エピソード14-2

アンドロメダ寮―― 白百合の間 夜 談話の時間

 

 送別会が終わり、とっとと入浴を済ませ、白百合の間に戻った。

 シズムはナギサとサラを呼び出した。


「みんなに集まってもらったのは、伝えたい事があったんだ」

「シズム!まさか」

「いいんだ、ヨーコ。やっぱり黙ってられないよ」

「わかったわ。そこまでの覚悟が出来てるなら、もう止めない」

「ありがとう、ヨーコ。みんな、実は僕は……」


 シズムはそう言うと、光学迷彩を解除し、静流の姿に戻った。

 あらかじめ偽装肉体やかつらなどは脱いであったのだ。


「僕はシズル・イガラシ。見ての通り、男……です」


 静流は少し頬を赤らめ、みんなを見た。


「なぁんだ、そんな事かぁ!」

「アンナ、驚かないの?」


 意外な反応に、静流はキョトンとしている。


「ヨーコ、現地サポート要員の指令って、アナタだけに来てたと思った?」

「へ? じゃあアンナにも来てたの?」

「普通、一緒の部屋だったらアタシにも指令、来てもおかしくないよね?」

「なんで言わなかったの?今まで!」

「その方が、面白そうだったから」

「プッ、アンナらしいや。」

「私も知ってたわよ。静流様?」

「ナギサも!? いつバレたの?」

「最初に会った時、お風呂で……」

「あ、鼻血出してた時か……」

「まさか、生の静流様とお風呂に入ったなんて」ポッ

「じゃあ、知らなかったのって……サラだけ?」


「ぎょうぇぇぇぇぇえ!」ブクブク


 サラは口から泡を吹きながらのけ反った。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 静流は改めてこの学園に留学する羽目になった経緯を説明した。


「静流様なら顔パスでイイと思うんだよね?」


 アンナはあっけらかんとそんな事を言った。


「アンナさん、そういうわけにはいかないよ。男子禁制でしょ?」

「どうでした?『女の園』に殿方お一人で入った感想は?」

「ナギサさん、そりゃあもう、毎日が刺激的だったよ」

「一生分女の子の裸見たり、触ったり。イヒヒ」


 アンナは例によって両手をわしゃわしゃやった。


「そ、その件については、申し訳ありませんでした!」


 静流はジャンピング土下座をした。


「しょ、しょうがないですよ、ミッションだったんですから。少なくとも私は怒ってないですからね?」


 ヨーコは必死にフォローした。


「全然怒ってませんよ。むしろありがたかったんじゃないかしら?」


 ナギサはちっとも怒っていなかった。横にいるサラもうんうんとうなずいている。


「で、どおだった?」


 アンナは小悪魔的にニヤニヤしながら訊いてきた。


「皆さん、可愛かったし、素敵……でした」

「結構。それで十分よ」


 アンナはポンと手を打つと、満足そうにうなずいた。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 初日からの思い出を語ったりしているうちに、談話の時間が終わろうとしていた。


