エピソード40-11

駐屯地内 第3教場――


 騒動が沈静化し、受講者たちは教場で待機していた。


「いきなり実戦だったし、緊張したわよね」

「でもさぁ、スゴく術のレベル、上がったよね?」

「そうなの! それで、さっき告られちゃった」

「私も! どうしよっかな」


 誰かが前に言っていた『吊り橋効果』と言うものなのだろうか?


「ジョアンヌ、アナタ一体何人に告られたの? で、どの方とお付き合いするの?」

「迷うわよねぇ、やっぱ顔、なの?」

「ちょっとみんな、落ち着きなさい!」


 浮かれているみんなに、ジョアンヌは言った。


「こんなのは一過性で、すぐに冷めるわ。 恋とか、それこそ愛には程遠いわね」

「ジョアンヌがそれを言う? 指名数ばっかり自慢してたアナタが」

「目が覚めたのよ。あの方に教えてもらったから……」ポォォ


 そう言うとジョアンヌは、頬を赤く染め、うつむいた。


「もしかしてアナタ、大尉殿にまたアタックする気?」

「まさか。私なんか、相手にもされないわよ」

「えらく謙虚じゃない? アナタにしては」

「少なくとも今じゃダメ。アタックは、もっと女を上げてから。私なんてまだまだ序の口よ」


 そんなジョアンヌを少し離れた所で見て、みのりは溜息をつき、ケイに言った。


「ふう。敵わないなぁ」

「何が? みのり?」

「あのジョアンヌを、娼婦から乙女に昇華させたわ」

「大尉殿の事?」

「うん。私なんかじゃ、もっと相手にされないのがオチよね……」

「そぉかなぁ? 褒めてたじゃん、みのりの事」

「本当? ワンチャン、あるかも?」

「ジョアンヌだって、全然諦めてないみたいだよ?」


 ふとジョアンヌの方を見ると、数時間前に比べると、自信に満ち溢れている、イイ顔になっていた。


「ケイはどうなのさ? 大尉殿の事」

「カッコイイとは思うけど、ロリコンなんでしょ?」

「ちょっと、声大きい」

「あっちの隊長さんと仲イイみたいらしいし」

「ああ、榊原中尉ね。ちょっと驚いたわ」

「あの隊長さん、背は私とどっこいだもんね。あ、胸は私の方があるけど」

「ケイ? それ、間違っても本人の前では言っちゃだめよ!」

「え? わかった」

「でも実際、結構重要よね? そこの所」

「大尉殿のタイプって想像付かないな」


 みのりは、シズルーの理想のタイプを想像する。


「あー、全くもって謎ね。大尉殿のストライクゾーン……」


 みのりは頭を抱え、天井を見た。それを見てケイがつぶやいた。


「でもさぁ、あの髪の色、地毛だったら、神様の親戚? とか?」

「静流様と? 姓は五十嵐ではないわね。似てるけど」


 みのりは顎に手をやり、思考を巡らせる。


「ん? って事は、萌とか美紀真紀とも知り合いって線が濃厚よね?」

(美紀からのメールにはそんな事、全然書いてなかったなぁ……)

