エピソード31-6

ワタルの塔―― 2階 娯楽室


 エレベーターが2階に着き、扉が開いた ベー


「よお静流、どうだったよ?」

「もうバッチリ、です!」ニパァ 


 薫の問いに、満面の笑顔で返す静流。

 静流は3階であった事をみんなに話した。


「ランク2を通り越して3って、スゴいじゃないの、静流クン!」

「いやぁ、実際スゴいのかはよくわからないんだけどね」

「この塔を好きな所に移動出来るんでしょ? 十分スゴいわよ!」

「それで、【ゲート】の構築はどうなったんでありますか? 静流様」

「うん。先ずはこの塔とインベントリを繋いで、流刑ドーム、アスガルド駐屯地、薄木、と僕ん家を繋げようと思う」

「それはイイでありますな。そうすれば、いつでもアノ動画が見れるであります。ムフゥ」

「塔とインベントリは、多分もう繋がってるよ」

「え? そうなの?」

「1階に行こう」


 全員で1階に降りる。静流、薫、薫子、ロディは階段、他の者はエレベーターを使った。


「えーっと、ここ、開けてみてちょ。もう使えるから」

「じゃあ、開けるよ? ブラム」


 ガチャ


 ドアを開けた静流が見た光景は、まさにインベントリ内の様子そのものだった。


「ここは安全だから、みんな、入ってよ」


 静流が手招きをするので、みんなはゾロゾロとインベントリ内に入って行く。


「ここがインベントリか。何も無いな」

「これで、元の世界と繋がったのね?」

「とりあえずは、だけど。これからもっと便利になるよ!」


 薫と薫子は肩を叩き合い、喜んだ。


「うむ。あの空間だな、ここは」

「確かにあの感じでありますね。おや、アレはもしや……」


 ちょっと離れた所に、見慣れたキャンピングカーがあった。


「あ、キャンピングカーがある! やったあ!」


 静流は嬉しさの余り、ピョンピョンと跳ねている。


「あ、ちょっと思いついた。ロディ、ちょっと」

「何でしょう、静流様」

「口開けてみて?」

「畏まりました、静流様。あーん」


 静流はロディの口に顔を突っ込んだ。すると、


「ばぁ!」


 突然開いた穴から、静流の顔が飛び出した。


「うわぁ、驚かすなよ静流」

「そこから静流様が出て来たって事は……繋がっている? のでありますか?」

「そうですね。とりあえず成功って事です」

「じゃあ、【ゲート】の構築する?」

「うん。お願い」




              ◆ ◆ ◆ ◆




ワタルの塔―― 1階 ロビー


「最終的には、軍や国がバックに入って、インベントリ内に中央ターミナルを作って、各地と【ゲート】で繋ぐんだけど、とりあえずの移動手段は作っておきたいんだ」

「ここに大勢が来る事は、あまりお勧め出来ないなぁ」

「何でかな?」

「セキュリティ面が心配だなぁ」


 ブラムに言わせると、2階にゲートを構築するのはセキュリティ的にお勧め出来ないらしく、壊れたスロットも修理する方がイイと言っている。


「これだけの施設だからね。見せてないけど、武器もあったりするから、セキュリティ面はちゃんとしないとね」

「軍は信用出来るのかしら?」


 忍は軍人たちに意見を求めた。


「上の者が何を考えとるかはわからんが、私たちは信用に足ると思うぞ!」

「確かに、如月技術少佐より上の方たちは、要注意でしょうね」

「ひと段落したら、アマンダさんに相談しよう」


 また相談事が増えた。


「先ずは、流刑ドームと繋げて、伯母さんに報告しよう」

「シズル様はやり方を教えて、経験を積んでからの方がイイね。じゃあ、カオルコ、やってみる?」

「私? 出来るかしら?」


 ブラムにいきなり振られ、少し不安になっている薫子。


「いっぺん作ったって聞いたよ? さあ、やってみなさい」

「わかったわ。兄さん、ワタシに任せて。大丈夫よ」


 薫子はブラムにレクチャーを受けている。


「よし、やってみて、カオルコ」



「行きます! 【ゲート・オープン】!」


 

