第227話 デパート利用権の抽選会でトラブルが発生していた。

今日はデパート開店前日。


教育施設と重なって大変だったろうが、村側も無事に設営と商品の確保が終わったらしい。


開店中は空いた時間の復習に当てて教育施設は休みにするそうだ、これは教育施設だけでなくほとんどの施設がそれに近いことになるが。


村を見回ってもデパート周りはずっと慌しく人が行き来している、荷物も前回に比べて相当な量が運ばれている。


常時品薄状態になっていたのを考えると当然だろうが、そんなに荷物を置くスペースは確保していない……専用の倉庫を建てたほうがいいのかもしれないな。


今回は急にそのような事をしても混乱するだろうし、次回以降の話し合いで聞いてみて必要そうなら建てることにしよう。


そういえば抽選会はトラブル無く進行出来ているのだろうかと気になり、見回りついでに各領へ顔を出すことに。


何も無ければいいんだけど、昨日の抽選会では特に何かあったという報告は回って来てないし大丈夫だとは思うけどな。




「どういうことだ、こんなの聞いてないぞ!」


俺が転移魔法陣で魔族領に移動した直後、そんな声が聞こえてくる。


何事かと思って顔を出すと、強面の魔族の人が抽選会の受付をしているドラゴン族に食って掛かっていた。


命知らずだな、と思いながら何があったのかと声をかける。


「デパート利用権が当たった人が呪い付きの装飾品を付けると言うのが納得しないらしくて。」


「呪いという言葉が悪いんじゃないか?」


俺は率直に思ったことを聞いてみた、俺だってあの魔族の立場なら権利が得られたので呪われた装飾品を付けろと言われても躊躇するぞ?


「きちんと呪いの内容は説明しましたし、期日までに解呪したら何も起きないというのも神に誓って本当だと告げました。

 昨日まではそれで納得されたのですが、今日の一部の方々は納得されない様子でして。」


無警戒なのか信用してくれているのか、後者なら嬉しいが前者ならちょっと心配になる。


強面だから裏の仕事をしていて権利を売り飛ばしたい人かと邪推したが、話を聞く限りあの魔族の人の反応が正常だからな。


「ちょっと俺が対応するよ。」


「何か考えがあるのですか?」


「ちょっとな、これで納得しないなら抽選会を辞退してもらえばいい。」


そう言って俺はトラブルが起きている机に向かう、強面の魔族の人も俺を見て優位に立てると思ったのかニヤリと笑った。


「あんた未開の地の村の村長だろ、デパート利用権が当選した人に呪いの装飾品を配るってどういうことだ!」


「これは説明があったとおり、この抽選会の為だけに作った目印のようなものだ、呪いも期限までに解呪すれば問題無い。

 次のデパート開店からしばらくの期間猶予を見て発動するようにしているし、呪いの内容もちょっとした腹痛くらいのものだが……それでも不安だろうか?」


とりあえず俺は村の責任者という立場で魔族の人と話をする、これで納得すればいいんだが。


「当たり前だろう、呪いが掛けられている不吉な物を身に付けさせる神経が理解出来ん!

 俺はそんなものを付けたくない、俺の知り合いだって皆そうだと言っているぞ!」


その魔族の人の仲間だろうか、同じような雰囲気の人達が後ろで頭を縦に振っている。


「呪いを軽率に扱ったのは申し訳ない、だがこちらも利用権を転売しようとしている動きがあると商人ギルドから報告が入って対応せざるを得なかったんだ。

 せめてものお詫びに、村長である俺がこれを付けて絶対安全だということを証明するよ――もしそれで駄目なら抽選会を辞退してもらう。」


俺は魔族の人にそう言って装飾品を1つ手に取り身に付ける……うん、特に体への変化はないな。


「そ、そんな事したってそれはたまたま安全なやつかもしれないし、呪いがかけられてないかもしれないじゃないか!」


「では外せるかどうかあなた自身が確認すればいい。

 もしこれで不安ならもう1つ身に付けようか?」


俺は腕を差し出すと、魔族の人は力いっぱいそれを外そうとするがビクともしない。


腕が痛いからそんなに引っ張らないでくれ。


「くっ……分かったよ、納得するしかない。」


「大将、いいんですか!?」


食って掛かって来た人は俺の対応で身を引いたが、仲間がそれを見て驚いている。


「仕方ないだろ、魔王様と肩を並べれるほどの人が何の躊躇も無く呪いの装飾品を身に付けるなんて……向こうの言い分が本当だと証明されたようなものだ。

 抽選会の邪魔をして悪かった、俺達は最後尾から並び直すことにするよ。」


そう言って強面の魔族の人は仲間を連れて列の後ろへ歩いていった、もしかしたら転売屋がゴネているだけかと思ったが……そうじゃなかったのかもな。


「村長、ありがとうございました!」


俺は抽選会を運営している皆に頭を下げられる、当然のことをしただけだからそんな風にしなくていいぞ。


それより俺が魔王と肩を並べれる人と比喩したのが気になる、俺は魔族領の中でそんな重要人物に位置付けられているんだろうか。


そんな偉い人になるつもりはないし、なったつもりもないんだけどな。


「そういえば人間領の抽選会は大丈夫でしょうか……。」


俺が自分の事を考えていると、ウェアウルフ族がぽつりと呟いた言葉が耳に入った。


確かに、魔族領でトラブルが起きたなら人間領でも同等のトラブルが起きててもおかしくない。


「ちょっと確認してくるよ。」


俺はそう言って魔族領を後にする、せめて人間領はトラブル無く普通に抽選会をしててほしい。




人間領に到着すると、大勢の人が集まってはいるが特にトラブルも無さそうだった。


安心していると「何かあったんですか?」と声をかけられたので事情を説明。


「あぁ、さっき似たようなことがありましたね。」


あったのかよ!?


「ですが、トラブルを聞きつけたダンジュウロウ様が直々にその場を収められました。

 装飾品を1つ身に付けてそのまま城へ戻られましたが。」


どうやら俺と同じ対応をしたらしいな、今度ダンジュウロウにお礼を言わないと。


「でも村長が来てくださって良かったです。」


「トラブルは収まったのに、他に何かあるのか?」


「ダンジュウロウ様が装飾品を持っていかれてしまったので、当たりくじの数が合わなくなってしまいまして……。

 シュテフィさんとアラクネ族にお願いして1つ持ってきていただけないでしょうか、ちょっとこっちは手が離せそうにありません。」


そう言われて俺はハッとする、魔族領でも同じことが起きているから俺のせいで別のトラブルが発生するかもしれない……というか絶対する。


「気づかなかったよ、ありがとう。

 すぐに準備してもらって持ってくるから。」


俺は猛ダッシュで村に帰りアラクネ族に事情を説明、予備を出してもらいシュテフィに呪いをかけてもらって魔族領と人間領に1つずつ渡してきた。


最近慌てて走ることが多い気がする……疲れたがトラブルが起きる前で良かったよ。


さて、抽選会もひと段落したしデパートが開店するまでに作りたいアンケートの原案を考えなきゃな。


そう思って俺は書斎に向かう、活版印刷も出来るようになったから準備もしやすい。


問題は答えてくれるかどうかだが、回答率も踏まえて調査することにするか。

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