「じゃあ、澪先輩と佳乃先輩とも自動的に知り合いって事になるよね?」

「確かに。直接聞いてみるか」




              ◆ ◆ ◆ ◆




 暫くすると、数人の講師たちが教場に入って来た。

 その後にジェニーとルリ、シズルーは最後に入って来た。


「きゃあ! シズルー様ぁ……」

「先ほどの消火活動、素敵だったわぁ……」


 代表の講師が一歩前に出る。


「皆さん、先ほどはお疲れ様でした。皆さんの活躍の甲斐もあり、最終的に負傷者はゼロでした!」


「よかったぁ、皆さんが無事で」ざわ…

「うわぁ! もしかしてスゴいのかな? 私たちって」ざわ…


「はい静かに。今回の経験を活かし、精進に励みなさい」



「「「「はい!」」」」



 次に、講習の修了証授与式を行う。

 受講者は、講習修了の証として、回復術士講習の修了証と、身に付けるプレートが授与される。


「では手渡し役を、イガレシアス大尉にお願いします」



「「「「きゃぁーっ♡」」」」



 代表の講師が、シズルーを指名して来た。

 たちまち黄色い声が湧き上がる。


「待ちたまえ、私は臨時講師だ。その様な大層な役は務められんよ」

「通常ならば。ですが、今回は満場一致で大尉、アナタにお願いしたいのです!」パチパチパチ


 周りの雰囲気的に、無理に拒否するのはマイナスと判断したシズルー。


「うむ。了解した」

「では前に」


 シズルーが教壇に立つと、横にいる講師が受講生の名前を呼ぶ。

 呼ばれた受講生は前に出て、シズルーから証書等を渡される。


「よく頑張った。これからも精進するのだぞ?」

「はい。ありがとうございました」ポォォ


「ジョアンヌ・ロドリゲス兵長!」

「はい!」


 ジョアンヌが呼ばれ、シズルーの前に立った。


「ふむ。顔色が良くなった。数時間前とは別人だな」

「全て、アナタ様のお陰……です」ポォォ

「それは違う。心持ちひとつで、人は変われる、という事だ」

「そう言う事にしておきます。ありがとうございました」ポォォ


 清々しい顔で証書を受け取ったジョアンヌは、下がって列に戻った。


「白木みのり兵長!」

「はい!」


 みのりが呼ばれ、シズルーの前に立つ。


「貴君の回復魔法は、実に興味深い。一度じっくり観察してみたいものだ」

「本当ですか? 私ならいつでも構いませんよ?」ポォォ


 証書を受け取ったみのりは、ホクホク顔で下がって列に戻った。

 最期の受講者となった。


「谷井蛍上等兵!」

「はい!」


 ケイが呼ばれ、シズルーの前に立つ。

 するとシズルーは、ケイの目線に合わせ、中腰になる。


「うむ。目覚ましい成長ぶりだ。将来が楽しみだ!」

「はぅぅ」


 シズルーはまたもやケイの頭をくしゃっと撫で、イイ子イイ子した。



「「「「!!!!」」」」



 一同はこの光景をガン見して、少し引いている。

 これで、すべての受講者に証書が授与された。


「最後に大尉、一言頂けますか?」

「わかった」

 

 これまでの流れから予想して、大方そうなると思っていたシズルー。


「貴君らは、数時間前に比べ、飛躍的に能力が向上した。しかし、これに奢る事無く、日々精進に努めるべし」


「「「「はい!」」」」


「貴君らはこれから先、幾多の逆境に立たされるやも知れんわけだが、そのような時は、今日あった、『人に感謝される』気持ちを思い出すのだ。私からは以上だ!」



「「「「はい! ありがとうございました!」」」」パチパチパチ



 終了証の授与式が終わった。

 ジェニーが手をポンと打ち、一同に告げる。


「さぁ、このあと食堂でささやかな打ち上げ、やるわよ♪」




              ◆ ◆ ◆ ◆



療養所 事務所―― 


 一服している間に、睦美と念話するシズルー。


〔睦美先輩、お疲れ様でした〕

〔ああ、お疲れ〕

〔僕に付きっ切りでしたけど、授業とか大丈夫だったんですか?〕

〔問題無い。今は保健室にいるからな。フフフ〕


 睦美は、保健室のベッドにノートPCを置き、寝そべりながら念話している。


〔まさか、仮病使ったんですか?〕

〔なぁに。バレたら校長の指示とか、言い訳は何とでもなる〕

〔まあ、何とかなっちゃうんだろうと思いますけど〕

〔意外だったのは、あのジョアンヌの変貌ぶりだろうな〕

〔これを機に、変な遊びには手を引いてもらいたいですね〕

〔彼女にも事情があるのだろう。静流キュン、キミはまた一人、救ってしまったワケだ〕


〔そんな大層な。でも、ケイさんをヤケにひいきしてますよね?〕

〔キャラ設定だよ、静流キュン〕

〔それってやっぱ、ロリ設定ですか?〕

〔うむ。余り露骨にやると、ただの変態になってしまうので、ほどほどにね〕

〔さっき、引いてましたよ、みんな〕

〔その位でイイ。どうせこのキャラは『幻』なのだから〕

〔フフ。そうですね。あ、このあと打ち上げがあるんですよ〕

〔藤堂少尉にお礼をしないとね。わがままを通してもらったんだ〕

〔わかりました。お願いしますね〕ブチ


 念話を切り、ため息をつくシズルー。


「はいはいお疲れ様♪ 食堂に行くわよ!」

「あと打ち上げで終了ですね。了解しました」

「ねぇ大尉殿? お願いがあるの」

「何です?」

「打ち上げの後、記念写真とか、ダメかなぁ?」

「写真? 残るものはちょっと……どうしようかな」

「イイじゃない、あの子たちのこれからの活躍を祝って、ね?」


 ジェニーはウィンクしながら手を合わせ、シズルーを拝んだ。


「その後の処理、完璧にお願いしますね?」

「勿論! 任せて頂戴!」


 ジェニーは自信満々にそう言ったが、果たしてそう上手く行くだろうか。

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