第133話 少し時間が出来たので、マーメイド族の仕事をもらってきた。
話し合いが終わった次の日、俺の護衛部隊は決まったらしいが肝心の土や岩を確保する部隊がまだ編成出来ていない。
主にドラゴン族・ドワーフ族・ミノタウロス族・ケンタウロス族が主軸になって土を集めることになるだろう。
多少の岩や土は採掘場から持ってこれるらしいからな、今はそれを話して土砂崩れが起きそうな場所を探してもらっている。
今のところはやることは無くなったかな、後はドラゴン族の里へ調査に向かった部隊が帰ってきて報告を受けてまた話し合いかな。
だが、俺はこのちょっと空いた時間にやることがある。
マーメイド族の仕事の確保だ、昨日の話し合いの後にアストリッドから「仕事はまだですか……?」と涙目で訴えられたからな。
忘れてたわけじゃないが、話をしに行く暇がなかったんだよ……許してくれ。
部隊編成は住民の皆に任せて、俺は魔族領の商人ギルドへマーメイド族の仕事の交渉をしに行くことにする。
車椅子も確認したらマーメイド族の総数以上の数が出来てるみたいだし、魔族領や人間領へ移動するのに数台使っても問題無さそうなのは良かった。
これで移動面も心配なく交渉することが出来るな。
商人ギルドの受付にギュンターが居るかどうかを訪ねると、もうすぐ帰ってくるので少々待ってほしいとのこと。
待合スペースで待とうと思ったが、いつもの応接室へ通された上紅茶までいただけた。
茶葉は同じものを使っているのに商人ギルドで出してもらう紅茶のほうが美味しい……入れ方の問題だろうか?
なんて思っていると「村長、入りますぞ。」と扉の外からギュンターの声がした。
「お待たせいたしました、アポがあれば予定を空けておいたのですが……。」
「済まないな、距離が離れている分どうしてもアポを取りづらくて。
今日は急ぎじゃなかったから待っていても問題無かったんだが。」
「いえいえ、村長をお待たせするわけにはいきません。
何せ恩義があるうえに、村長が商人ギルドを訪ねていただいて利益にならなかったことがないですからな。」
商魂たくましい、だがそれでこそ商人なんだろう。
実際今回の話も商人ギルドにはメリットのある話のはずだ、何せ海の危険が強大な魔物以外無くなるはずだからな。
それに漁獲高も増えるはずだ、何せ高精度の魚群探知機があるようなものだし。
「――という事だ、仕事を割り振る余地はあるだろうか?」
マーメイド族の仕事が欲しい旨を伝えると、ギュンターは前のめりになって興奮気味に俺に近づいてきた。
「余地どころか、むしろ大歓迎ですぞ!
漁師の危険は以前から懸念されていたのですが、実用的な解決策は今まで出ずじまいでして。
しかしそうなると報酬の話もせねばなりません、いかほどの賃金をお支払いしましょうか?」
「その話なんだが、この前お金が村に流れ過ぎていて経済混乱が起きる恐れがあると言っていただろ?
だから今回は物で報酬を支払ってもらおうと思っているんだ、獲れた魚の1割……それより少なくてもいいけどな。
漁獲高と相談してもらって構わないから、渡していい量の魚を報酬としてほしい。」
「それはもちろん構いませんぞ、魔族領を案じていただいた対応感謝いたします。」
それはもちろんあるが、魚の購入する際の手続きが面倒になっただけなのもある。
商人ギルドとしても、いちいち城にツケ分から支払う手続きをするのも面倒だろうし、もしこれが成立すれば定期的に魚が手に入るわけだからな。
魚は村でも割と人気の食材だし、多めに確保していても何も問題は無い。
だが、この報酬の支払いはいくつか問題点もある……大丈夫と言ってくれればいいんだが。
「魚が直接報酬になるから、漁から帰る予定の時間を教えてほしいんだ。
生活魔術で魚を早く保存して村に運ばないと傷んでしまうからな……それと毒はあるけど部分的に食べれるような魚は出来れば捌いて欲しい。
そのあたりの知識はまだ村に無いからな、いずれ教えてほしいところではあるが。」
「生活魔術を扱える魔族は商人ギルドでも抱えております、この間のスラム街の住民が働きたいと申し出てきましてな……それだけなら時間を逐一お伝えする手間が省けると思います。
なので村の住民の助力は無くても大丈夫ですぞ、毒のある魚に関しては一流の者に捌かせて納品させていただくとします。」
皆どこで働いてるんだろうなと思っていたが、商人ギルドで働いているとは……だが確かに商人ギルドなら食いっぱぐれる心配も無いだろう。
貴族と違って没落することも無いだろうし、皆割とよく考えて働き先を探したんだな。
まぁ自分のためだし当然と言えば当然か。
「分かった、なら生活魔術に関しては商人ギルドに任せるとするよ。
だけど持って帰るのにどうしてもケンタウロス族の力が必要だから、やはり漁から帰る時間は知りたい。」
「なるほど確かに、では最初に頼む時だけは日にちと時間を行商が伝えるよう手配しておきますぞ。
それ以降は次に来てほしい日と終わりの時間を、来ていただいたマーメイド族にお伝えするのを繰り返すという形でどうですかな?」
「それで大丈夫だ、こちらもそれに合わせて準備をしておくから頼むよ。
それと人間領にもマーメイド族を派遣したいんだが、商人ギルドから顔の利く人を紹介してもらう事は可能だろうか?」
海への調査は既に何人か行ってくれているらしいが、それでも人員は手持ち無沙汰になっている、魔族領だけでは仕事が足りない。
「なるほど……あの一件から人間領との取引は少し減っていたのですが今度担当者に聞いてもらっておきます。
これを機に取引の機会も増えてくれると我らとしても助かるのですが。」
人間領もキュウビにそそのかされていたとはいえ後ろめたいのだろうな、ギュンターの反応を見ると少なくとも商人ギルドは人間領の事を恨んでいないから安心していいんだろうが。
ともかくマーメイド族の仕事は取ってくることが出来た、後は行商からの伝言を待つだけだな。
村に帰ってアストリッドに伝えると「ありがとうございますぅぅ……。」とガチ泣きされた、待たせて本当に済まなかった。
大丈夫だから、マーメイド族が不要とか思ってないからな?
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