エピソード36-2

生徒会室―― 放課後


 終わりのHRが終わり、静流は真琴と共に生徒会室を訪れた。


 コンコン「失礼しますっ」ガラッ 


「やあ静流キュン、どうだった? 軍の保養施設は」

「イイ所でしたよ。機会があれば是非今度ご一緒に」

「イイのかい? 私は民間人だよ?」

「実は、ひょんな事から、保養施設の『無期限フリーパス』を入手しまして」

「何だって!? それは凄いね」

「軍の人にエスコートしてもらえば、僕らでも問題ないって支配人さんが言ってました」


 そう言って静流は、メッセンジャーバッグの中から二つの箱を取り出した。


「これがその時のお土産です」

「ありがとう。気を使わせてしまったかな?」

「いつも美味しいクッキー、頂いてますんで」ニパァ

「くぅっ! 休み明けには効くなぁ。たまらんっ」


 睦美は久々のニパにのけ反った。


「開けてもイイかい?」

「どうぞ。実はまだ僕も食べてないんですけどね……」

「何でも病みつきになるって言ってましたよ。先に食べた人が言うには」

「ふむ。どれどれ? ん?」


『ククルス島銘菓 ポセイドン饅頭』


「コレはオーソドックスなお饅頭です。メインのはソッチです」


 睦美がもう一つの箱の包みを開けると、黒い箱にこう書いてあった。


『ククルス島 夜の銘菓 電気ウナギパイ』


「なにやら面妖なタイトルだな……」

「お土産担当の方がオススメだって言うんで買ってみたんですけど……」


 静流が不安そうな顔で睦美を見ている。


「よし、頂こう! 楓花、お茶」

「はいはい。私、これでもまだ生徒会長なんだけどなぁ……」

「手伝いましょうか? 会長?」

「イイのよ真琴さん、座ってて」

「恐縮です」


 生徒会長はそうこぼしながらも、お茶の用意を始める。


「そうか。もう二学期だから、三年の生徒会役員はもうすぐ交代ですね?」

「月末に役員選出があるからね。私たち三年は、晴れてお役御免ってわけだ」

「次の会長さんって、誰が有力なんです?」

「こちらで選定させてもらっている。大丈夫。ぬかりはないさ」


 睦美は余裕の笑みを静流に送った。


「私としては、静流キュンに会長をやってもらいたいけど、目立つの嫌いでしょ?」

「無理です無理です! 目立つ以前に無理です!」


 会長の無茶ぶりに、静流は顔をブンブンと左右に振り、全力で拒否した。


「そこまで拒絶しなくても。適任だと思ったんだけどなぁ」

「会長、こいつじゃ無理ですよ。ただ、出馬したら受かっちゃうんでしょうけど」

「真琴!? そんな事冗談でも言わないでくれ!」

「こいつ、人気だけはあるから」

「それは、『薄い本』のせいでしょ? 二次創作なんだよ! 本物の僕なんて、何も、出来ないんだから……」

「ちょっと意地悪だった。ゴメン、静流」


 静流は、自分が有名人なのは『薄い本』のせいである事が気に入らない。

 教室で朋子に言われた事もあり、静流は少しナーバスになっていた。

 そんな静流に睦美は聞いた。


「静流キュンは今もなお、『薄い本』には嫌悪感を抱いているのかい?」

「僕にとっては、百害あって一利なし、なんですよね。でもそのお陰で知り合った人もいて、正直イイか悪いかは、わかりかねてます」

「静流キュンの伯母上も、悪気は無かったんじゃないかな?」

「わかってます。本人もそう言ってましたから」


 静流は、言葉に詰まり下を向いた。


「静流キュン、ちょっとコレを見てくれないか?」


 睦美は一冊の『薄い本』を、静流の前に出した。


「何です? 睦美先輩? うん? こ、これは……?」



 『無免ライダー8823ハヤブサ VS サムライレンジャー』



 静流がページをめくる。


