エピソード31-7

アスガルド駐屯地 魔導研究所 ブリーフィングルーム――


「じゃあ、インフラの整備はコレでイイのね? ロコ助ちゃん?」 

「問題無いニャ」


 如月アマンダ技術少佐は、インベントリ内のネコ型コンシェルジュ「ロコ助」と『インベントリ内仮設宿舎建設プロジェクト』の最終打合せを行っている。

 後ろの方でつまらなそうに机に突っ伏しているのは、石川仁奈少尉と有坂リリィ曹長であった。


「とりあえずは待機、か」

「ねえ、大丈夫かなぁ、静流クンたち」

「澪や佳乃、あと中尉もいるし、何とかなるでしょ?」

「それも、心配なのよね……中尉殿もさることながら、運転技術以外使い物にならない佳乃に、セオリーばかり気にして肝心な所が抜けてる澪、はぁ。心配だわ」


 いない者に対して容赦ない批評を述べる二人。その直後、異変は起きた。


 ビィィィィ!!


「何事?」


 少佐は警報を聞くと、すぐに内線を取った。


「侵入者の反応あり、場所は……そちらです!少佐殿!」

「何ですって!? みんな、落ち着いて」

「少佐! 壁に黒い穴が!」

「みんな、下がりなさい!」

 少佐の指示で全員が突如出来た黒い穴から離れる。

「さあ、何が出てくるのか、な?」

 リリィはストック兼ホルスターから、『ダディーナンブ』を取り出した。

「いきなりコレを使う事になるとは、ね!」

 仁奈もストック兼ホルスターから、『マミーナンブ』を取り出した。

 二人はグリップにストックを装着し、射撃態勢を取る。

「いい? 発砲は極力控えて」

「わかってますよ、少佐殿」

 一同が緊張して黒い穴を見守っていると、かすかに誰かの声がした。


〔気を付けるのよ〕

〔じゃあ、行って来ます〕


「ん? 今の声って?」

「静流クン、だよね?」


 みんながそれぞれの顔を見合って首を傾げていると、黒い穴から何かが出て来た。


「よいしょ、と。ん? うわぁぁ、う、撃たないで下さい! ぼ、僕ですよ、僕、静流です!」

 穴から出た瞬間、数人に囲まれ、銃を向けられている静流。

 腰を抜かし、手をバタバタさせ、慌てて自分だとアピールする。


「静流クン、どういう事?」

 少佐は腰に手をやり、静流の顔を覗き込む。


「ミッション、完了しました! であります!」

 静流は、腰が抜けたまま、完了の報告をした。

 

「と言う事は、この穴はアナタが作ったの?」

「は、はい。どうも」


 少佐の手を借り、立ち上がりながら、静流は概略を説明した。


「まあ! 素晴らしい! 本当に発見したのね?」

「ええ。何とか」


 少佐は静流の両手を握り、ブンブンと振り回している。


「静流クン、お帰り」

「やったわね、グッジョブ!」


 仁奈は少佐から静流を取り上げ、軽くハグしてきた。

 リリィは親指を立て、静流の功績を称えた。


「あ、それで、成功の証に、ちょっと来てみません? 塔の中に」

「ハイハイ! イクイク! 行きたぁ~い」

「当然行くわよ? 静流クン!」

「私も、イイかしら?」


 静流の誘いに真っ先に飛びついたのは、やはり少佐だった。

 次に好奇心旺盛のリリィ、仁奈の順であった。


「じゃあ行きます。とりあえず手をつなぎましょう」

 静流が右手を出すと、三本の右手が差し出された。

「私、です!」

「いいえ、私」

「これって、階級関係ないよね?」


 三人が睨み合っている。すると少佐が、


「私は、コッチでイイわ」

 おもむろに左腕に抱き付いた。

「わ、それ反則! じゃあ右を、うわ、仁奈!」

「悪いわね、お先に」


 リリイは出遅れた。


「もう、こうなりゃ、えい!」

 リリィは後ろから抱き着いた。


「ちょっと、待って、う、重い」

 リリィが抱き着いた反動でバランスを崩した静流。


「うわぁ!」

「きゃん!」

「きゃあ!」

「あいた!」

「うぐぇ!」

 

