第392話 ウルリケが出した2つのお願いを聞くため家に向かった。

「あ、村長!

 人工培養液が作れたらこの容器の中に入れておいてくださいね、それで完成するので!

 そして、これが材料になるのでよろしくお願いします!」


「これが……?」


あれから流澪とシュテフィの家に行って中に入ると、ウルリケが人工培養液の材料を準備していた。


俺は疑問を呈したんだが、ウルリケはそれを気にも留めずそのまま家を出て行ってしまったけど。


「え、これ……本当に大丈夫なのか?」


「なるほど、そういうことね……。

ウルリケさん、本当によくこの世界の技術でこの答えにたどり着いたわ。」


流澪は材料を見て納得している、俺には納得出来ないけど。


材料は水と塩、それに豆と砂糖。


料理でもするのだろうか、それにしたって簡素な物しか出来ないし美味しくなさそうだけど。


「培養液なんて難しい言い方してるけど、組織液を作ればいいのよ。」


「待て、それも難しいんだけど。」


「はぁ!?

 学生時代どれだけ勉強サボっていたのよ……組織液は人間の体に一番多く含まれている水分よ。

 成分は水と塩化ナトリウム、それに糖分やたんぱく質なんかの栄養素。

 ここにある材料で作れるってわけ。」


そういえばそんな事を習ったような気もする、理系の授業は本当にちんぷんかんぷんだったからな……あまり覚えてないんだよ。


「じゃあ組織液を思い浮かべたらいいのか?」


「恐らく大丈夫だと思うけど、一応ウルリケさんに頼まれた人工培養液を思い浮かべてたら?

 もし間違ってたら大問題だし。」


「分かった、じゃあそうするよ。」


俺は流澪の言う通り人工培養液を思い浮かべ、想像錬金術イマジンアルケミーを起動。


よし、材料が光ってるから作れるな……錬成してあの容器に入れてっと。


「これで言われてた事は終わりだな。

 しかしあの容器、何か変わった模様が書いてあるものが入ってるけど何だろう。」


どう見ても石のようなんだけど……大丈夫なのか?


俺の言葉を聞いた流澪もそれを覗き込んだが分からない様子、恐らくこの世界特有のものなんだろうけど、石が入ってた液をフライハイトに使うのはかなり不安がある。


2人で眺めながらあれは大丈夫か意見を交わしていると、後ろから声が聞こえて来た。


「あれはルーン文字が書いてある石。

 あの子私よりルーン文字を使って色々出来てるみたいなのよね、あの石には中で生物が生きれるように再生成するための術式が描かれてるわ。

 石の成分は水分に溶け込まないものらしいから安心していいって。」


声の主はシュテフィ、まあシュテフィの家だし当然と言えば当然か。


「そうだったのか、それなら安心したよ。

 しかしルーン文字をそこまで自在に扱えるとは、ウルリケの技術は本当に有用だな。」


「そうね、それに時刻計っていうのも作ってるし。

 よくわからないけど、あれが2周したら大体1日らしいわよ。」


何だって?


シュテフィがいう時刻計の特徴はどう聞いても時計だ。


「どこにあるんだ?」


「ほら、そこの壁にかかってるでしょ?」


シュテフィが指差した壁を見ると、そこには確かに時計がかかっている……地下に居ながらどうやって作ったかは分からないがこれは大きい。


季節と太陽の位置で大体の時間は分かるようになっていたが、やはり時計はあったほうが便利だ。


……というか、俺も何で想像錬金術イマジンアルケミーを使って作らなかったんだろう。


「ウルリケさん凄いわね、そんなに色んな技術を持ってるなんて。」


「根っからの変人だったのよ、あの子。

 研究が大好きだったから戦いを好む仲間からは疎まれていたし、ウルリケはそれを受け入れてた。

 そのくせ迷惑はかけるしそれを自覚してないし何も思ってなかったし……当時は本当に性格悪かったわよ。」


性格が悪いというより問題児というか天才肌というか……。


しかし、ウルリケを見る限り性格が悪いとは思わなかったけどそういう意味だったんだな。


「私はウルリケさん、天才だと思うわよ?

前の世界の技術を多数知ってる私の意見として、ウルリケさんはこの世界で一番進んだ技術を持ってると思うし。」


「待て、それは本当か?

蒸気機関を開発してる人間領じゃなくってか?」


「拓志が蒸気機関をどれだけ優れていると思ってるか分からないけど、あんなの大したこと無いわよ。

 でもウルリケさんの技術は完全にオーバーテクノロジー……どうやってここにある道具で組織液や食べ物に含まれている成分を調べ上げたのかしら。

 少し見させてもらったけど、手術に最低限必要な医療器具以外は前の世界に行われていた錬金術に使われていた道具と大差なさそうなのに。」


蒸気機関を大したこと無いとばっさり切り捨てる流澪。


相当すごいと思うんだけどな……しかし星の寿命を縮ませてしまうのは事実だしそこを加味しているのかもしれない。


だが、一番進んだ技術を持っているということは……その条件が満たされてから今まで星の核が送る啓示は全て吸血鬼族に送られていることになる。


「なあシュテフィ、何度かいきなり未知の事を思いついたり気づいたりしたことはないか?」


「何よいきなり。」


「いいから、答えてほしい。」


「うーん、強いていうなら強い太陽光が吸血鬼族以外でも体に良くない気がする……っていうのはいきなり思い立ったかも。

 そもそも吸血鬼族は日光に弱いから先入観だろうって思ってたけど、村長にそう言われると確かにいきなりだったわね。」


恐らく星の核の啓示だな、強い日光が体に悪いなんていきなり思いつくものじゃないし。


しかし研究に興味が無いからそこで止まっているんだろう、なるほど……これは星の核も厄介な方法を取っているな。


だが、こうしないと発展しすぎてしまうんだろう。


「それじゃ次の質問だ。

 吸血鬼族って、シュテフィとウルリケ以外に生き残っているか?」


「それは無いわよ、ウルリケ以外の仲間が死んだところを私はこの目で見たんだから。

 ウルリケは当時誰にも壊せない防護扉を閉めて引きこもったのを見てたし。」


「じゃあ、今吸血鬼族は2人だけってことか?」


「そうね、それがどうしたの?」


やっぱりそうか……これはウルリケの技術を抜かさないようにうまく技術力を底上げしていくしかない。


とりあえず事情を説明しないとな。


オーガとナーガの件は後回しにしよう、そもそもウルリケが外に行ってるから当初の目的を果たせないし。


流澪は嫌な顔しそうだなぁ……事情を理解してくれるといいけど。

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