エピソード15-3

統合軍極東支部アスモニア航空基地―― 客員用詰所

 

「ああ、畳の匂いだ。もうすぐ帰れるんだ」


 佳乃に客員用詰所に案内された後、畳が敷いてある部屋でゴロゴロしながら、不可視モードを解除したオシリスを撫でまわしていた。


「アッチは今夕方よね? 連絡とってみたら?」

「でかしたオシリス! ちょっと睦美先輩と話してみるか」


〈睦美先輩、応答願います〉

〈やあ静流キュン! やっと念話してくれたね。うれしいよ〉

〈お疲れ様です。モニターしてると思うんで、状況はわかってると思いますが〉

〈うむ。静流キュンは相当な有名人に気に入られたみたいだな〉

〈寮長先生、ですか?〉

〈ああ、フルネームで気付いたのだが、まさしく『生ける伝説』と呼べるお方らしいぞ〉

〈そちらの様子はいかがですか?〉

〈校内は平和なものだが、ちとマズいことになっているね。シズルカの件で〉

〈え? シズルカが何か?〉

〈例の動画だよ、再生数がヤバい。3日で2000万回を超えている〉〈え?〉

〈他にもサイン入りブロマイドが飛ぶように売れているとか〉 〈うぇ?〉

〈そちらの学園に各地の参拝希望者がツアーを組んでいるとか〉〈ぐぇ?〉

〈あのイケメン神父にシズルカを召喚させろと脅迫まがいの書き込みが学園のHPにわんさか来ているとか〉〈ぎょえ?〉

〈うひゃあ、それってかなりマズいですよね?〉

〈ああ、かなりマズいな。おまけに軍まで興味を示すとは〉

〈さっきもやらかしちゃったみたいで……〉

〈司令か? ものすごく喜んでいたではないか〉

〈でもさっきのでシズムだけじゃなくて僕もシズルカになれることになってるし〉

〈ん? 確かにそれはマズいな。シズムは異世界に行ったことにする計画だったのに〉

〈そうか、その手があったか〉

〈だが、静流キュンも呼び出せる設定となると、何か他に策を練らねばな〉

〈お願いします先輩。頼りにしてますから〉

〈ヌフゥ、ま、任せておくがいい。静流キュンのたっての願いだ、全力でかなえよう!〉


 念話を切った静流は、オシリスのモフモフ感を味わっていた。


「どうしよう、オシリス」

「どうって、そんなのわからないわよ」


 静流はうつ伏せに寝転んでオシリスを撫でまわしている。とそこに、


「おくつろぎの所、申しわけないであります、静流様」ハァハァ


 佳乃が血相を変えてやってきた。


「どうしたんです?そんなに慌てて」


「実は、先ほどの『施術』の件なのでありますが……」クイクイ


 窓の外を見ろと言うことか?


「ゲッ!……マズいですよ、こりゃあ」


 詰所にずらっと老若男女入り乱れての大行列が出来ている。


「軍人さんだけじゃなくて、ここで働いてる人まで……ヤバいな」

「自分のミスであります! 処分をお願いするであります!」

「そんな事言ってる場合ですか! どうしよう、あくまでもシズルカはシズムじゃないとダメなんだよな」

「む、そうか。静流様、自分に考えがあるであります!」

「何か策があるの?」


 オシリスが口を挟んだ。佳乃はある違和感に気付いた。


「ん? 何でありますかこのモフモフ小動物は? 人語を理解しているでありますか?」

「僕の使い魔ですよ。オシリスって言います」

「それはまたマニアックなネーミングでありますな」



          ◆ ◆ ◆ ◆



 施術を待つ者たちがごった返す所に、佳乃は向かった。


「えー、皆の者、これより五十嵐静流様の女神降臨の儀を執り行うであります!」

「ワー! イイぞ、イイぞ」

「しかしながら、真の戦乙女神シズルカ様の召喚は井川シズム氏の権能であります」

「よって、これより召喚するシズルカ様は、静流様の能力で一時的に特殊召喚するものであり、かなりの魔力を消費するため、あまり長く持たないであります」

「そこで、コレを使うであります!」


 佳乃が出したのは、くじが入った箱であった。


「順番にコレを引き、当たったものについて、施術を行うこととするであります!」

「何でもイイから早く頼む!」


 佳乃は希望者にくじを引かせ、「当たり」を引き当てたものについてのみ、特設ステージに並べた椅子

 に座らせる。


「静流様、この位の人数なら如何でありますか?」


 ざっと30人ほどであった。


「うん。この位なら大丈夫かな?あと、肝心の受付嬢さんは?」

「あの方は、中でスタンバっているでありますよ」

「へ? 詰所の中ですか?」

「相談の内容がアレでありますし……」

「そっか、それは気付けなかった。さすが佳乃さん。やっぱ同じ女子だからですか?」

「この世に『不感症』ほど残酷なものは無い……と思うのであります」

「佳乃さん……よし、やろう!」


 静流は腕の操作パネルを操作し、いきなりシズルカになった。

 

