エピソード45-4

 抽選会が終わり、帰りのバスの中、真琴が静流に聞いた。


「静流?『国尼祭』の三日間って、例の仕事が入ってるわよね?」

「そうなんだ。シズムには悪いけど、僕の代役頼むね?」

「その件なんだけど、静流クンの代役、ブラムちゃんがやりたいって言ってるよ?」

「ブラムが? でもアイツはコッチの仕事のサポートを頼みたいんだよな」

「私は問題無いから、どんな状況でも対応できるよ」

「頼りにしてます。シズム様ぁ」


 静流はシズムの頭を撫でてやる。


「へへぇ。褒められちゃったぁ」

「ねぇ、さっきの土屋とのやり取りって、静流の指示なの?」

「品評係を引かせたのは僕の指示だったけど、シズム、品評係を達也と交代したのは何で?」

「その方が、何かと都合がイイと思って。余計だった?」

「とんでもない。よくやってくれたよ」


 静流はロディの気配りに感心した。


「まぁ、結果オーライかな? ドサクサに紛れて、僕と交代するつもりだったんだけど、達也たちに白い目で見られるとイヤだし」

「私もいるから、当日は安心して仕事に取り組んでよね」

「うん。サンキューな、真琴」ニパァ

「ふぁう、眩しい」

 

 不意打ち気味に決まったニパに、真琴はよろけ、吊革にしがみついた。


「ほんと、目の保養ねぇ」

「お兄たん、ちゅきぃ♡」


 ふと周りを見ると、ニパを浴びたらしく、椅子に座っていたオバさんや、5歳くらいの女の子まで、緩んだ顔で静流を見ていた。


「はいはい。お嬢ちゃんにはまだ早いかもね?」ギロ

(盛ってんじゃねえぞ? マセガキィ)


 苦笑いを浮かべ、真琴がそう言うと、女の子は萎縮した。


「このお姉たん、こわぁい」

「おいおい真琴? 小さい子に何て態度を。はいはい、お姉たん怖かったね、ごめんねぇ」 


 慌てて静流がフォローし、女の子の頭を撫でてやる。

 女の子は静流に撫でられながら、真琴にドヤ顔を見せた。


「へへぇ……ペロ」

「ご、ごめんなさいね」

(きぃ~っ!)




              ◆ ◆ ◆ ◆





五十嵐家 静流の部屋――


「ただいまぁ」


 そう言うなり自分の部屋に入る静流とシズム。

 入るなりパパッと制服を脱ぎ、瞬く間に部屋着に着替え、ベッドに寝転ぶ静流。シズムはデフォルトの豹になり、床で丸くなる。

 すると廊下でバタバタを足音が聞こえて、間もなくドアが蹴破られる。バァン!


