最終話 未知の土地へ出発だ。
「クズノハさん、綺麗でしたねぇ……。」
「そうね、あれは凄かったわ。」
魔王とクズノハの式典・披露宴が終わって3日、メアリーとカタリナが家の広間でクズノハの姿を思い出してはほぅっとため息をついている。
やはり女性だし、ああいう姿や式典には憧れるのだろうか?
俺はそんな2人を見ながら広間の一角にある机で簡単な書類チェックをしている、全てを書斎に持っていくとチェックする暇が無い可能性があるのでそれを防ぐためだ。
何もしてやれないのは申し訳なく思うが……俺がするとなると規模はあれ以上になるだろうし、そんなものを再々開くなんて出来ない。
あの規模の宴会はこの村最大の危機に陥らせたからな、なにせドワーフ族が最低限の仕事しかしなくなるくらいには疲労が溜まってしまっていたし。
宴会の次の日は料理に携わった人を強制休養させて、村の住民は魔族領と人間領好きな所に外食へ行かせてもらった。
そこでも大騒ぎになったけどな、急に押し掛けて申し訳ないと思っている。
閑話休題。
しばらく仕事をしながら2人を見ていると、階段を下りる音と共にウーテの声が聞こえて来た。
「メアリーさんもカタリナさんも、綺麗だったのは分かるけど仕事に行かなくていいの?
狩り部隊も片付け部隊も、相当忙しいらしいけど。」
「今日は休みですよ、何せ倉庫の食材がほぼ空っぽになったので1日の仕事量が半端じゃなくて。
ですから日の仕事を増やした分少し人数を減らし、かわりがわりに休みを取ることにしたんです。」
「私も同じく、こっちは生活魔術で楽々だから今日終わるって言ってたわ。」
そうだ、倉庫が空っぽで1日休んだドワーフ族の断末魔が村中に響いたのを思い出した……だがあれだけの人数が3日間飲み食いしたんだし当然と言えば当然。
むしろ補充無しで3日間宴会出来るだけの貯蓄があるのがすごい。
そしてあの便利な生活魔術を持ってしても掃除に3日かかるのもすごい、皆どれだけはっちゃけたんだろ。
「ならいいんだけど。
私も今日は休みだし、一緒にだらけようかなぁ……クズノハさんの晴れ姿が忘れれないのは事実だし。」
「そうですよねぇ、綺麗でしたから。」
「やっぱり憧れるのか?」
あまりにクズノハの姿を羨望しているので聞いてみる、十中八九そうだと返ってくるだろうが。
「そうですが、あれより大きな規模となるとこの村を持ってしても不可能なので……やるならもっと先ですね。
ですが伴侶になったという区切りをつけるのが羨ましいんですよ、開様とは成り行きのようなものでしたので。」
「「私達も同じー。」」
なるほど、そういう感じ方もあるのか。
確かに結婚式に憧れる女性は多いし分かるような気もする、しかし俺も考えてたしメアリーもさっき言ったようにあれ以上の規模の式典はなぁ。
「話聞こえてきたけど、それなら旅行にでも行かない?」
広間の奥で図面を眺めていた流澪が会話に口を挟んでくる――旅行かぁ。
「いい情報があるのよ、村長一人でミハエルさんの所へ行けば理由が分かるわ。」
「……?
どういうことだ?」
「いいからいいから。」
そう言われて流澪に半ば強引に家から追い出される……仕方ない、ミハエルさんの所へ行って見るとするか。
「ミハエル、居るかー?」
ミハエルの家に到着、玄関をノックして呼びかけると「村長ね、入ってー。」と返事があったのでお邪魔する。
イザベルの荷物はだいぶ減っている様子、今はザビンとのアトリエがあるのにまだ荷物が残っていることに驚きだけど。
「流澪ちゃんから話を聞いてきたのよね?」
「あぁ、そうなんだが内容はさっぱりだ……いい情報としか聞いてない。」
「転移魔法陣の革命が起きたって伝えてたのに、流澪さんったら。
まぁいいわ、クズノハが村に残した最後の置き土産を私が預かってるのよ。」
転移魔法陣の革命にクズノハの置き土産だって?