  パァァァァ! 桃色のオーラに包まれ、最終形態となる。シュゥゥゥゥ。


「お待たせしました。受付嬢さん」

「女神様……ありがとうございます」


 受付嬢はバスローブに着替えていた。


「外の騒ぎ、貴女がリークしたわけじゃないと思いたいです」

「ち、違います。あれは……司令が」

「あのジジイ、余計な手間増やしやがって!」


 シズルカの顔が怒りに歪んでいる。「怒りモード」発動。


「ひ、すいません、怒ってますよね?」


 すぐさま通常モードに戻る。


「あ、貴女は大丈夫ですよ。全然怒っていませんから」


 そう言って静流は施術に取り掛かる。


「気を楽にして下さいね。すぐ終わりますから」

「お願いします、女神様ぁ」パサッ


 受付嬢はおもむろにバスローブを取り、一糸まとわぬ姿となった。 


「ブッ! では施術を始めます。……【弱キュア】ポッ」


 静流は、両手に淡い桃色の霧をまとい、受付嬢の生チチを触った。


「失礼します!」ムニュウ

 



「うっふぁぁぁぁぁん」シュゥゥゥ




 受付嬢は後ろにのけ反り、泡を吹いている。桃色のオーラが体内に吸収される。


「刺激が強すぎたか? 大丈夫ですか?」 


 静流は受付嬢を揺すった。


「う、う~ん。あうっ、くぅ……ん」

「しっかりして下さい!」


 静流は「まさか」、と思い、


「失礼します」ツン


 試しに受付嬢の乳首をつついた。ちょん




「きゃうぅぅぅぅん」ビクゥゥ




 受付嬢は悶絶した。失禁もしているようだ。


「いかがしたでありますか? むぅ。これはスゴい」

「佳乃さん、これって成功?なんでしょうか?」

「大成功であります! これがいわゆるひとつの『潮吹き』であります!」

「佳乃さん、すいませんが、ちょっとここ頼めますか?外の人たちに施術しないと」

「了解であります! ここはお任せ下さいであります!」


 白目をむいてピクピクと痙攣している受付嬢を佳乃に任せ、静流は外に出た。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 外の特設ステージに待たせていた希望者に軽く挨拶してから、


「前の列の方、ご起立してちょっとこちらを向いてもらえますか?」


 前の列に座っていた6人の希望者たちを起立させ、注目するように指示した。


「行きます!【弱キュア連弾】」パパパパパパッ


 静流は並ばせた希望者の胸めがけて【弱キュア】を放った。




「「「「「「はっふぅぅぅん」」」」」」シュゥゥゥ




 桃色のオーラを浴び、希望者たちは大きくのけ反った。

 やがて、施術の効果が現れはじめた。


「10円ハゲに……産毛がぁ!!」

「尿意が……失せた?」

「ガキの頃に作ったアザが消えた!」

「ほうれい線が、消えた!?」

「生命線が……伸びた!」

「プルル。まさか、アレが……来た。ああ、女神様」


 希望者たちが自分に起こった奇跡を確認している。


「奇跡だ! まさに奇跡!」

「女神様! ありがたき幸せ!」


 希望者たちは口々に感謝の意を述べた。


 くじで当たった他の人たちを「連弾」で適当に処理した静流は、先ほど詰所で寝かせた受付嬢の所へ行く。


「コッチは終わりましたよ。佳乃さんが数を減らしてくれたお陰ですって何をしてるんですか!?」


 詰所では受付嬢に佳乃が性感マッサージを施していた。


「ココがイイのでありますね?」

「あふぅ、イイです、伍長さん、そこっ」

「あ! お疲れ様であります! 静流様」

「一体なんですか? この有様は?」

「いやあ、受付嬢さんに、ちょっと触ってくれと言われたものでありまして」

「そう……なんです。試しに触って頂いていただけ……なんです」

「それで、どうだったんです?」

「最高……です。これで殿方とイチャイチャ出来ます」

「はいはい、そーですか、それは良かったですね」


 静流は疲れもあり、ぶっきらぼうな態度をとった。

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