「しず兄、展覧会、いつ?」 

「美千留!? 何だよ騒々しい、月末だよ、って来るのか?」

「行く。カナ子が行きたいってうるさくて」

「行っても面白く無いぞ? 露店とか出ないし」

「イイの。学校の中を見たいって。あとしず兄にも会いたいって」

「前にカナ子ちゃんに、ウチならいつでも遊びに来てイイって言ったのに。変に気を使われてるのかな?」

「しず兄には、一生わからないと思う」


 美千留のクラスメートであり、静流に憧れている上條カナ子にとっては、五十嵐家の敷居は、城壁の如く高い事を美千留は知っていた。


「ま、良くわかんないけど、その日は僕、いないから」

「な、何ですと?」    

「軍から仕事の依頼が来たんだ。その三日間、出突っ張りだから」


 静流から衝撃発言を聞いた美千留は、静流に食って掛かった。


「じゃあ、どうすんのさ! ロディに二役させるの?」

「その案が濃厚なんだけど、僕の代役をブラムがやりたいって言ってるらしいんだ」

「あの甘党暗黒竜が? 何で?」

「さぁね。スイーツでも食べられるとか、勘違いしてるんじゃないかな?」

「ぐぬぬぬ」


 そんな話をしていると、部屋着に着替えた真琴が窓から入って来た。


「やっほー美千留ちゃん、おや?ご機嫌斜めですなぁ?」

「何をのん気に。真琴ちゃんはイイの? しず兄抜きの『国尼祭』で?」


 美千留の矛先が真琴に向いた。


「しょうがないじゃん。大体面白く無いよ? ウチの展覧会」

「真琴ちゃんまで同じ事言うし……ぐぬぬ」


 代役の件で気になったのか、静流はブラムに念話を繋いだ。


〈ブラムさん? お暇?〉

〈シズル様、うん。ヒマだよ? ソッチ行こうか?〉

〈じゃあ、来て〉


 念話が終わった直後、クローゼットが勢いよく開き、ブラムが現れた。


「はぁーい。ブラムちゃん到着ぅーっと」

「いくら何でも、早過ぎじゃない!?」

「来たな? 甘党暗黒竜!」

「ミチル? その呼び方、敵意むき出しだよ?」


 ブラムが来た事を察知したのか、休止していたオシリスが起動した。


「ブラムちゃん、いらっしゃい」

「オシリスちゃん、お疲れ♪」


 そう言うとオシリスはブラムの肩にちょこんと乗って来た。


「で? アンタがしず兄の代役、やるんだって?」


 美千留が腰に手をあて、ブラムに尋問する。


「ああ、その事かぁ。もうちょっとなんだけどなぁ……」

「何だよブラム? 何か問題でも?」

「う、うん。その事なんだけどね、ウチじゃなくて、他の子がシズル様の代わりをやりたいって言うの」

「ん? 誰?」

「カオルコだよ♪」


「「え? 薫子お姉様が!?」」


 静流と美千留は、ここで薫子の名が出るとは予想外であった為、驚きもひとしおであった。


「あの子も竜族の血が入ってるでしょ? 『私にも出来るよね?』ってがっついて来てね。それでこの間から【化装術】の特訓をしてるの」

「そうなんだ。で、どうなの? 実際の所?」

「う、う~ん。もうちょっとなんだけどねぇ……」

「随分と歯切れの悪い言い草ね?ブラムちゃん?」


 そんなやり取りが行われていると、クローゼットがまた開いた。


「よいしょっと。やあ皆さん、御機嫌よう!」


 クローゼットから出て来たのは、静流?であった。


「誰? 僕?」

「お! 上手く化けられたね。カオルコ」

「薫子、お姉様なの?」

「違うよ美千留。僕は静流だってば」


 そう言って静流の横に座る薫子。


「へぇ。スゴいね。声もそっくりだ」

「でしょう? これならOKでしょう? 師匠♪」


 そう言って薫子はブラムの返事をワクワクしながら待っている。


「うん。確かに上達してるね。でも?」パチ


 ブラムは指パッチンをすると、瞬時に静流に変身する。


「ロディちゃんもお願い出来る?」

「望む所です」シュン


 最後にロディが静流に変身すると、本物を含め、四人の静流が完成した。


「うわ。壮観ね。静流が四人。抱き枕に一つ頂戴?」


 真琴の冗談に、アンノウン静流が乗って来た。


「本物が誰か当てて見な。そしたら前向きに検討してみるよ」

「その言葉、忘れるんじゃないよ?」


 アンノウン静流の挑発に、真琴は腕まくりをして、気合を入れる。


 静流A「おいおい真琴? 冗談も大概にしなよ?」

 静流B「そうだぞ? 僕は抱き枕じゃないし」

 静流C「でも、報酬次第でやらない事も無いけどね」

 静流D「何だか気持ち悪いな。分身の術って感じでもないし」


 今の会話で、真琴は誰が本物か、わかったようだ。


「ふむふむ。本物の静流は、コイツだ!」ビシッ


 真琴は、最後のセリフを吐いた静流Dを指した。


「果たして正解は……私です」シュン

「ロ、ロディ……」


 静流Dはロディだった。


「じゃあ私が当てる。本当のしず兄は……これ!」


 美千留は静流Bを指した。


「これって言うな! そうだよ、僕が本物……じゃないんだな、コレが」パチ


 指パッチンをして変身を解除したのは、何とブラムだった。


「後は本物と薫子お姉様って事?」

「そうなるわね。美千留ちゃん、当てに行くわよ?」

「がってん」


 残る静流はAとCだが、見た目では判断が付かない位、擬態は完璧であった。


「見た目は完璧。あとは……」クン


 美千留は二人に近付き、匂いを嗅ぎ始める。

 真琴もそれにならう。


 静流C「美千留? お前はイヌか?」

 静流A「真琴まで? 恥ずかしいから止めてくれよぅ」


 二人は静流たちの匂いを嗅ぎまわるが、何か迷っているようだ。


「う~ん、この甘い匂い、似ている。やっぱ同族だから?」

「そう言う美千留ちゃんからも、近い匂いがしてるね、クン」

「さぁ、どっちが本物のシズル様かな?」


 ブラムが二人に回答を迫った。


「「こっち!!」」ビシッ


 二人が差したのは、静流Aだった。


「選んでくれてありがとう。正解は、ソッチだよ♪」


 静流Aは薫子で、静流Cを指さした。


「へへ。上手く騙せただろ? 僕だって役者の真似事みたいな事、やってるんだからね?」


 と言っても、ミフネの仕事は主にシズムがやっており、静流の出番はまだ無いが。


「ぐぬぬ、不覚を取った……」

「消去法がアダとなったか……」


 薫子が変身を解き、静流に抱き付いた。


「やったわ静流!」

「薫子お姉様、スゴいね。苦労したんじゃないの?」

「そうなのよ。修行はもとより、師匠に上げる『貢ぎ物』の方が大変だったわ……」


 ブラムに与える『エサ代』が相当なものであったのは、言うまでもない。

 軍のアマンダたちは、どの様に『餌付け』したのか、気になる所ではある。


「師匠、コレで文句無しよね?」

「よし、免許皆伝! おめでとう!」グッ!


 薫子の問いに、ブラムは親指を立て、ウインクをした。

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