エピソード46-10

ワタルの塔 二階 食堂――


 静流を除いた女どもは、ブラムと共に朝食を摂っていた。

 静流はと言うと、女どもに半ば強制的に風呂に行かされていた。


「少しは落ち着きました? ドクター?」

「う、うん。もう大丈夫……だと思う」


 実はルリが気を遣い、静流をすれ違い気味に風呂に行かせたのであった。


「郁ちゃんは、どんな夢を見たんですぅ?」

「私か? 変な夢だったな。スライムみたいな魔物と戦っておった」

「ああ、それはシズル様がオーダーした夢がベースになってるね」

「手ごたえの無い奴らだった。まぁ、ストレス発散にはなったがな」


 静流たちと郁の夢とは、リンクしなかったらしい。


「ルリは設定通り、静流の椅子になったの?」

「勿論ですぅ♡ その後は多分、忍さんと同じ夢だと思いますよ?」

「やっぱり混線してたか。今回はちょっとイレギュラーだったみたい」

「ブラム、何かあったの?」

「夢のプログラムに、外部から割り込みがあったの」

「そんな事が出来るの?」

「さっきシズル様に聞いたんだけど、割り込んで来たの、親戚の人らしいよ」

「親戚って、桃髪の、ですか?」

「夢に干渉出来るって、インキュバスの特性ってやつ?」


 今までの話を整理すると、忍ははっと気が付いた。


「ん?……って事は……」チラ


 忍はジェニーを見た。

 風呂から帰って来たジェニーは、口数も少なく、こじんまりとたたずんでいた。


「あのエロ教師、やっぱりドクターだったの?」

「ええ。そうよ。私」

「あれはドクターの夢がベースなのね」

「おかしい。私が見たドクターは、もっとバインバインだった」


 忍は、ジェニーの、特に胸の辺りをを凝視した。


「忍さん、ドクターはね、脱いだらスゴいんです」

「ち、ちょとぉ、ルリちゃん!?」


 ルリの言い草に、ジェニーは慌てる。


「だって、実際ダイナマイトバディじゃないですか。嘘は言ってませんよ?」

「……恥ずかしいじゃないの……もう」


 ジェニーは耳まで赤くなり、小さくなった。


「いつもは矯正下着で隠してるんです。勿体ないですよね?」

「もう、イイじゃない、私の事は、放っといて頂戴……」

「何かワケでもあるのか?」


 郁の問いに、暫くしてジェニーは語り始めた。


「私は幼稚舎から女子校だったし、女子医大では研究に没頭してたから、合コンなんて興味無かったし……」

「好きな男の子とかは?」

「いなかったワケじゃないわよ? でもイイなぁ、くらい」

「それで?」

「それだけ。男たちの視線に耐えられなくて、矯正下着で抑え込んでるの」


 ジェニーはモジモジしながらそう言った。

 ルリは、そんな仕草を見て、ジェニーに短刀直入に聞いた。


「今更ですがドクター、ひょっとして、まさか、エクストラ・バー……ふぐぅ」

「はぁわわわわぁ~!」


 ジェニーは慌ててルリの口を塞いだ。


「夢の中の先生は、結構大胆だった」

「私の願望が、むき出しになっていたからでしょうね……」

「静流を、食べようとしていた」

「食べるって……とにかくそう言う欲求が、私にもある事がわかったの。ちょっと驚いてるわ」


 ジェニーは冷静に自分を分析した。

 ルリはそんなジェニーを見て、ニヤニヤしながら言った。


「つまりドクターは、生粋の『リアコ』という事ですよ」

「何よ『リアコ』って?」

「リアルの殿方との逢瀬を妄想している女子。『夢見る乙女』、って事ですよ」


「へ? 静流クンに? 私が? そんなワケ……あるかも」ポォ


「「「「あるんかい!」」」」


 頬に手をあて、腰をくねらせるジェニーに、一同はツッコミを入れた。





              ◆ ◆ ◆ ◆




 静流が風呂から帰って来た。


「どうであったか? 朝風呂は?」

「ふう。普段はギリギリまで寝てるから、こういうのも悪くない、かなぁ」


 食卓に着き、トーストにかじりつく静流。

 他の者は、食後のコーヒーを飲んでいる。

 ルリが静流に聞いた。


「静流様のご親戚って、やはり髪は桃色なんですぅ?」

「そうですね。皆さんはわかるかな? 『七本木ジン』さんって」


 ルリはそれを聞いて、マグカップを持つ手が止まった。


「うぇ? ええ~!! ジン様が、静流様のご親戚!?」

「そんなに驚く事ですか?」

 