 静流と少佐、仁奈がほぼ同着、最後にリリィが静流に覆いかぶさった。


「てて。ん? 何ココ? あ、澪! 佳乃だ!」

「リリィ先輩?」

「ちょっと退いてよアナタたち、うわ。何?この建造物は?」

「静流クン、大丈夫?」

「え、ええ。大丈夫、です」


 無事かどうかはさておき、塔に少佐たちを連れて戻った静流。


「お帰り、静流」

「少佐殿たちを連れて来たって事は、成功でイイのね?」

「もう、バッチリ!」ニパ


 静流は白い歯を見せ、親指を立てた。

 



              ◆ ◆ ◆ ◆


 

ワタルの塔―― 2階 食堂


 アスガルド駐屯地から来た三人は、簡単に自己紹介をした。

「このプロジェクトの最高責任者である、如月アマンダ技術少佐です」

「石川仁奈少尉です。よろしくお願いします」

「有坂リリィ曹長です。よろしく」


「静流の伯母の五十嵐モモです」

「息子の薫だ。よろしく頼む」

「妹の薫子です。静流がお世話になっています」


 初対面同士の挨拶が終わった。

 

「それで、静流クンはランク3になったのね?」

「はい。何でも塔の位置を自由に変えられるとか」

「この塔に詳しいのは、以前報告があった、アナタでイイのね? 黒竜ブラム、さん?」

「うん。ウチはシズル様のしもべ、お茶目でセクシーなブラックドラゴンのブラムだよ!」

「本当だったんだ。まさかとは思ってたけど」

「まあ、静流クンだし? アリよね」

 

 三人に、これまでの概要を説明した。


 ・学園のゲートに繋がった先は、『流刑の街』と呼ばれ、かつては罪人を送り、隔離する為の施設だった事

 ・流刑の街にはもう一つゲートが存在し、異世界と繋がっている事

 ・流刑の街はドーム型になっており、所在は地球ではなく、恐らく辺境の惑星にあるという事

 ・辺境の惑星は砂漠化しているものの、大気があり、人工太陽がある。生物は、サンドワームを始めとする昆虫類しか確認されていない、という事

 ・コキュートスは砂の川であり、塔の近くに墜落したと思われる宇宙船を発見した事

 ・その宇宙船付近で静流の父、五十嵐静の持ち物が発見された事


 おおむね以上である。


「ふうむ。私の想像を遥かに超えているわね。つまり、ココは宇宙のどこかの星、という事なのよね?」

「そうみたいです」

「少佐、その壊れた宇宙船、軍で修理しましょうよ!」ワクワク

「リリィさんだったら、真っ先に言うと思いましたよ」

「わかる? だったら話が早いわ。そうだ、海軍の退役艦あったよね? それと【コンバート】させて、宇宙戦艦にしようよ!」

「リリィ、調子に乗り過ぎよ。少佐が困るでしょ」

 リリィの猛アタックに、少佐は終始黙っている。

「少佐? 大丈夫です……か?」

 リリィは少佐の異変に気付き、顔を覗き込んだ。すると、


「イイじゃない! ソレ! 大賛成よ」


 少佐は握りこぶしを作り、グイッとやった。


「ココは未知の惑星。新人族が今だ成しえなかった宇宙探索、地球外生命体の確認、人口増加に伴う惑星間の移住。全てが叶う! 行きましょう!『神の領域』に! マーベラス!」

 少佐はいささか芝居がかった振る舞いでクルクルと回り、手を広げ、悦に浸っている。


「盛り上がっている所、申し訳ないんですけど少佐殿?」

 モモが手を挙げた。

「何でしょう? 伯母上様」

 まだ芝居は続いているようだ。

「今の話はいささか想像を超えていますが、実現は可能でしょう。しかし、『新交通システム』もさることながら、宇宙開拓にまで及ぶとなると、『あの方』たちが黙ってはいない、と思うんです」

「『あの方』たち、とは?」

「『元老院』ですよ、少佐殿」

「ふっ、どこぞの老いぼれたちの集まりか。下らない」

「でも、伯母さんたちや薫子お姉様たちをここに飛ばしたり、ブラムに変な実験をしたりした組織ですよ? 警戒するに越したことは無いと思います」

「静流クン。そうか、アナタは平凡な日常に憧れていたんだったわね?」

「はい、今も、これからも変わらないでしょう。冒険? も興味無いと言ったら嘘になりますが」

 少佐はふうっと溜息をつき、こう言った。

「今回のミッション、失敗したと上に伝えようと思うの」


「「「「うぇぇぇぇぇー!!」」」」


 一同はぶっ飛ぶ位に驚愕した。

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