕


 ドラムロが放った怪光線は、ココナの右足を貫通した。


〔グワァァァ!!〕

〔ぐっ! 不覚!〕


 ココナは右足を引きずりながら距離をとろうとするが、段差に躓き派手に転んだ。

 ダメージを受けながらも、ココナに詰め寄るドラムロ。

 ココナの前に迫るドラムロ。ココナは、再び立ち上がる事は無かった。


〔ギャォォ!〕

〔詰んだか……フフ。いいザマね〕


 ココナはそっと目を閉じ、最期の瞬間が訪れるのを待っていた。

 しかし、その時は訪れなかった。


〔グギャァァァ!〕ザシュ……ズシン

〔!!〕


 目を開けると、ドラムロの首が胴体から離れ、ココナの目の前にあった。

 その奥を見ると、漆黒の鎧を身にまとった男が、刀を鞘に納めている所だった。


〔一撃で10m級を!? アナタは誰!?〕

〔通りすがりの……竜殺し〕


 そう言うと男は、ココナの方に振り向いた。

 全身黒の鎧を装着し、左目を眼帯で覆い、長い桃色の髪をなびかせ、兜には『愛』の文字をあしらっている。


「ダダダ、ダッシュ7!? 何でココナさんの夢に?」

「何だかイヤな予感がするわね……」

 

 カチュアは眉間にしわを寄せ、モニターにかじりついている。


〔竜殺しの、サムライ?〕

〔アンタ、足をやられているな。医者迄送ろう〕ファサ

〔はわわわ〕


 そう言うと男は、ココナを軽々と持ち上げ、お姫様抱っこした。


〔わ、私なら大丈夫だ! 降ろしてくれ!〕

〔強がりを言うでない。急げば間に合うかも知れん〕


 そう言うと男は、ココナを抱えたまま全力疾走した。


〔は、速い、速すぎる!〕

〔フフ。怖いか? お嬢様?〕

〔な、何を!? 私を侮辱するのか!〕

〔済まん。その様なつもりではなかった、許せ〕

〔ぐぬぬぅ……〕


 状況からして、この男に頼るしかなかったココナは、大人しく従った。


(よく見ると、なかなかイイ男ではないか?)


 やがて町の診療所に到着し、ココナをベッドに寝かせ、医者に見せた。


〔もう少し遅かったら、切断しなきゃならなかったかも知れんぞ? ツイとったな〕


 そう言うと医者は、ココナの右足に添木をあて、包帯で固定した。


〔よかったな。では俺はこれで失礼する〕


 男はそう言うと、きびすを返し、診療所を出て行こうとした。

 ココナは慌てて、男に声を掛けた。


〔お、おい! 名前ぐらい……聞かせろ〕

〔聞いてどうするのだ?〕

〔お前に……惚れた〕カァァァ


 そう言うとココナの顔がみるみる赤くなっていく。


〔ん? 聞き間違えたか?〕

〔二度は言わん!〕


 男にからかわれ、布団をかぶってしまうココナ。

 布団から少し顔を出し、男を見つめている。


〔悪いな。俺の好きなオナゴは、背は小さいがチチが大きいオナゴだ。他をあたってくれ〕


 そう吐き捨て、男は去って行った。

 取り残されたココナは、小刻みに震えていた。


〔きぃ~!! もうイヤだ! だれか私を、殺してくれー!!〕


 画面がブラックアウトした。

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