「みんな、今日までありがとう!」

「お礼を言うのはコッチだよ。短い間だったけど、楽しかったわ」


 アンナはそう言って、シズムをハグした。 むぎゅ


「色々あったけど、アナタは間違いなく学園の伝説になるわね」


 ナギサはそう言うと、首のあたりで休止状態になっているオシリスを掴んだ。


「ん?何だ、ナギサかぁ」

「オシリスちゃん、元気でね。グスッ」

「わ、泣かないでよ、対処に困るわ」


 ナギサに頬ずりされ、涙をこすりつけられているオシリス。


「静流様、どれも貴重な体験でした。絶対忘れませんから」


 サラは目を赤くしながら、握手を求めてきた。


「キミのイラストは今までの中で一番良かったよ。キミの絵ならまた見てもイイ……かな?」

「ああ、静流様。勿体なきお言葉」


 そう言った後、静流はヨーコに向き直った。


「ヨーコ、一番お世話になったのはキミだ。改めてお礼を言いたい。ありがとう」

「そ、そんな。私なんかで本当に良かったんでしょうか?」

「何言ってるの? キミのサポートがあったから、この難解なミッションをクリア出来たんだよ!」

「グスッ。静流様ぁ、嬉しいです。うわぁぁん」


 とうとう泣き出してしまったヨーコ。


「よしよし。あ、そうだ! キミたちに渡したいものがあるんだ!」


 泣き崩れそうになったヨーコを座らせ、静流はカバンから何かを取り出した。


「これからみんなに僕の『気持ち』をあげるね。先ずはアンナ・ミラーズ君!前に出てくれる?」


 アンナは前にズイッと一歩前に出た。


「何かなぁ?」


 静流はアンナの首にペンダントを掛けてあげた。 


「うわぁ、キレイ!」


「これは『勾玉』という日本の神事に使うものなんだよ」


 勾玉の色は、アンナの髪の色に合わせ、シャンパンゴールドであった。


「次、ナギサ・キャタピラ君!」

「はい! 静流様」

 ナギサはワクワクしながら前にスッと一歩前に出た。


「キミのは、コレ」

 ナギサの首に掛けたペンダントの勾玉の色は、ナギサの髪の色の、ブラックコーラルであった。 


「素敵。大事にしますわ」


「次、サラ・リーマン君!」

「は、はい! 静流様」


 さらはオドオドしながら前にスッと一歩前に出た。


「キミのは、コレね」

 サラの首に掛けたペンダントの勾玉の色は、サラの髪の色の、マロンブラウンであった。 


「いいんですか?私にも……嬉しいです」


 静流はうんうんとうなずき返した。


「最後に、ヨーコ・キャロライン・ミナトノ君!」

「はい! 静流様」


 フルネームで呼ばれ、ヨーコは緊張しながら前に一歩出た。


「やっと渡せたよ。コレ」


 ヨーコの髪の色のクロムシルバーに輝く勾玉が付いたペンダントを静流に掛けてもらった。


「ありがとう……ございます」


 ヨーコは顔をクシャクシャにしながら、お礼を言った。


「この勾玉には、僕の『祈り』が付与してあるんだ。女神モードでやったからご利益があるかもよ?」

「あ、そう言えば付与魔法の授業、熱心に聞いてたね?」

「そうなんだ。あの後先生にも手伝ってもらったりして、やっとこさ完成したってわけ」

「へぇ。どんなご利益があるのかなぁ?」

「具体的な効果はその時のお楽しみってことで」


 談話の時間が終わり、ナギサたちはアザミの間へ帰っていった。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 消灯の時間が迫っていた。静流はシズムに変装しようとしてアンナに止められる。


「ちょっと待ってよ、静流様」

「ん?何だいアンナ」

「最後にワガママ、聞いてくれない?」

「内容による、かな?」

「アタシ、静流様と添い寝したぁーい!」

「へ? そんな事でイイの? いつも気が付いたら隣で寝てるじゃん?」

「じゃあ、イイんだね?ウヒヒヒ」


 アンナはニヤニヤしながら静流のベッドに潜り込んだ。

 やがて、消灯の時間となり、部屋の灯りが一斉に消えた。


「えいっ!」むにゅう


 静流の腕に柔らかいものが当たる。しかしこの感触は……?


「な、生チチィ?アンナさん?」

「へへぇ。イイでしょぉ?」

「ちょっとぉ、アンナ、そこはダメだって!」


 もぞもぞと二人でじゃれ合っていると、 トサッ


「私も……入れて下さい。静流様ぁ」


 何と、ヨーコまで静流のベッドに潜り込んで来た。


「私だって、そう言う欲求、あるんですよぉ?」 ムニィ


 暗がりに目が慣れてきてわかったのは、ヨーコが生まれたままの格好であった事だ。


「わぁ、ヨーコったら、大胆」


 アンナは負けじとパンティを脱いで、静流の頭に被せた。


「キミたちぃ? マズいんじゃないかなぁ、こう言うのって」

「静流様は『特別』なんですっ!」

「そんな、『甘いものは別腹』みたいな言い方ってどうなの?」

「ウフフ。観念しなさぁい、静流様ぁ」

「ちょっと、くすぐったいよ」

「逃がさないわよぉ」


 三人で寝るベッドは、定員オーバーなのかギシギシ鳴っていた。


「なぁにやってるんだか……いい歳して」


 オシリスはこの光景を暗視モードでしっかりと録画しながらつぶやいた。

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