エピソード12-1

学園 校舎―― 朝~午後 


 市内観光デートの次の日、起床・朝のお祈り・朝食を経て登校した。

 午前の授業は魔法基礎の座学と体術の訓練であった。

 シズムは特に体術の時間で偽装肉体のポテンシャルを発揮し、先生をうならせた。

 午後は放出系魔法と魔力付与であり、シズムはとりわけ魔力付与に興味があるようで、熱心にノートを取っている。そして、つつがなく過ぎて放課後を迎えた。


「ミス・イガワ、ちょっと」


 ニニちゃん先生に声を掛けられた。


「はい、何でしょう?」

「明日の除幕式について、簡単なリハーサルをやるそうなので、15:30に礼拝堂に行くように」

「はい、わかりました」

 

学園 礼拝堂―― 夕方


 時間になったので礼拝堂へ。シズムしか呼ばれていないはずなのだが、なぜかヨーコ、アンナ、ナギサ、おまけにサラまでが付いて来た。


「呼ばれたの、私だけなんだけど?」

「ちょっと心配だったから……来ちゃった」

「いいじゃない、見学よ」

「私は別にどっちでも良かったのよ?」

「あのぉ、ついでに取材とかしても?」


 それぞれが勝手な理由を付けているが、要するに「野次馬」である。


「よく来て下さいました。女神様」


 ハクトー神父がバタバタと近付いて来た。


「どうも、神父様」

「チッチッチッ、『ジル』とお呼び下さいませ」

「ジル神父?」

「はい、女神様。実は明日の除幕式なのですが、是非ともお願いしたい事がありまして」

「何でしょう?私に出来ることなら」

「序幕式の際、ミス・イガワには、女神像と同じ格好をして頂きたいのです!俗に言う『コスプレ』という事ですね」

「あ、あぁ、大丈夫です。そう言われると思って、衣装は用意して来ましたので」

「グレイト!何と素晴らしい!」

「女神像はもう到着してるんですか?」

「はい、もちろん。こちらです」


 礼拝堂の隅っこに高さ4mほどの箱が置いてあり、中に女神像が安置してあった。


「あれ?こんなのだったかな?」


 シズムはカバンからクリアファイルを出し、以前美術部で作った女神像の写真と見比べている。


「ジル神父?私が知っている女神像と違うようですが?」


 そう言ってシズムは写真を見せた。


「ブッ!素晴らしい!こちらは初期の頃の試作品ですね」

「え?女神像にそんなバージョンがあったんですか?」

「最終形はこちらの『戦乙女神 シズルカ』様 像です」

「うわっ、モロ静流様じゃないですか」

「見てるだけで、ゾクゾクしちゃう」

「学生が作ったにしてはよくできているわね」

「創作意欲が湧き上がりますね、ハァハァ」


 それぞれが勝手に感想を述べた。


「戦乙女神?いつそんな設定になったんですか?」

「はい、貴校のミスター・ハナガタと綿密な打ち合わせにより、こちらの像に決まりました!」


 戦乙女神とはよく言ったもので、ヨロイというよりほとんどビキニアーマーである。


「こういう演出は如何でしょう?先ず先ほどの試作女神が登場して、そのあと、最終形に『変身』するとか」


 この神父、無意識にかなり無茶な振りをしている。


「善処……します」



アンドロメダ寮―― 白百合の間  夜 談話の時間 


 あの後、寮に戻り各行事を済ませた後、談話の時間となった。

「よし、睦美先輩に念話するか」


〈睦美先輩、聞こえますか?〉

〈やあ、静流キュン!どうした?モニターしている感じ、今のところ問題は無さそうだが?〉

〈実は明日の除幕式の事なんですけど……〉

〈ああ、その事か。あの後私が花形をシメておいた。花形からの動画を送るよ〉

〈わかりました。ありがとうございます!〉

〈時に静流キュン、確認なのだが〉

〈何です?確認って〉

〈入浴時間は合っているのかい? どうも生徒数が初日に比べかなり少ないような気がするのだが?〉

〈あ、気付きました?入浴時間になったら真っ先に行って、みんなより早く済ませちゃうんですよ〉

〈そんな勿体ない、いやもっと学園生活をだな、楽しまない手はないと思うが〉

〈みんなと入ると、僕おもちゃにされちゃうんですよ。心配しなくても学園生活は謳歌してますよ〉

〈その様だね。安心したよ〉

〈あ、あと薫子さんの情報がある程度まとまりましたので、メールしときますね〉

〈それは助かる!感謝する静流キュン〉

〈ソッチはもう夜中ですよね。もう寝て下さいよ。おやすみなさい〉

〈わかった。おやすみ……静流キュン〉


 数日ぶりに睦美と会話出来た静流は、明日の不安が少しやわらいだ気がした。


「さて、花形部長の動画でも見るか」


 オシリスに花形からの動画を再生させる。ザザ


〔はぁい! 静流クン、学園生活エンジョイしてるかしら?〕

〔ええい!早く本題に入らんか!〕


 よく見ると花形は椅子に張り付けられていて、横には睦美がいた。撮影は恐らくカナメであろう。


〔女神像のこと、うっかりてっきりちゃっかり、説明するの、忘れちゃった。てへ〕