「あれ? まともだ。って言うか、うん、悪くないぞ? コレ!」


 静流が夢中になって『薄い本』を読んでいる。

 『薄い本』だけに、すぐに読み終えた。


「ふう、巻末の設定資料集も凄いな。これっぽっちもエロ要素なかったし。誰が作ったんだろう? ん!?」


 静流が最後のページをめくり、スタッフ欄を見ると、


『作:サラ・リーマン デザインワークス:荒木メメ 姫野ノノ』


「サラ? それにメメ君とノノ君が協力して作ってるのか?」


 留学先で知り合ったサラと、静流の中学からの後輩たちが手を組み、この作品を作ったらしい。


「どうだい? 『薄い本』も、食わず嫌いは良くないだろう?」

「まあ。でも、やっぱり全体の7、8割はソッチ寄りの内容ですよね?」

「現状はそうだろう。だが、こういったものが増えて来ているのも事実だ」

「確かにそうですね。僕の『薄い本』に対する認識を、改める必要がありそうです」

「実に結構。物事をニュートラルにとらえ、素直に受け入れられるのが、キミの処世術なのかも知れないね」


 そんな事を話していると、会長がお盆にお茶をのせ、運んできた。


「みんな、お茶が入ったわよ」

「おお、ご苦労」

「すいません。会長」

「イイのよ。『夜の銘菓』ってフレーズに興味あるのよねぇ?」

「スタミナが上がる、とか?」

「静流キュンがギンギンになった所、見たぁーい」

「これ楓花、はしたないぞ!」


 みんなにお茶と電気ウナギパイが渡り、試食の時が来た。


「では、頂こう」


「「「いただきまーす」」」サク


 睦美の号令に合わせ、同時に口に入れた。



「「「「ひべべーっ!!」」」」



 口に入れた瞬間、パイから微弱な電流が流れ、唾液を伝って全身が電気を帯びた。

 髪の毛が逆立ち、暫く口が思うように動かなかった。


「くぅっ、この刺激、凄まじいな」

「この感じ、電気風呂に入った時の事、思い出したよ」

「でもさぁ、二口目からはそうでもないよ。結構イケるわね」


 気が付けば真琴は、一つ目を完食していた。


「ん? ホントだ。悪くないかも」

「確かに珍味ではあるな。気付けにイイかもしれん」

「どの辺が『夜の銘菓』なのかは、今晩が楽しみよねぇ?」

「ククク。余裕があったら、レポを頼む」


 楓花の感想に、睦美は冗談混じりに乗っかった。すると、


「じゃあ静流キュン、今晩、私の部屋に来るぅ?」

「ひっ、それはマズいんじゃないですか?」


 会長は静流に流し目を送り、手招きする。

 静流はそんな事を言われ、あたふたしている。


「それはならん! 今のは取り消す!」バァン!

「フフフ、冗談よぉ、真に受けちゃって」


 睦美は机を叩き、立ち上がる。会長はクスクスとそれを笑っている。


「それはそうと睦美先輩、忍ちゃんが『進捗はどうだ?』ってしつこいんですけど」


 静流は、生徒会室に来たもう一つの用事を済ませようとしている。

 薫子たちは、行方不明の短期留学生として処理されている。

 薫子たちの無事が確認された以上、学校としての処遇を求めて、睦美が動いている件だ。


「ああ、ソッチの話か。お陰様で順調だよ」

「忍ちゃんは二学期から通う気満々だったんで、なだめるのに苦労しましたよ」

「それは申し訳なかったね。忍お姉様に『Xデー』は来年の新学期だと伝えておいてくれたまえ」

「やっぱそうなんですか? 校長を動かすとかなんとか言ってましたけど」

「うむ。時が来ればわかるよ。うん、この饅頭は安心して食えるな」


 そう言って睦美は、もう一つのお土産である、『ポセイドン饅頭』を口に入れた。

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