 思わず腰が浮くルリ。

 

「超が付く位、有名な俳優さんですよ? また、薄い本の『攻め担当』のモデルにも、良く起用されていますね」

「あ、そうなんです。僕も気になったんで母さんに聞いたら、どうもそうらしいんです」


 大人しくしていたジェニーが、話題に入って来た。


「私も勿論知ってるわよ。でも、かなり前に失踪事件があったのよね?」

「ええ。いまだに行方不明なんです。僕の父さんや、伯父さんみたいに……」


 静流の顔が少し曇り始めたので、郁は話を振った。 


「それで、ソイツが夢枕に立ったのか?」

「うん。魔法で夢に割り込んで来たって」


 静流は朔也とのやり取りを皆に説明した。


「その話が本当だとすると、ジン様たちはどこかの星で拉致されている……と言う事でしょうか?」

「赤い星ねぇ……情報が少な過ぎるわね」

「その辺りは、折を見てアマンダさんに相談してみますよ。軍の宇宙局とかのツテが無いか、とか?」

「そうだな。あ奴なら何か掴んでいるかも知れんしな」





              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔 二階 応接室―― 


 朝8時近くになり、塔のエレベーターがの駆動音が聞こえた。

 

 ウィーン


 扉が開くと、誰かがこちらの方に近付いて来る。


「誰か来たみたいですね? 誰だろう?」


 こちらに向かって来るのは、アマンダであった。


「おはよう。時差ボケは直ってるわね?」

「おはようございます。アマンダさん」

「おう。いつでも行けるぞ」

「結構。指示があるまで待機してて頂戴」

「了解」


 仕事で来ているので、少し表情を緩めるにとどめたアマンダ。


「ふう。さて、後は姉さんと神父様ね。 朝のお祈りが終わったら、すぐに来るって言ってたわ」

「ジル神父……か」

「あら、静流クン? 神父様がどうしたって言うの?」

「あのホモ神父、静流の親戚と高校のクラスメイトだったらしいぞ?」

「静流クンの親戚?」

「ええ。そうらしいんです」


 そんな事を話していると、またエレベーターがの駆動音が聞こえた。


「来たか、妖怪め……」

「オチビ! アノ人が妖怪だと、私は何なのよ!」


 郁の言い草に腹を立てたアマンダが、郁に食って掛かった。

 その横にいた静流が、一瞬でいなくなった。


「お待たせぇ♡ 静流クゥン」

「カチュア先生? お、おはよう、ございます?」


 カチュアは、いつの間にか静流をお姫様抱っこしていた。


「ムフゥ。イイ匂い。お風呂上りみたいね?」

「すいません。恥ずかしいんで降ろしてもらっても?」

「あら、ごめんなさいね。ついうっかり」ペロ


 カチュアは悪戯っぽく舌をペロっと出し、静流を立たせた。


「姉さん!? 油断も隙もあったもんじゃない」

「むぅ。目にも止まらぬ早業」


 アマンダは溜息をつき、忍はむくれた。


「おう、生きておったか妖怪」

「オチビこそ、相変わらず1ミリも成長してないわね」

「クッ! 口は達者のようだな」


 郁に続き、ルリがカチュアに挨拶した。


「ご無沙汰してます先生、覚えてますぅ?」

「ああ、オチビといつも一緒にいた子よね? 今回のクランケとも」

「ええ。先生、心なしかお肌の具合が以前より良くないですか?」

「嬉しい事言ってくれるわね。わかるぅ?」

「ええ。艶っぽいと言いますか……」

「女はね、努力と根性、ほんの少しの奇跡で、幾らでも若返るのよ♡」


 そんな事を話していると、後ろから奇声が上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る