第260話 魔王とダンジュウロウが村に来たのでジャンクフードを振舞った。
村にジャンクフードが出回って数日、村に来訪している人達も無事食べれたようで村を観光したり鍛錬したりした後は食堂に足しげく通っている。
広場に漂うジャンクフードの匂い、それに釣られて他の人も食堂へ行く……食糧の減りが凄そうだな。
行商からは「是非この料理を我が領にも!」と言われている、一応大切な技術だし見返りがあればと答えてはいるが。
単価は安いからな、売値次第ではかなりの利益を上げることが出来るだろう。
問題はそうなるとチーズの生産量が足りるかどうかだ、魔族領と人間領では作ってないと思うから村の交易だよりになる。
そうなると牧場で働いているケンタウロス族と、加工に携わっているドワーフ族がパンクしてしまうかもしれない。
それは極力避けなければな……どちらも酪農をしてないわけではないしチーズの生産技術を提供するのが先か。
そのあたりは魔王やダンジュウロウ、もしくはギュンターかキチジロウと話をする機会があれば交渉するとしよう。
とりあえずそのあたりを纏めようといい匂いがする広場から離れて家に帰ろうとしていると、ケンタウロス族が俺を呼び止めて来た。
「魔王様とダンジュウロウ様がお見えです、お通ししてよろしいでしょうか?」
グッドタイミングだ、仕事は増えたけど。
「報告ありがとう、俺の家に通してくれ。」
「分かりました。」
ケンタウロス族は急いで定期便の停留所へ向かって走っていく、俺も帰ってお茶の準備くらいしておかなければ。
しかし2人同時に来るなんて珍しい、たまたまタイミングがあったのかな?
「村長、お久しぶりなのじゃ!」
「この前のデパートでは世話になった、次回もよろしく頼むぞ。」
「魔王は久しぶり、ダンジュウロウは言ってくれれば招待するからな。
それより今日は2人で珍しい、どうしたんだ?」
2人が俺を訪ねる理由はいくつか思いつくが、どれかなんてわからないし……全部じゃなければいいけど。
流石にやることが増えすぎるからな。
「どうもこうもあるまい、あの自転車とやらの技術提供の交渉じゃ。
行商からの伝達を受けてこれは使えると確信し会議を開いたものの、村長が出していた条件を解決出来なくての。
どうしようか悩んでいたところ、同じ悩みを持ったダンジュウロウが魔族領へ訪ねて来たのじゃ。
じゃが同じ悩みを持つ者同士、何かきっかけが無ければ解決するはずもなく……どうせなら村長に頼ろうと思ってここに来たのじゃよ。」
要するに俺は丸投げされたってわけか、別にいいけどな。
「自転車の防犯装置は作れる、だがこれは村では採用してなくてな……何せそのあたりの心配が無いし。
一度
それと、盗難なんかの法整備には関わらないかな?」
「平和な村だ、羨ましい限りだよ。
だが仕方ない……それが出来れば是非交易で売ってもらうとしよう。
先ほど村長が使っていた自転車を見たが見たことのない金属だったのでな、人間領で作れるかどうか。」
アルミニウムだからな、ボーキサイトが採掘出来ないと再現は無理だろう。
頑丈で軽く、加工のしやすい金属があれば代わりとして使えそうだけどな。
「法整備に関しては既に出来ておる……というか魔族領にも人間領にも既に合ったというのが正しいかの。
しかし自転車は早く欲しい、すぐに防犯装置の作成方法の確立に取り掛かってもらうことは出来るじゃろうか?」
「それはドワーフ族次第だな、次のデパートの商品作りに忙しければ後回しになるかもしれないし。
それより俺からも聞きたいことがあったんだけど、最近送られた行商の報告書は読んだか?」
「あぁ、料理の件じゃろ?
ピザやハンバーガーと言ったか……村で出てくる食事はなんでも美味しいに決まっておるじゃろと深く考えてはおらぬが。」
「私もワルター殿と同じ意見だ、この村の食事が美味しくないわけないからな。
何を分かり切ったことを、と思っている。
レシピが手に入るなら有難い限りだが……領で再現出来るかどうか。」
まさか信用されているがゆえに大きな出来事だと捉えられてないとは思ってなかった。
新しい料理の名前が出ているはずだし食いついてると思ったんだけど……だが食レポって難しいからな。
言葉選び一つで相手に与える印象はがらっと変わる、ましてや映像や画像を使わず文字だけとなると難易度はさらに上がるだろう。
それもあってピザやハンバーガーの美味さが伝わらなかったのかもな。
「まあ報告書が出されるくらい今村で大流行している料理があるんだ。
とりあえず食べてみてくれ、泊まっていくなら酒も飲んでいってくれて構わないからさ。」
「私はクズノハの所へ泊まっていくつもりじゃが、ダンジュウロウ殿はどうするんじゃ?」
「私もリッカの所へ泊まるとしよう、なので馳走になる。
いや、なりたい。」
自分に正直だな、今のダンジュウロウはリラックス状態だろうし仕方ないだろうけど。
とりあえず2人とも食べるとのことなので食堂へ行って村のジャンクフードを振舞うことに、どんな反応をするか楽しみだ。
「うっま、なんじゃこれ!」
「これは美味い、ピザとやらもいいがハンバーガーとフライドポテトも捨てがたいぞ!
手が止まらん、それに酒も止まらんぞ!」
2人とも料理を出されるや否や匂いに釣られてお腹が鳴った、それと同時に物凄い食べっぷりを見せている。
「これは報告書が悪いのじゃ、言葉が足りんのじゃよ!」
「それは同意だ、もっと熱意を持って書いてもらわないとな。
今度そのあたりを指導要綱に入れておかなければ。」
行商も商売が生業のはずなのにまさかそんなところで指導されるとは思ってないだろう、可哀想に。
とりあえず俺も食べるとするか、昨日も食べたから食べれないと思ったが目の前に絶対美味いと分かってる物があるのに我慢出来ないし。
それに今日のピザは昨日と違う、何か新しいアレンジを思いついて試しているんだろう。
そんなもの食べないわけにはいかない、いただきます。
これは……ポテトサラダを乗せているのか。
それにソースも生地も変わっている、1日でここまで思いつくのがすごいな。
しかも生地の耳にチーズが練り込まれているし、こんなの美味しくないわけないだろう。
3人で料理と酒をつつきながら世間話をする、食べ終えたころには満腹で少し動けなくなっていた。
「そうだ、風呂も改良したから是非ゆっくり楽しんでくれ。
風呂に入ってる間に合うお酒も用意してある、脱衣所の手前に小さい樽があるからそれを持っていってくれればいい。」
「「この村は人を堕落させるつもりか!?」」
2人から同じツッコミが入った、そんなつもりは無いんだが……これも異文化だと思って分かってほしい。
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