第55話永倉と女

「これは一体どうしたのだ」


永倉は駆け寄り、女を見た。酒臭い。かなり飲んでいるようだ。このまま放っておくのはこの寒さでは危険である。


「只今戻りました」


永倉が女性を背負っていたのを詩織は見て驚いた。


「永倉さん、その人どうしたんですか」


「家の前に倒れ込んでおりました。放っておく訳にもいかず」


居間の一隅に女性は運び込まれた。暖かい場所であるので取り敢えずは安心である。

毛布にくるまっている。


「永倉君、君も休んではどうだ」


近藤は声を掛けたが


「いえ、気になるので側に居ます」


そう答えて側で女性を見守っている。例え酔いに酔って倒れている者が男性であれ女性であれ永倉は保護していたであろう。


どれだけ時間が経ったのだろう。女性が目を覚ました。チヨが白湯をもってきてくれた。


「ここは一体‥‥」


「小野田家です。貴女は酔い潰れて眠ってしまったようだ」


女性は白湯をすすりながら永倉と二、三言葉を交わした。


「家に帰らなくちゃ」


酔いは醒めたのかバタバタと帰る準備をしていた。しきりに持ち物の点検をしている。


「お世話になりました。みっともない姿で申し訳ありません」


女性は永倉に礼を言った。


「酒は飲むなとは言いません。しかし度が過ぎれば問題です」


そう言うと女性は


「もっともです。最近ストレスが多くて」


「すとれすとは何ですか」


女性が唖然としている。居間にある時計を見て女性が慌てた。


「いけない、急がなきゃ」


「気をつけてお帰りなさい」


永倉は玄関先で見送った。詩織が


「永倉さんも女性に弱いんですか」


なんの、と答えて


「道に人が倒れていれば手助けをするのが当然です」


その後その女性は再び現れるのだがそれはその時の話である。

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