 ふざけるな! と怒号が飛んでいて、花形は冷や汗をかいている。


〔あの後そちらのイケメン神父からリクエストが来て、何回かやりとりして完成したってわけ〕

〔光学迷彩に最終形のデータをその子にダウンロードさせて。それでうまくいくと思うから〕

〔除幕式、成功を祈ってるわ。じゃあね〕


「僕って来た意味、あるのかなぁ?」


 そんなことをつぶやいた静流に、


「意味、大有りです! 少なくとも私にとっては!」


 ヨーコは少し興奮気味に返答した。



学園 礼拝堂―― 午前 除幕式当日


 いよいよ除幕式である。先ず体育館にて学園長の挨拶や各種セレモニーを行い、

その後礼拝堂にて順番に拝礼していく予定である。


「ヤバイ、緊張してきた」

「大丈夫よ。シズムはやれば出来る子! 落ち着いて」

「やればできる子……ね」

「さぁ、行ってらっしゃい、シズム」

「よし! 行ってくる!」


 ヨーコに送り出してもらい、体育館のステージ裏にシズムは入っていった。

 ステージ裏の楽屋には、学園長のシスター・サザビーを始め、ジル神父、

 ニニちゃん、ムムちゃんを含む先生方、各寮の寮長までそうそうたる顔ぶれである。


「ミス・イガワ、今日はよろしくお願いしますね?」

「はい、シスター。精一杯努めます」

「よろしい。では準備に入って」

 

 体育館は先生、生徒で埋め尽くされていた。 ざわ…… ざわ……


「ねえ、今朝の『学園かわら版』見た?」

「見た見た!あれって本当なの?」

「試してみればいいじゃん、減るもんじゃないんだし」

「そうね。みんながやるんだったら、あたしもやろうかな?」


 生徒たちがそんな事を口走っている。


「ねえヨーコ、何かあったの?」

「さあ、私にはさっぱり」

「これの事かしら?」


 ナギサがプリントを見せてくれた。


「ん? んん!? はぁ?」


 プリントを見た二人は、呆気にとられた。



          ◆ ◆ ◆ ◆



 マイクが「キーーン」とハウリングを起こし、司会の先生が話し始めた。


「只今より、『戦乙女神 シズルカ』像の除幕式を行います」


 パチパチパチパチ


「先ずは学園長 シスター・サザビーよりお話しがあります」

「ごきげんよう諸君!今日は皆さんに素晴らしい贈り物が届きました」

「我が学園と姉妹校である都立国分尼寺魔導高校より、女神像が寄贈されました」

「この除幕式にあたり、女神像のモデルを務めた生徒を短期交換留学生として招待しました」

「お呼びしましょう!ミス・シズム・イガワ!」


 袖から出てきたのは布切れのような衣装を羽織ったアメジストの目に桃髪ストレートロングの「試作タイプ女神」だった。手を組み、目を閉じる。


「おお、素晴らしい!」

「……美しい」


 その後、ぱっと目を開き、腰にベルトがあるような仕草から、腕を振って風を腰のベルト付近に送るような動作を行う。

 頃合いを見て、【セタップ!】と叫んだシズムは、腕の操作盤をいじった。


  パァァァ!


 桃色のオーラに包まれて、ビキニアーマーの最終形態となった。


「わぁ、変身しちゃった!」

「すごぉい、どんなトリック?」

「めちゃめちゃカワイイじゃん!」



 きゃぁぁぁぁあ! パチパチパチパチ



「はい、ありがとう。すばらしいメタモルフォーゼでしたね」


 学園長からお褒めの言葉をもらい安堵の表情を浮かべるシズム。


「さて、現場の準備が出来たようです。礼拝堂のハクトー神父?」


 後ろのスクリーンに礼拝堂の中継が繋がった。


「……美しい。はっ!こ、こちら礼拝堂です。序幕の準備が完了しております!」

「では綱を引いてください。皆さんご覧下さい!」


 スクリーンに女神像の幕が外され、その姿が現れる。



「結構大きいわね」

「これが、女神様っ」

「まさに戦乙女神……美しい」



 きゃぁぁぁぁあ! パチパチパチパチ



「えーこれにて除幕式は終わります。このあと組ごとに礼拝堂にて拝礼とします」


 除幕式は滞りなく終了した。


「ふぅ、おわったぁ。これで良かったのかなぁ?」


 袖で額の汗を拭き、シズムがこうつぶやいた時、ドドドと駆け寄ってくる影があった。


「シズムさぁん! 最っ高だったわよぉん!」


 シズムをガシッと抱きしめ、ムムちゃん先生は目を潤ませながら喜んだ。


「ムムちゃん先生! そう言ってもらえるとやった甲斐、あったな……って思います」

「うんうん。これで大手を振って帰れるわぁ」


「感動の所ごめんなさい。シズムさん、もうちょっと付合ってもらいたいの」

 学園長からお願いがあった。


「これから拝礼なんですけど、そのままの格好で来てもらえないかしら?」

「は、はぁ。わかりました」


 シズムは「イヤーな予感」がした。

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