エピソード40-8
療養所 事務所――
事務所に戻って来たジェニーは、開口一番、シズルーを褒め称えた。
「よくやったわ静流クンもといシズルー大尉! 想像以上のデキよ!」
「僕は、ルリさんの言う事をそのまま言っただけですよ? 僕の先輩の真似で」
「それにしたって、キミ、結構役者とか合ってるかもね?」
「え? 僕の演技なんて、学芸会レベルですよ? ダイコンもイイ所です」
「そうかしら? みんなアナタにメロメロみたい♪ ほら」
シズルーがルリの方を見ると、緩みっぱなしの顔をしたルリが鼻息を荒くしてシズルーを見ていた。
「ああっ、シズルー様、素敵」ハァハァ
「ルリさん? 落ち着いて下さい、どうどう」
引き気味のシズルーが、今にも飛び付いて来そうなルリを警戒している。
ふと窓の方を見ると、受講生以外の女性隊員たちがひしめき、潤んだ瞳で両手を頬に当てる、『恋する乙女ポーズ』を取っている。
「うぉ!? バッチリ見られてた。今のやり取り、大丈夫だったかな?」
一瞬ぎょっとしたが、まだシズルーのままだったのを思い出し、表情を硬くした。
愉悦に浸り、ドヤ顔にも似た形相のルリが、窓の外のギャラリーを一瞥し、ブラインドをシャッと閉めた。
「問題無いれすよ。外のガヤなんて、心ここにあらず、れすから」ポォォ
そう言っているルリにも、同じ事が言えよう。
「キミ、やるじゃない! 痛快だったわ! ジョアンヌの鼻っ柱、へし折ってくれたでしょう?」
「でも、ちょっと言い過ぎだったんじゃないでしょうか? ジョアンヌさんに、恥をかかせてしまったようで……」
「イイのです! 私の、もとい私たちのシズルー様に、アノ様な狼藉を働くとは……許すまじ」フー、フー
ルリの怒りが沸点に達しそうになって、今にも湯気が上がりそうになっている。
「さっきの『相手に求められるがまま』ってどういう事です?」
「それを聞く? なぁんだ、意外と興味あったりして」
ジェニーはこのぉ、とシズルーをつついた。
「え、ええ。本当に興味本位ですけど」
「ジョアンヌは、アノ容姿ですから殿方のご指名は常にトップです」
「ご指名って?」
「そこからですか? 彼女が所属している部隊、『キューティー・デビルズ』は、報酬次第で男性隊員の性的欲求の処理も請け負う、言ってしまえば『風俗部隊』なのです!」
「そんな部隊があるんですか?」
「確かに需要はあるわね。男性隊員たちが、外で問題起こしたりしたら本末転倒だもんね」
「私は、女性隊員だって欲求不満になることだって……いけない、脱線しましたね」
ルリは、危うく自分の欲望をシズルーにぶちまける所を、ギリギリで踏みとどまった。
「つまりジョアンヌは、『マグロ』って事なの? ルリちゃん?」
「マグロ? ですか?」
シズルーは首を傾げ、ぽかーんとしている。
「『マグロ』とは、ベッドの中で何もしない、例えるなら『冷凍マグロ』のような状態の事です」
「つまり、ダッチワイフみたいなものよね?」
「そうです! 無抵抗の、完全なる受け身。それでは殿方は満足しません。いくら指名数が多くても、肝心なのは『リピート数』ですから」
「うわぁ、大分生々しい話になりましたね、ドン引きです、もう止めましょうこの話」
「そうですね。いかにあのメス豚が汚らわしいか、おわかり頂けたでしょうから」フー、フー
ルリは鼻息を荒くしてそう言った。
「そんな事やってて、ジョアンヌさんは楽しいのかなぁ?」
「さあね? あの子にはイイ薬よ。この後もその調子でお願いね♪」
「女心と秋の空……か。わからないもんですね」
◆ ◆ ◆ ◆
「すいません、ちょっと学校の先輩と連絡取りたいんですが」
