第168話 ドワーフ族を労うために、この世界にない酒を造った。
一度帰ったドラゴン族が2種族の里に向かって2日が経った。
作物の補充をして鍛錬所へ向かっていると、キュウビの影法師に声をかけられる。
「村長、2種族が村に向かって今日出発するが……宴会はあるのか?」
「歓迎会はするつもりだぞ、村の能力が不安で移住を渋っていたんだし安心させるためにもしたほうがいいと思ってる。」
出発するということはわだかまりが解けたんだな、それは一安心だ。
「その、私も参加していいか?」
「それは大丈夫だけど、いつもなら普通に帰ってきて参加するのにどうしたんだ?」
「メアリー殿から村長に許可を取れたらと言われてな……優しそうに見えてなかなか厳しい。」
一応贖罪の旅だからな、俺の許可がないとダメだと考えたんだろう――2種族の争いを止めれたのはキュウビの手柄なんだから少しは労ってやらないとな。
「じゃあキュウビも参加ということで、ドラゴン族に乗せてもらって帰ってくるといいよ。」
「分かった、恩に着る……村の食事はいつ食べてもいいものだからな。
明日には村に帰ることが出来ると思う、準備をよろしくお願いしますとメアリー殿からの伝言だ。」
「分かった、ドワーフ族に伝えておくよ。」
会話を終えて鍛錬所の前に食堂へ寄ってドワーフ族に宴会の準備を頼むと「あいわかった、腕がなるわい!」と言って厨房へ引っ込んでいく。
本当に料理が好きなんだな、だがそれにものすごく助けられているからドワーフ族にも何かしてやりたいんだけど。
鍛錬をしながらドワーフ族が喜びつつ宴会にも役立つことはないかと考える、でも喜ぶことってそのドワーフ族が仕事にしていることしか思い浮かばない。
「どうしたの、そんな険しい顔して。」
声をかけられて前を見ると、シュテフィが俺の顔を覗き込んでいた。
「そんなに険しい顔だったか、すまん。
ドワーフ族にはずっと世話になってるから何かしてやりたいけど、明日の宴会にもそれを役立てたいんだ……何かないかと思ってね。」
「ドワーフ族は確かにすごいからね、あの種族の技術力は脱帽させられるわ……封印される前の時代に関りが無くてよかったと思うくらいに。
でもそうねぇ、鍛冶と料理のドワーフ族が両方喜ぶのは新しい料理やお酒じゃないかしら?」
シュテフィの一言を聞いてハッとする、料理を作ってもらうのは労いにならないと思ったが新しいメニューは確かに喜ぶな。
「それと、ここのお酒のラインナップに少し不満があるのよね……ワインがもっと欲しいのだけど。」
「ワインか……俺が知っているワインを
あまりいいものを飲んだことはないから皆の口に合うかどうか分からないが。」
「是非お願いしたいわね、ドワーフ族だけじゃなくて私も他の人も喜ぶと思うわ。」
酒は皆好きだからな、飲めない人も少し居るけど特に気にしてはないみたいだし。
「じゃあ鍛錬が終われば取り掛かってみるよ、ありがとう。」
「どういたしまして、じゃあ私も鍛錬に戻るわね。」
俺と別れてリッカの所へ刀術の鍛錬に行くシュテフィ、訓練用の刀を眺めて妖しい笑みを浮かべている……。
刀に魅せられたみたいだな、でもちょっとその笑いは怖いのでやめたほうがいいと思うぞ。
酒蔵に入ってワインの在庫を見る、多少ワインがあるにはあるがほとんどはビールだ。
ワインはドワーフ族の好物じゃないのだろうか、少し不安になって来たぞ……。
「どうしたんじゃ村長、酒蔵に居るのは珍しいの。」
デニスか、宴会で使う酒の在庫を確認しにきたのだろうか。
「ドワーフ族を労ってやりたくて新しいワインを作ろうと思って見に来たんだが、在庫を見るにビールがほとんどだよな。
ドワーフ族はワインが好きじゃないのかと思って。」
「そりゃ違うぞ村長、ワインは好きじゃが熟成に時間がかかる。
熟成待ちのワインは別の所で保管しておるぞ。」
そうだったのか、じゃあ飲めるワインが少ないだけでワイン自体は好きなんだな。
