エピソード18-1

アスガルド駐屯地 魔導研究所―― 朝


 起床後に朝食を済ませ、検査のため静流は魔導研究所に行った。


「自分はロビーにて待機しているであります!」

「ええっ! 付いてきてくれないんですか?」

「イイのでありますか? 静流様の全てが見られるなら、喜んでお供するでありますが」ムフゥ

「やっぱり、イイです。そこで待ってて下さい」


 静流は不安ながら、ひとりで行くことにした。


「えっーと、所長室はっと、あ、アマンダさん」


 奥からコツコツとハイヒールの音をさせ、技術少佐が寄ってきた。


「おはよう、静流クン。早速だけど、所長を紹介するから、付いてきて」


 少佐と静流は、エレベーターに乗り3階で降りた。


「コンコン、失礼します。五十嵐クンをお連れしました」

「入りたまえ」


「始めまして、五十嵐静流です」

「ここの所長をやっとる、春山譲二じゃ。まあ、そう固くならんでエエ。リラックスじゃて」


「はぁ。でも検査なんてあまりやった事無くて……」

「大丈夫じゃ。そこの少佐に任せておけばよい。のう、少佐?」


「はい、お任せください」

「ワシの方からはちと確認したい事があっての」


「はい、何でしょう?」

「井川シズムはお主なのかぇ?」


 所長はいきなり確信を突いた。


「ええ。あのキャラクターは僕が都合の悪い時に使う、影のようなものでした。今回の女子校潜入ミッションで使用しました」

「ちいと見せてはくれんかのう?」

「イイですよ。見た目だけなら」シュンッ


 静流は操作パネルを操作し、シズムにチェンジした。


「本当は色々装備を付けるんですが」

「むほぅ。シズムちゃんじゃ、シズムちゃんじゃ」


 所長はいろんな角度からシズムを舐め回すように観察している。


「静流クン、ちょっと」


 少佐が耳打ちをした。


「所長は『幼女マニア』なの」

「それって別名『ロリコン』と呼ぶのでは?」

「そうとも言うわね」


「僕位のお孫さんがいるとか」

「それくらいなら可愛いものだけど、所長は『筋金入り』よ」

「ガチって事ですか? うわぁ、マズいな」


「シズムちゃぁん、お着替えしよか?」にへらっ

「ひぃぃ! すいません、勘弁してください」


 にやついた所長が迫って来る。静流は青い顔をしてドン引きしている。


「はい、おじいちゃん、おイタが過ぎますよ!」ガシッ


 少佐は所長の首根っこを掴み、持ち上げた。


「な、何するんじゃい、こりゃ! 放さんか」バタバタ


 少佐は所長を持ち上げたまま、奥の部屋に入った。


「もう検査を始めますから、ここでしばらくおとなしくしていて下さい」


 少佐は【拘束】で所長を縛り、猿ぐつわを噛ませた。


「フゴフゴ! フゴー!」

「うへっ、これ、マズいんじゃないかな」


 奥の部屋には、魔法少女のフィギュアがずらっと並んでいて、コスプレの衣装まである。


「あれ? シズルカのフィギュアまでありますよ? まだ発売とかしてないと思いますが」

「所長の趣味よ。ああ見えて手先は器用なの」

「へぇ。すごいクオリティじゃないですか。量産すれば大儲けですよ?」

「ええ。それは私も考えたわ」



          ◆ ◆ ◆ ◆



魔導研究所内 ブリーフィングルーム―― 午前


 所長室を出た二人は、最初に静流の家族構成等の確認をするため、ブリーフィングルームに入る。

 そこで静流は、家族構成と今まで起きた出来事を要約して説明した。


 静流の家族は母親のミミ、妹の美千瑠であり、父親の静は何年も帰って来ていない事。

 母親はエルフの血を濃く受け継いでいるが、夢魔の血も混ざっている。

 父親と子たちは、希少である桃色の髪の為、『黄昏の君』に近しい存在かと推測されるが真偽は不明。

 静流は意識せずに発動してしまう【魅了】Lv.0を常時発動している。

 以前は半径10mであったが修行の甲斐あって、矯正メガネ等を着けない場合、半径2m以内の生き物は一時的に【魅了】を受けた状態になる。


「【魅了】の常時発動なんて、フェロモンばらまき状態って事よね? 今まで大丈夫だったの?」 

「そこは矯正メガネとか、【幻滅】で中和したり。あと周りの協力があったからここまで無事に生きてきました」


「下手したら命狙われたっておかしくないわよ? 愛情の裏は憎しみだったりするから」

「そう言う時もあったんだろうと思いますけど、母さんとかが裏で守ってくれてたんだと思います」


「それで、交換留学の際に開発した女神モード時の施術となるわけね」

「はい、そうなんです。とりあえずちょっとハッピーになってもらいたくて、ただの【キュア】を1/10に抑えて掛けてみたら、えらい事になりまして」


「それは、シズルカの姿でないと、効果が無いと?」

「ええ。カチュア先生に調べてもらいましたから」


「フム。昨日の技と言い、やはり君の魔法発動には、『イメージ』の力が深く関係していると思うの」

「『イメージ』ですか……確かに昨日のはそうだったかも知れません。佳乃さんがサイコパスガンのイメージを教えてくれなかったら、あの結果にはならなかったんじゃないかと思いますね」


「よしっと。大体の検査方針が決まったわ。本チャンは午後からね?」

「はい。それであの、ちょっと訊きたいことがあるんですけど」

「何かしら?」


「ここは、嘆きの川と繋がっていると聞いたんですが本当ですか?」

「たまにドラゴンが迷い込んで来る所から想像が付くと思うけど、確かにここアスガルドは、嘆きの川と繋がっているわ」

「やっぱりそうですか。『ゲート』は存在するんですね?」

「ええ。ただ決まった位置にあるわけじゃなくて、ランダムに出没するの。厄介な事にね」


「実は向こうの世界に血縁者がいるんです」

「それは確かなの? 興味深いわね」

「ええ、伯母さんの家族がいます」


 静流は今わかっている事をアマンダに話した。


 母親のミミには、双子の姉、モモがいる。

 モモは夫と息子と共に異世界に飛ばされた。

 モモの息子である「薫」は異世界で魔法剣士となり、薫を入れて四人のチームを作り、軍の厄介事とかを扱う仕事をしている。

 薫は軍の研究施設にいる「素体」を奪うというミッションに参加した。

 素体の強奪は成功したが、薫は素体を「薫子」という妹として育てた。

 薫子が16歳の時、暴走。時空の壁を破り、静流たちのいる世界に干渉した。

 その後世界の修復力が働いて、存在力が足りなくなった薫子を薫が連れ戻した。

 薫子は嘆きの川(コキュートス)で眠っている。


「なるほど、今出てきた薫子さんだけど、思い当たる節があるわ」

「何でしょう?」


「『素体強奪事件』はココの研究所で起きた事よ」

「え? そうなんですか? じゃあ、僕はココに来たことがあるのか?」


「そうね、以前ある検査で数回、アナタとお父さんの静さんが来てるわね」


「全然覚えてないんですよ、僕」

「そりゃそうでしょう。ここの記憶、抹消してるから」

「え? 何でですか?」

「素体が覚醒前にアナタを見てしまったから」

「やっぱり『刷り込み』というやつですか? まさか僕を親と思ってるとか?」

「それはどうかしら? ただ、『気になる人』であることは間違いないと思うわ」

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