 呪文を唱えた薫子は、右手を零時に合わせ、人差し指を立て時計回りに一周回す。すると、


  バチバチィ


 手を回した軌跡の通りの黒い円が出来た。それを両手で持ち、指定された壁に押し付ける。


「【ゲート・フィックス】!」


  シュゥゥゥ


 壁に円形の空間窓が出来た。


「成功、なの?」

「ちょっと行ってくるね」


 ブラムはそう言うと、壁の中に入って行った。

 暫し沈黙が続く。



「ブラム大丈夫、かなぁ?」

「お、帰って来たぞ?」


 ブラムの顔が壁から出て来た。


「イイ? 行くよ! それ!」


 ブラムが誰かの手を引いて出て来た。


「お? 何だここは? あ、兄貴!」


 リナが誰かの手を引きながら出て来た。


「まぁ、素晴らしい! みなさん、ごきげんよう」


 雪乃がまた誰かの手を引きながら出て来た。


「ここは、塔の1階ね? やったわね、静流」


 最後は、モモであった。


「お母さん!」

「薫子! あなた、元に戻れたのね?」

「母さん! やったよ。全て上手く行った!」

「お疲れ、薫」


 親子の再会を、一同で見守った。

 抱き合って喜びをかみしめている三人。


「よかったですね、伯母さん」


 静流はモモに声を掛けた。 


「静流、あなたには本当に感謝してるわ。薫子はあのままだと、大変な事になっていたんだから」

「いやいや、当り前の事をしたまでですよ。だって『同族』ですから? フフフ」


 静流は脳内で、「よし、決まった!」とガッツポーズを決めた。


「上手い事言いやがって、このお」


 薫は静流にヘッドロックを掛けた。


「うぐ、少しカッコ付け過ぎました? 薫さん」


「いいや、今日のお前、超カッコイイぜ! うん、惚れた!」パァァ


 薫が例の決めゼリフを吐いた。


「お! 兄貴が久々に『惚れた』を使ったぜ!」

「ええ。今日の薫は、あの輝いていた頃のようだわ。惚れ直しましたわ!」

「あぁ? てめえズラ、どさくさに紛れて何言ってんだ! 惚れ直したのは、オレだ!」


 薫の嫁候補たちが言い争っているのを、他の一同はあたたかく見守った。

 ここで、薫はある一点について気になる事があった。


「おいブラム、お前、【ゲート】構築出来るんだったら、ハナからドームと塔を繋げばよかったんじゃねえの?」

「う? 確かに。位置出しにちょっと苦労したかも?だけどね」

「おいおい、塔まで行くのに結構ヤバイのあったよな?」

「いいじゃん。結果オーライだよ? スリル満点の冒険活劇だよ!」

「お前なぁ……ま、イイか」




              ◆ ◆ ◆ ◆





「じゃあ、次はアスガルド駐屯地ね? シズル様」

「え? 僕がやるの?」

「【ゲート】の構築は、一度以上行った事がある所のイメージが大事なの」

「わかった。やってみるよ」

「カオルコ、サポートをお願い」

「わかったわ」


 二人からレクチャーを受けた静流は、魔法発動の準備に入った。


「静流、ゲートを繋ぐ先をイメージして。自分のタイミングで発動するのよ」

「わかった!」


 静流は目を閉じ、アスガルド駐屯地をイメージする。



「来た! 行くぞ! 【ゲート・オープン】!」


 

 呪文を唱えた静流は、右手を零時に合わせ、人差し指を立て時計回りに一周回す。すると、


  バチバチィ


 手を回した軌跡の通りの黒い円が出来た。


「いいわよ、じゃあそれを両手でしっかり掴むのよ」

 

 静流は黒い円を両手で持ち、指定された壁に押し付ける。


「今よ!【ゲート・フィックス】」

「【ゲート・フィックス】!」



  シュゥゥゥ



 壁に円形の空間窓が出来た。


「うん。とりあえず成功かな? ちょっと行って来て、静流」

「わかったよ、お姉様」

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