第172話近藤と小野派一刀流

最近、近藤は小野田家の稽古に参加するようになった。小野派一刀流の入門が許されたからだ。しかし天然理心流の師範であることは伏せている。筋骨隆々きんこつりゅうりゅうの近藤は稽古着の着こなしから道場生から見ても尋常では無い。道場生から


「どこかのご流儀を納められているのですか」


と問われても


「いえ、経験はありません」


こうしてはぐらかす。チヨから


「初心者のつもりで」


と言われているのでそんな風にしている。しかし素振りから型の稽古まで、洗練されたものを持っているのは明らかである。一通り稽古した後は道場の隅で穏やかに見学している。もちろんこの後に天然理心流の稽古が待っている。


「流石に近藤さんも隠し切れないねぇ」


チヨは近藤をみてそう言った。稽古後、午後九時になると天然理心流の稽古が始まる。藤波少年も参加している。素振りを百本。藤波少年も振れるようになった。沖田の厳しい指導にもめげずに頑張っている。


「総司、手加減をせよ。お前とは同じ技量では無いのだ」


「はいはい、承知しました」


沖田は試衛館の頃より厳しい稽古であった。何より剣に対して真摯しんしであったためである。稽古が終わり、皆で風呂へ入る。と言ってもそれほど大きくないので交代で入る。藤波少年は


「皆さん凄い体つきですね」


近藤は答えた。


「君にもなれる身体だよ」


平静へいせいを見せている藤波少年も本当はフラフラで、疲れた体で帰宅する。


「藤波少年もなかなかの根性ですね」


沖田が言う。


「うむ、今が一番厳しい頃だろうな」


深夜でも近藤は一番最後に床に入る。今日のニュースのチェックである。今日も世界中でありとあらゆる出来事が起こっていて、近藤を瞠目どうもくさせる。日々刻々と毎日は過ぎる。近藤には何もできない。ノートパソコンを閉じて近藤も寝る事にした。隊士の寝息が静かに聞こえる。


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