第166話沖田理恵の本懐

「総司さん、ありがとう」


式の後の病室である。沖田は言った。


「顔色が優れないね。大丈夫かい」


ベッドに横になるようにうながした。


「私は本当に幸せです。総司さんのおかげです」


とにかく今日は無理をした。休養しなければならない。


「今日は安静だけど、ずっと安静は良くない。稽古には参加するんだよ」


「はい、わかりました」


沖田は理恵に襲い掛かる病魔とどう向き合うか思案しあんしていた。医師からは

好きな事をさせてあげてください、とのことだった。理恵の両親はとてもその事は言えず、沖田が代わりに医師の意見を告げた。以前こんな事が有ったな、そうだ、山南さんに切腹を告げた時だ。何時だって自分の役割はそうだった。


「理恵さん」


「お嫁にさんづけはおかしいよ」


「理恵、君に伝えなければいけない」


持って後三ヶ月。


「それはわかってた。みんなの態度でね。だから式を急いだの」


二人の左薬指にはプラチナの指輪が光っている。


「教会の神父さんも言ってたろう?死が二人をわかつまでって」


「うん、言ってたね」


「理恵は天国へ行けるだろうけど僕は行けそうにない。だから今は一緒に居るよ」


「それは人を斬ってきたから?」


「そうだよ。正義の為とは言え、僕は多くの人々を斬って来た」


「だから今だけでも、せめて」


キスをして沖田は言った。


「今は夫婦だよ」


夕食が運ばれてきた。食べれそうかい、と聞くと


「頑張って食べる」


と箸を持って食事に取り掛かった。沖田は静かに理恵の食事を見守っている。


両親が病室へやってきた。理恵の友人からの花束と手紙だ。理恵は喜んで受け取った。面会時間の期限も迫って来たので沖田は帰る事にした。夜が沖田を包む。沖田は無常感に包まれていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る