エピソード12-2

学園 礼拝堂―― 午前


 これから拝礼であるが、シズムはあのままの格好で女神像の前に立つ羽目になった。


「結構恥ずかしいんだよね、この格好」

「そうおっしゃらずに、女神様ぁ」


 神父はフリーズ寸前になっている。

 一応女神像と同じポーズをとり、生徒たちを待つ。最初の組が来たようだ。


「わぁ、本物だぁ」

「やっぱ実物の破壊力は断トツね」


 生徒たちにジロジロ見られ、シズムは困惑したが、瞑想に入ることで外界の視野をシャットアウトした。

(早く終われ、早く終われ、早く終われ……)


「ねえ、やってみたら?」

「ええ?でもぉ」

「ほら、行くよ?えいっ」


 突然シズムの手を取り、ある所に押し付ける。 ふにぃ


「やぁん」


 その子の友達が強引にシズムの手を取り、その子の胸に押し付けた。


「え?何?ちょっと?意味わかんない」


 今の状況が全く把握出来ていないシズム。


「あれ?知らなかった?コレ」


 生徒が紙ペラをシズムに見せる。


「ん?何じゃあこりゃあ!」


 例のかわら版を見せられるシズム。


 <女神様にパイタッチされると恋愛運急上昇!!>

 <女神様のご加護があれば無病息災・恋愛成就・学業成就・合格祈願・安産祈願・縁結び・金運アップ 何でも御座れ!!>


「ここまでオールマイティーな神様おらんわぁ!」


 シズムは「おにゃの子ボイス」で盛大に突っ込んだ。


「シズムさん、ちょっと」


 学園長である。


「何とかなりませんか?これじゃあ収集が付かないわ」


 いつに間にか行列が出来ている。


「わかりました。どうなっても知りませんよ、もう」

「ありがとう、女神様。では私はこれで」


 学園長は厄介事が片付いたと思ったらぴゅーっといなくなった。



          ◆ ◆ ◆ ◆



「う~ん、どうしよっかな。そうだ! ちょっとハッピーになってもらうには……【弱キュア】ポッ」


 通常【キュア】発動時は青白い霧であるが、乙女神モードの【弱キュア】は淡い桃色であった。

 両手に淡い桃色の霧をまとう。何か別の効果があるようだ。


「さっきの最初の方、どうぞ」


 さっきの一番の子に改めて施術(?)を行う。


「はい、お願いします」


「では失礼して、」むにゅ


 桃色の霧をまとった両手で女生徒の胸を触る。

(うわぁぁ、服の上でも柔らかい)



「あふぅぅぅん」シュゥゥゥ



 女生徒の身体が桃色のオーラで包まれ、体内に吸収された。


「どうですか? 具合は?」

「はい! 今だったら何でも出来そうな気がします!」


 先程まで気だるげだった女生徒は急にハキハキしだした。


「ねえ、早くぅ、私にもしてぇ?」

「はい、失礼」むにゅ

「ふぁうぅぅん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」もにゅ

「あぁぁぁぁん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」ふにゅ

「くぅぅぅぅん」シュゥゥゥ


「はい、次の方」ぱふぅ

「きゃぅぅぅん」シュゥゥゥ


「何か軽くなったよね?憑き物が取れた? みたいな」

「それってやっぱ、『女神様のご加護』なんじゃない?」


 施術を終えた生徒たちが満足気に帰っていく。

 列は一向に減らず、逆に増えているようだ。

(ああ、もう面倒だな。放出系のと掛け合わせてみるか?)

