第43話沖田の稽古
病棟の中庭にはベンチと少し広いスペースがある。日頃は車椅子の患者や点滴をぶら下げた患者がブラブラと外の空気を吸いに来ている。沖田は稽古場所をここに決めた。弟子になった中村君に素振りを見せた。
「ゆっくりで良いんだよ、ゆっくりね」
少年は沖田の言うようにゆっくり
「私の素振りを見るんだ。いつかきっと君にもできるから」
鋭!鋭!と気合を発して素振りをする。丸太のような木刀を軽々と振る。あまり無理はさせてはいけないと思い、短い時間で教える事にした。汗はちゃんと拭くんだよ、といって二人は別れた。
そうして二人は稽古を続けた。毎日、少しずつ。冷え込みも相まってか少年の白い頬は薄っすらと赤く染まる。決して無理をさせない。
ある時沖田が部屋に居ると中村少年の母親がやって来た。息子が残しがちな食事を良く食べるようになり、元気になったと言う。
「いやいや礼にも及びませんよ。彼は頑張り屋です、きっと上達できるでしょう」
そう言うと母親は困った事が起きたと言う。子供同士で、新選組の沖田総司は死んだから中村少年に稽古をしてくれる人は同じ名前の別人だと言われたらしい。沖田は難しい事を考えたりするのは苦手だ。
「もちろん、新選組の沖田総司が生きているはずはありません。同姓同名の別人ですよ」
そう言って煙に巻いた。
ある日いつものように中庭に出ると中村少年の側に少女が居た。話を聞くと中村少年から話を聞き、自分もやってみたいと言う。良いですよと新しい小太刀を持ち出し、三人で素振りをした。中村少年には少し早く、力み過ぎないようにと指導し、少女にはゆっくりと振り、綺麗な素振りをするように教えた。そして最後には自分の素振りを見せる。今日は少し時間が長くなったが二人とも大丈夫そうだ。
「今日の稽古はこれで終わりです。体の汗をしっかり拭く事」
沖田の退院が迫ってきている。
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