第409話 話をしたゴブリンがすごい奴だった。
ウーテの背に乗って15分ほどだろうか、ラウラの指示の下にゴブリンを追いかけてその背を確認することが出来た。
近くに着地すると向こうもこちらに気づいたらしく立ち止まり一礼、先の箱やこの立ち振る舞いを見る限り本当に魔物かどうか疑わしくなる。
ウーテも飛行を中断して着陸、皆で歩いてゴブリンに近づいた。
だが見えるのはこのゴブリン1匹だけ、もっと集団生活をしてると思ったんだが……。
「では、アタイとオーガで話を聞いてくるわ。」
「頼んだぞ。」
ウルリケとオーガは2人でゴブリンに近づく、ウーテはウンディーネの力でドーム状に水の結界を展開した。
これで外からは誰も居ないように見えるらしい、それにグレーテの気配遮断でここにこれだけの人数が集まってるとは到底思えないそうだ。
いくらでも悪いことに使えそうな能力だが、それをしない皆の人格に感謝。
ウルリケに目をやると、物凄い真剣な目で持参していた紙とペンを走らせて2人の話を聞いている。
恐らくオーガは話しながら遠隔会話でウルリケに通訳をしているのだろう、滅茶苦茶器用だ。
「あれは長くなりそうね……。」
「こちらからも謝礼を渡して、何をしてほしいか聞くくらいだろう?
そこまで時間はかからないと思うが……。」
「ウルリケさんが紙に書いてる文字量を見る限り、絶対それだけじゃなさそうよ。
しかしあのゴブリン物凄い肝っ玉が太いわね……これだけ実力者が揃ってるのに怖気づいてしまうどころか、対等に話が出来るなんて。」
確かに、言われてみればそうだな。
そもそも村の住民と普通に話してコミュニケーションを取るまで分かり合うなんて、いくら社会性があるゴブリンと言ってもおかしい気がする。
それに他のゴブリンが居ないのも変だ、これだけの人格者なら他のゴブリンから慕われててもおかしくないはず。
「ここか……まったく、ワシもついていくつもりだったのだが置いていきおって。
視覚歪曲に気配遮断とは、見つけるのに少し苦労したぞ。」
後ろからオスカーの声が聞こえて全員で振り返る。
ウーテとグレーテは相当驚いているな、まさか誰かに見つかるなんて思ってなかったのだろう。
流石オスカー、格上にこういう小細工は効かないということか。
その後オスカーはキョロキョロしながら、とんでもない事を口にした。
「村の住民と話せるゴブリンに覚えがあってな……お、やはり奴だ。
ホブゴ、久しぶりじゃないか!」
オスカーは手を振りながらゴブリンに近づいていく、向こうもオスカーに気付いて手を振り返した。
……二人とも友人だったのか!?
「悪かった、まさかホブゴが生きてるとは思わなくてな……。
しかし話を聞く限りホブゴじゃないかという思いが出てきて、どうしても確認したくなったのだ。」
「私も旧友に会えて嬉しい、と言ってます。」
ホブゴというゴブリンの言葉をウルリケが頑張って通訳している、本当に友人なんだな。
「しかしゴブリンがここまで社会性を持って長く生きている、そしてオスカーと友人って……一体どういう関係なんだ?」
「ホブゴはグレーテと知り合う前、ワシがまだ世界を飛び回って強者と戦う旅をしている時だったな。
この地で明らかに違う実力を持ったゴブリンを見て、決闘の後仲良くなったのだ。」
なんだって、オスカーと決闘して生き延びている……?
このゴブリン……いやホブゴ、もしかしなくても滅茶苦茶強い……?
「ワシの思う限りホブゴはゴブリンの突然変異体だ、出会った時から既に理性があるのを確認している。
聞く限りホブゴ以外のゴブリンにはこういう特徴が無いそうだ、ワシも世界中を飛び回っても見たことない。
それとだな、ゴブリンは本能で狩られる対象だというのを理解しているらしい……だからこれまでゴブリンを討伐してきたからといって恨みを持つことはないというのは聞いていたな。」
それを聞いてひと安心、もし恨みを持たれていたら相当厄介な相手だし。
それも考慮して動くべきだったかもしれないが……結果オーライということで。
「オスカーさん……ホブゴさんの言葉が分かるのですか?」
「うむ、最初は分からなかったがお互いにいい練習相手を見つけたと思ってな。
鍛錬の休憩中にお互いの言葉を教え合ったのだ、ホブゴは喋ることは出来なかったがこっちの言っていることは全て理解している。
ちなみにゴブリン文字というのは全てホブゴが書き記したものだぞ、他のゴブリンにそんな芸当は出来んからな。」
ウルリケはウルリケで研究者の血が騒いでいるのだろう、話を聞きながら物凄い勢いで自分の考察を含めたものを紙に書き記している。
「それより、突然変異体とは言えそこまで長寿なのってあり得るのか……?」
俺は単純な疑問を投げかけてみる、何となくゴブリンって短命なイメージなんだよな。
「それに関してはアタイから説明しますね!」
俺の疑問が聞こえたのか、ウルリケは元気よくそれに返事をした。
オスカーも何か言おうとしたが、ウルリケの言葉を聞いてひと呼吸置いた後に口を開いた。
「生体研究とやらをしている者の意見も貴重だな、聞いておくとしよう。」
オスカーにしか知らないこともありそうだ。
だが、まずはウルリケの話を聞くとするか。
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