「ええ、どうぞ」
開いている机に座り、不可視モードで休止状態のオシリスを起こす。
「ちょっと起きて、オシリス」
「なぁに? 鬼教官サマ?」
「鬼じゃない。と思うんだけどなぁ」
シズルーが得体の知れないものと会話しているのを、軍医とその助手は、不思議そうに見ていた。
「ちょっと静流クン、その小動物は何?」
「あ、僕の使い魔的な奴です。オシリスと言います」
「どーも! アナタたち、静流を召喚するなんて、命知らずもいたもんよね?」
「こら! 人聞きの悪い事言うな!」
そんな主人と使い魔のコントを見せられた二人は、引き気味に感想を述べた。
「カワイイ容姿には似合わない毒舌ですね……」
「悪魔? なのかしら?」
「違います。コレでも元『精霊』ですよ?」
「何ですって?」
元精霊と聞いてオシリスをガン見する二人。
「要するに、肉体は滅びたけど、中身はココって事」
「ふむ。興味深いわね」
「先に言うけど、解剖とか分解はお断りよ!」
「あら、残念」
シズルーはオシリスに向き直る。
「さぁ、睦美先輩と念話するよ」
「オッケー」
シズルーは、オシリスを介し、睦美と念話を繋いだ。
〔睦美先輩! 応答せよ。見えてます?〕
〔ムハァ、静流キュン、もといシズルー大尉、お疲れ様です!〕
〔ふざけてないで、観てたんですよね? 今までの所〕
〔バッチリ観てた。最高だったよ。あの藤堂さんって人は、相当のヤリ手だね〕
〔そうでしょうか。睦美先輩だったら、どう振舞いました?〕
〔そうだな。先ずはあのジョアンヌとやらを骨抜きにしてやる、かな?〕
〔聞いた僕が間違ってました。今のは忘れて下さい〕
〔まあ、あの女、もうほとんど骨抜きになっているがね〕
〔そんな、マズいじゃないですか?〕
〔上手く振ってやるんだね。私は高みの見物としゃれこもう〕
〔他人事だと思って、ヒドいなぁ〕
〔とにかく、先ほどの調子で乗り切るんだ。キミなら出来るさ〕
〔はいはい。真摯に、且つ前向きに、善処します。では〕ブチ
睦美との念話が終わり、ため息をついた静流。
「ふう。助言も何も無かったなぁ……ああ、しんど」
「結構サマになってたわよ。鬼教官サマ?」
「なんだよオシリスまで……ああもう、こうなりゃヤケだ!」
◆ ◆ ◆ ◆
薄木航空基地 第7格納庫――
所変わってここは薄木航空基地、第7格納庫二階の事務所。
思いつめた顔の澪は、すくっと立ち上がり郁の方を向く。
「隊長、お話が」
「何じゃい、澪?」
「実質副隊長の私から言わせてもらいます。隊員たちの健康管理は当然ですが、回復、バックアップまでとなると、いささか無理が出て、私一人ではオーバーワーク気味なのですが」
「何が言いたいのだ? もっと簡単に言え!」
「では単刀直入に。ウチの隊に、回復術士を入れては如何かと」
要約すると、副隊長扱いの澪は、何かと押し付けられてしまう為、人員を増やして欲しい、との事らしい。
「確かに。先日のミッションでも、静流めがいたから全員無事であったが、いなかった場合を想像するとゾッとするな」
「上に稟議を上げても?」
「うむ。許可する」
二人の会話を聞き、工藤姉妹と萌は、澪に話しかけた。
「澪先輩、丁度今、太刀川で回復術士の講習会やってるらしいですよ?」
「そこに、私らも知ってる子が参加してるみたいですよ?」
「上手く行けば、引っこ抜けるかもね?」
「誰なの? 萌ちゃん」
「フフ。今は内緒、でーす」
「んもう! 勿体ぶらないで教えてよ!」
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