いったいどういう事かさっぱりだ、流澪はこれを聞いて旅行に関するいい情報だと判断したのだろうか。
「これはほぼ禁忌と言っても差し支えない技術よ、クズノハもこれしか作らないって言ってたし。
それを私に渡したのも内容を聞いて理解したわ――村長は魔術刻紙って覚えてる?」
「もちろんだ、クズノハが開発した魔術を記録して使えるようにする紙だろ?」
「そうそう、あれはあれで完成してたけどクズノハは納得いってなかったみたいで……個人的に研究をずっと続けてたみたい。
で、その研究の終着点を私が受け取ったの。」
「終着点?」
「そう、終着点。
クズノハはこれを永久魔術刻紙と名付けてたわね。
これに刻まれた魔術は消さない限り永久的に発動させれる――転移魔法陣を持ち運ぶ事が出来るのよ、それに気付いたクズノハは私にこれを託したってわけ。」
なんだって、そんなの最早反則じゃないか。
神の力も無しにそれが出来るのは流石にパワーバランスが壊れてしまう……だから禁忌と言っても差し支えないというわけか。
「で、転移魔法陣の革命が起きたって流澪さんに酒の席で伝えたら旅行に行きたいなって言ってたってわけ。
預かった責任はあるけど、村長になら大丈夫でしょう。」
「いいのか?」
瞬間移動があるから問題無いように思えるが、あれは俺が居ないと一方通行だからな。
誰でもこちらに来れて帰ることが出来る、これが出来るのはかなり大きい。
「ちょっと借りる方向で話をしてみるよ、まだ預かっててくれ。
旅行に行かないかもしれないし。」
「分かったわ、いつでも取りに来て大丈夫だからね。」
俺はミハエルの家を後にして家に帰り妻に永久魔術刻紙の事を伝えた。
結果は大賛成、すぐにでも旅行に行こうとの事だ――嘘だろ。
永久魔術刻紙の話をした次の日、既に出発が決定して最終チェックの段階。
その日のうちに村中へ俺達の旅の話が知れ渡り、現在外は見送りムードになっている……なんでこう村の住民はこういう方向へ思い切りがいいんだ。
最初は俺を村から出したがらなかったのに。
「荷物はこれくらいでいいですかね?」
「いつでも帰って来れる旅行なんだ、少ないほうがいいだろう。」
バックパックいっぱいの荷物を抱えるメアリー、この中で一番旅に慣れているのはメアリーだろうがその場その場の対応をするわけではないのでもっと少なくしていいと思う。
「不測の事態があるかもしれないし、あってもいいと思うけど。
それにそれくらいなら私が持つから。」
「私も持ちますよ!」
ウーテとエルケがガッツポーズを取ってふんすと鼻を鳴らす、ウーテはともかくエルケがそんなに力持ちだとは思わなかったぞ。
「私は戦闘面では何も出来ないからメアリーの采配に任せるわ。」
「カタリナさんに同じくよ。」
カタリナと流澪はお手上げのポーズ、確かに非戦闘員も居るし備えておくのは悪くないか。
「さて、それじゃあ1シーズンまるっとお休みをいただけましたし好きな所へ行きましょうか!」
「「「「おーー!!」」」」
この話が出て2泊3日程度魔族領・人間領にお邪魔する程度かと思ったら、オスカーの「季節が変わるくらい楽しんできてはどうだ。」という声を全力で取り入れたらしい。
村の安否を心配したが遠隔会話もあるしいつでも帰って来れるとなると、特に問題はないそうだ。
その勢いに負けて俺もそれを承諾、実際ちょっと楽しみだし。
「魔族領・人間領に行っても面白くないしなぁ……まだ見たことない土地に行ってみるのはどうかしら?
大精霊様ももっと世界を見るべきだって言ってたし。」
「そうね、いろんな場所を回って異文化交流をしましょう!」
「困っていたら助けて、第二の村を築いてもいいかもしれないわね。」
「村長と未開の地の村の力があればそれも可能ですね、せっかくの神ですし広く布教するのはいいことかと!」
「移動なら任せてちょうだい、皆をどこへだって運んであげるわ!」
妻達は行き先でわいわい盛り上がっている、どうやら一切不明らしいけど……それは面白そうでもある。
前の俺なら不安で止めていただろうが、今の俺と妻達――それに村といつでも繋がっている安心感があるからな。
「開様、出発の準備終わりました!」
「よし、それじゃあ出発しようか。」
「「「「「はーい!」」」」」
ドラゴンの姿になったウーテに乗り、村の皆に見送られて出発。
この世界はいったいどれだけ広いんだろう、そして他にどんな種族がいるんだろう。
新しい出会いと技術、それに癒しを求めて出発だ――宛ての無い旅行だがワクワクが止まらない!
神が適当に俺を選んで異世界転移したが、スキル【想像錬金術】《イマジンアルケミー》が便利すぎて楽しい。 えふしょー @pomin0215
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