第170話強くなりたい
「現在の稽古では門下生を募集しておりません」
吉村は何度同じことを言っただろうか。小野派一刀流の道場に実はさらに強い流派が
夜間稽古をしていると言う
「僕は強くなりたいんです。宜しくお願いします」
「君、強くなりたければ格闘技でも習えば良いではないか」
土方が言う。他の隊士も稽古を中断してやって来た。ただ単に稽古を止めたのではなく、天然理心流の型を盗まれないためだ。
「こちらのご流儀は強いと聞きました。
一度は断り、門前払いした。しかしこの少年は毎夜通って来るのだ。
「お願いします。何卒、何卒」
「君も食い下がるね」
稽古に復帰した沖田が流石に
「局長、ここまでの
沖田にはあるまじき発言である。
「総司が言うなれば余程の根性だな。じゃあ入門試験をしようか」
近藤は有る条件を提示した。天然理心流の木刀を百回振るというものだった。
少年は道場中央に案内された。少年は丸太を渡された。
「この木刀は我々の流儀で使う木刀である。これを百回振ってみなさい。我々が良しと言うまで入門は許さない」
この丸太が木刀とはとても思えない。しっかり握っても指が回らないのである。
成すがまま構えさせられた。正面に沖田が構えている。一緒に振れと言うのだ。
「一!」
そのまま足を使わず振る。木刀は非常にバランスが悪く、重い上に振り辛い。二回、三回と回数を重ねてみたが十回も振れなかった。
「局長、この少年は力は未熟ですが振りが良いと思われます」
沖田が珍しく褒めた。隊士達が顔を見合わせた。近藤が言った。
「総司が言うなれば余程の事だ。君、その木刀を貸してあげよう。十日の
木刀を抱き、道場を後にした藤波少年を沖田は追いかけて振り方のコツを教えた。
「君、この木刀を腕で振ろうとしたらいけないよ。体で振るんだ。力んじゃいけない」
藤波少年は沖田の言葉を胸に朝に昼に夜に振りぬいた。力まず振れば十回は振れるようになった。一日十回振れたなら十日で百回だ。藤波少年は素振りをした。
十日後。少年は道場中央で木刀を構えた。吉村の号令と共に素振りを行う、回数をこなすうち、藤波少年は力まずに振れるようになっていた。
「百!」
振り抜いたと共に藤波少年は倒れた。
「ふむ、悪くはない」
近藤が言った。
「藤波君、稽古は土曜日曜を除いて毎日この時間帯に行っている。休まず来ること。そして他言無用」
やっと立ち上がった藤波少年ははい、と元気よく答えた。現代での初の門下生となった。道場の片隅に正座させ、稽古を見学させた。激しい稽古である。近藤が
「総司。木刀を振るコツを教えたな」
「さて、何の事でしょう」
沖田はとぼけて見せた。
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