第67話近藤、戸籍を得る

近藤はノートパソコンの勉強をしていると祐介がやって来た。


「近藤さん、就籍許可しゅうせききょかが認められた書類が届きましたよ」


晴れて近藤は日本の国民になったわけだ。祐介は続ける。


「これが良いのは、つまり他の隊士の皆さんも戸籍を有する事ができるという事なのですよ」


日本には無戸籍の人が居る。親が出生届を何らかの事情で届け出なかったりする事がある。そんな人たちが成人して各種の行政に手続きをする際、困ってしまう。それを救済するための制度の一つが就籍許可申請の申し立てである。


原田が言った。


「それならば私も就籍許可の申請をしたいのですが」


原田は車の免許が欲しいと言っていたのを祐介は思い出した。


「それでは次は原田さんの手続きをしましょう」


祐介は嬉しかった。寄るも無く浮草のようであった隊士達が晴れて日本国民として迎えられるのだ。


土方が言った。


「我々は本来現代に居てはならない人間ではありませんか?それが現代の戸籍を有して何の意味が有るのですか」


正論である。祐介は返答に困ったが続けた。


「戸籍が有ると住民票と言うものが作成できます。それは現代日本において必要不可欠なものです。隊士一同の皆さんには不自由をさせたくないのです」


土方はそれ以上は追及しなかった。


「局長が得たと言うならば副長の私も得なければならない。祐介殿、宜しくお願いします」


土方が頭を下げた。この男は正当で、合理的な事には従う。原田は職場の同僚から住民票の話は聞いていたらしい。


「疑問を持つのは当たり前です。長いものには巻かれろと言うではないですか。我々も巻かれて現代日本の恩恵を受けようではないですか」


原田は説得するように言った。しかし内心、隊士が全員自分の意見に同意するとは思っていない。原田とて自分の言動に空虚くうきょを感じるのだ。

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