第129話赤面

「入っても良いですか」


詩織が障子しょうじ越しに声を掛けた。


「良い」


失礼しますと詩織の目に飛び込んで来た姿はパンツ一枚の斉藤であった。常に酒を飲んでいると言うのに筋肉の隆々とした体に詩織が釘付けになった。


「すまぬな、着替えを見せるなど」


それでも着替えを急ぐ風でもなく、ゆっくりとジーンズを履く。シックスパックの腹筋に分厚い胸板。それでいて無駄な脂肪が付いていない。詩織はしばらくそれを鑑賞することにした。


「要件はなんだ」


すっかり忘れていた詩織が思い出したように答えた。


「前回モデルとして出演してから反響が凄くてまたモデルのお仕事をお願いしたいとの事です」


「あまり乗る気はせぬが金の為に止むを得まい」


斉藤は了承した。詩織は隊士の居室を後にしたが何故かドキドキしていた。慌ただしい一日が終わり、詩織は部屋に戻った。何故か斉藤の裸身が目に焼き付いていて忘れられない。


「斉藤さんはイケメンだ」


風呂に入りながら詩織は思った。隊長として、剣士として、男として一人前である。若干二十歳にしてあの貫禄である。


「しかしダメだな、大酒飲みだ」


チヨは口を酸っぱくして言う。


「詩織や、酒飲み、博打打ちは男にしちゃいけないよ」


まだ十七歳だと言うのに随分厳しいアドバイスだ。確かに斉藤は酒が有れば、止めなければいつまでも飲んでしまうくらいの大酒飲みだ。詩織のSNSに斉藤に関するダイレクトメールが届く。


「雑誌見たよ。荷物持ちの付き人がモデルデビューじゃん。腹筋も凄いしイケメンだし」


「でも‥‥やめとく」


「何がでもよ、言いなさいよ」


催促されても仕方が無いのである。現代に居るべき人間ではないのだ。あの厚い胸板に抱かれたらどんなだろうかと想像して悶々とする詩織だった。

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