 何やら対策を思いついたようだ。


「皆さん、ちょっとこちらを向いてもらえますか?」


 一列に並んでいた生徒たちを90°回転させた。


「行くぞ!【弱キュア連弾】」パパパパッ


 シズムは並ばせた4人の胸めがけて【弱キュア】を放った。



「「「「はふぅぅぅん」」」」シュゥゥゥ



「行ける!これなら一度に4人は行けるぞ!」



          ◆ ◆ ◆ ◆



「ふう、終わった……」


 並んでいた生徒全ての施術を終え、変身を解除する。たちまち疲労困憊に陥るシズム。


「お疲れ様、シズム」

「ヨーコ、疲れた……」トス

「よく頑張りました。偉い偉い」


 ヨーコの胸にもたれて気を失ったシズム。


「え? ひゃあっくぅぅぅん」


 シズムは寝ぼけているのか、気を失いながらもオーラを放出した。結果的にヨーコも施術を受けた格好になった。



学園 保健室―― 午後


 除幕式と拝礼がようやっと終わり、シズムは魔力を使い過ぎた為、保健室のベッドで寝ていた。


「マジックポーション……飲みたい」

「そんなマンガみたいなもの、無いわよ」


 保健のカチュア・ キサラギ先生がアイスレモンティーを飲ませてくれた。


「あれ?ぼ、私、どの位寝てました?」 

「そうね、3時間位かしら?」

「じゃあ、午後の授業、終わっちゃうな」

「授業が終わったらミス・ミナトノが迎えに来るわよ」

「やっちゃったな、すいませんでした」

「謝られることはしてないわよ。アナタ、むしろ褒められるかも……ね」

「え?何でですか?」

「アナタが施術した生徒が、見違えるように授業に熱心に取り組んでるってさっき先生方が」

「本当に、あるのかしらね?……ご加護」


 カチュア先生はシズムの手に興味があるみたいだ。


「ただの回復系魔法じゃないわよね?オーラの色が違うし」

「な、何ででしょうね?私にもわからないんです」 

「今度万全な時にお願いしようかしら?私も」

「またぁ、冗談はよしてくださいよぉ」

「あら、私は大真面目よ?」


 そうこうしていると保健室のドアが開いた ガチャ


「シズム!起きたのね。カチュア先生、シズムの具合は?」

「ただの魔力切れよ。心配ないわ」

「もう大丈夫。私をここまで運んでくれたんだね。ありがとう、ヨーコ」

「んもぅ、ホントに心配したんだからね?」

「あなたをお姫様抱っこして連れて来た時は、王子様みたいだったわよ?」

「そ、そんな、私が?やだぁ」クネクネ

「見かけよりパワーあるみたいね」

「はぁ、良く言われます」ガクッ



アンドロメダ寮―― 白百合の間  夕方


 校舎から寮に戻り、ティータイムをいつものメンバーで過ごした。


「いやあ、今日はいろいろあったなぁ」

「大役、お疲れ様でしたね。シズム」

「変身ポーズ、結構サマになってたよ、シズム」

「あ、あれは神父がやれって言うからとっさの思い付きで」

「バッチリ録画したからね?」

「よしてよ、ナギサ。黒歴史になっちゃうよぉ」

「でもあの後、大変でしたね、シズムさん」

「そうだ! あのかわら版とやらは一体何だったの?」


 ゴソゴソと丸めたかわら版を開く。


「それが、発信者が『黒魔本部』みたいで」

「何ぃ!? どういうこと?」

「さあ、私にもわかりません」

「ちょっと待って」


〈睦美先輩、聞こえますか?〉

〈やあ、静流キュン! 今日はお疲れ様。すばらしい除幕式だったね〉

〈それはどうも。ちょっと訊きたいんですが、いいですか?〉

〈何だい? 何かトラブルでも?〉

〈白黒ミサ先輩はおとなしくしていますか?〉

〈やつらなら今はおとなしいもんだが?〉

〈コッチの学園誌にあらぬガセネタを記事にした人がいるみたいで〉

〈ギクッ! な、何かなぁ? その記事って?〉

〈女神モードの僕に胸を触られると、ご利益があるって〉

〈ホントに迷惑なやつだ。しかし実際に救ったって保健の先生が話してたな?〉

〈単に結果オーライだっただけですよ〉

〈ただね? 静流キュン、私はあえて言いたい!〉

〈な、何です?急に〉

〈手抜きはイケナイよ、静流キュン。後半の『連弾』はマズイ〉

〈手抜き? ですか?〉

〈そう。ちゃんと一人一人祈りを込めて揉まなきゃぁダメだろう?〉

〈は?わけがわかりません〉

〈いいかい?肝心なのはこの後だよ〉

〈この後? まだ何か?〉

〈入浴時間だ〉

〈うげぇ、確かにまずいな。作戦を立てますんでこれで失礼します〉ブチッ


 念話を切ったシズムの顔は次第に青ざめた。


「ヨーコ、どうしよう……」

「先輩と話してたの?」

「お風呂、入るのやめよっかな?」

「は、そうか。これは大変だわ」

「もしかして、生チチの方がご利益倍増って事?」

「アンナ?!確かに一理あるわね。仕方ない、『プランB』を使うか……」

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