第79話年始の言葉

隊士一同は初詣を終え、道場に端座した。久し振りの袴姿である。上座に近藤、隣に土方が並んだ。


「隊士諸君!年始をこのような場所で迎えるのは誠にもって感謝である。小野田家当主小野田祐介殿の助力が無ければ我々は路頭に迷っていたはずである」


道場の入り口でチヨと祐介が聞き耳を立てている。


「百五十年後にやって来た我々は平和な日本を己の身に刻んで来た」


「各々方にそれぞれ事情も出来よう。しかし本分を決して忘れないように」


「それは我々の元居た時代に帰る事である。これをもって年始の言葉とする」


チヨ、薫、詩織がおせち料理と酒を運んできた。近藤は続けた。


「諸君、決して小野田家への報恩を忘れないように」


祐介はその言葉を聞いてほっとしたのだ。彼ら新選組隊士は真の侍たるべく時代の狭間はざまで剣を頼りに駆けてきたのである。一時は真剣に警察へ相談しようかと思ったがしなくてよかった、と胸を撫でおろした。


「して原田君、お気に入りの女優とはどういう人物だ」


近藤が原田に話題を振ると


「はい、恥ずかしながら歌舞伎に入れ込む人々の心持ちになった次第であります」


「それほど美人なのかね」


「はい、絶世の美女かと」


「原田さん、入れこむねぇ」


沖田が茶々を入れると一同笑いが起きた。


「今年はそれぞれ忙しくなるな。吉村君、中学校の件はどうなった」


「現在の進捗しんちょくでは無事に入学できそうです」


「うむ、現代の学問は我ら隊士にとって必ずや力になろう」


祐介は決してこの男達は現状に甘んじず、希望を持って生きているという覚悟を感じた。


「されど新年である。各々ゆるりと過ごされよ」


穏やかな酒席となった。

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