「それが聞けて良かったよ、俺が知ってるここにないワインを作るから黒ブドウと白ブドウを両方分けてくれないか?」
「ほう、それは楽しみじゃのぅ。
ブドウは準備してくる、容れ物も一緒に錬成するじゃろうし倉庫に持っていくぞい。」
デニスはビールの在庫を確認し終えて酒蔵を出ていく、じゃあ俺は倉庫で待たせてもらおうかな。
俺が倉庫に来て10分、軽く倉庫内の在庫を確認しているとデニスが大きめの箱を2つ抱えて倉庫に入ってきた。
「待たせたの、酒を造っているドワーフ族から分けてもらったぞい。
これだけあれば足りるかの?」
「充分だよ、口に合わなかったらダメだからまずは少量で作るつもりだし。」
「ところで黒も白もあるが、赤ワインと白ワインどちらを作るんじゃ?」
「まぁ見ててくれ。」
まず小さめの樽を錬成して容れ物を作り、黒ブドウと白ブドウ両方でワインを錬成した。
完成したワインを樽からグラスに移し、デニスに試飲してもらう。
「これがこの世界で飲んだことないけど俺は知ってるワイン、ロゼワインだ。
どっちかというと女性受けがいいかもしれないが、飲みやすくていいと思うぞ。」
前の世界でいいレストランを予約した時に知ったワイン、美味しくてお店の人に詳しく聞いたのが功を成したな。
……この食事自体はいい思い出じゃないんだけど。
だがレストランにもワインにも罪はないので置いておくとして、デニスが「珍しい色じゃの……。」と言いながら香りをしっかり嗅いでワインを口で転がしている。
ソムリエみたいだな、食に関してはやはりドワーフ族はものすごい。
「おおぉ……これは初めて飲む口当たりのワインじゃの。
黒ブドウと白ブドウ両方を使っておるのか、その発想はなかった!
それでこの色とこの味なんじゃな、これはいい発見じゃぞ!」
デニスが興奮気味に感想を述べてくれた、美味しかったようで何よりだよ。
「村長、これはそんな小さな樽じゃ足りんぞ!
もっと作るのじゃ、宴会で出したいんじゃろ?
ここにあるブドウ全部を使って作っても足りないかもしれんぞ!」
「分かった、だが今は材料が足りなくて作れないけど試したいのもあるんだよ。
ここにあるのを全部ロゼワインにするとそれが作れない。」
「何が足りないのじゃ、取ってくるぞ?」
「酵母だよ、今ダークエルフ族が完成するかどうか試してくれてるものをワインに使いたい。」
スパークリングワインも作りたいんだよな、あれも美味しいし。
「ビールで使っている酵母ならあるぞ、それじゃダメかの?」
待て、酵母ってこの村にあったのか――だがよく考えたら酵母を使わないとアルコールも炭酸ガスも生まれないよな。
だがお菓子やパンとの酵母は別か……ならビールに使う酵母で大丈夫かな?
「それで試してみよう、持ってきてくれ。」
俺が頼んだ瞬間デニスは外へ向かって走っていった、行動が早すぎる。
酵母を持ってきてくれたのでスパークリングワインを錬成、これもデニスに試飲してもらった。
結果は大好評、喜んでくれたようでよかったよ。
「この2種類のワインはドワーフ族の労いと宴会に役立てることが出来るかな?」
「当たり前じゃ、ワインに関しては村長が作ったほうが時間もかからんしいいかもしれんの。
だがこれを知って自分たちでも作りたいのもある、それはドワーフ族で試そう。
それよりこのロゼワインとスパークリングワインは大きめの樽2つほど錬成してほしい、それでも足りないくらいじゃがの。」
デニスに頼まれてロゼワインとスパークリングワインを樽2つ分錬成、ブドウはギリギリ足りたみたいで良かった。
「ふっふっふ、これは宴会までワシと村長だけの秘密じゃ。
いきなり出して皆のびっくりする顔を肴にワシら2人で酒を飲むとしようじゃないか。」
デニスが物凄い珍しい悪い顔で俺に提案してくる、デニスもそういう茶目っ気があったんだな。
だが俺もそれは楽しみなので賛成、明日の宴会が楽しみだ。
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