第103話 キュウビから影法師を通じて連絡が来た。
陽の季節も終わり稔の季節に。
魔族領からは特に連絡がないので変わりない日常を過ごしている、平和なのはいいことだな。
少し前までは色々物騒な話が多く心休まる時間が少なかったから、広場で行商に届けてもらった紅茶を飲みながらくつろぐ。
カールはベビーカーに乗せている、スヤスヤと寝息を立てて気持ちよさそうだ。
「村長、ちょっといいか?」
俺を呼ぶ声がしたので振り返ると、キュウビがそこにいた。
「あれ、いつの間に帰って来たんだ?」
「影法師だよ、連絡を取るためにあらかじめ村に配備しておいたのだ。」
これが影法師か、知らないとびっくりしてしまうな。
「地図はまだ完成してないのだが、その村から南東にずっと進んだ山と森の間にアラクネ族の里を発見した。
現状特に困窮しているわけでもないが、私が村の紹介をすると非常に興味を持ってな。
お試しで住んでみるのも大丈夫だろうと伝えると、特に興味を持ったアラクネ族が数人その村に向かって出発したので、もし到着すれば歓迎してやってほしい。」
「それは大丈夫だが、未開の地の魔物は強いぞ?
向かっているアラクネ族は大丈夫なのか?」
「壁をも歩ける脚力に、ミノタウロス族でも引きちぎるのが難しいという糸を自在に操り近接遠距離両方の武器を扱える種族。
私もこの辺りの魔物は色々戦ったがアラクネ族の敵ではないだろう。」
それなら心配いらなさそうだな、アラクネ族ってことは女郎蜘蛛のような存在だろう――壁が歩けるのはすごい。
「そうだ、アラクネ族はどんな産業をしていたかわかるか?
もし分かれば事前に準備して仕事を与えようと思うんだけど。」
「そうだな、田畑や狩りは一通りこなしていた……衣服は自分たちが出した糸を使って作っていると言っていたな。
丈夫そうなので私も欲しかったのだが、微量な毒があるらしく耐性がないと痺れてしまうらしいので諦めたが。
後はそうだな……綺麗に輝く小さな石を使って装飾品を作っていた、派手なものではないがそういったものが好きらしい。」
「綺麗に輝く小さな石か、恐らく俺が知ってる単語だと宝石だろうな。
それならアラクネ族が来てからでも準備出来そうだ、そういうのは女性が喜びそうだし主にそれを作ってもらうことにするよ。」
「そうか、役に立ったようで良かったよ。
では私はまた旅の続きに出発する、何かあればまた影法師を通じて連絡するぞ。」
「わかった、気を付けてな。」
会話が終わると影法師は消えていった、一体どういう仕組みなんだろうな。
自由に現れたり消えたり出来るなら悪いことを色々出来そうだが……そう思ったが既に魔族領でやっていたことに気づく。
今はしていないのを信じるぞ?
しかし宝石か、ダイヤモンド・ヒスイ・アメジスト……知識としては色々あるけどどういったのが好きなんだろうな。
それに女性たちや魔族の好みもある程度調べたほうがいいだろう、装飾品なら村に来る魔族がお土産なんかに買ってくれるかもしれないし。
アラクネ族にしてもらう事や宝石の事を考えながら、紅茶を飲み干し家に向かって歩いていると、ドワーフ族とプラインエルフ族が俺の家から出てくるのが見えた。
何か用事だったのかと思い声をかけると、稼いだお金の一部を村のために備蓄するので預けに来たらしい。
一度断ったはずだが、どうもメアリーから頼まれたらしい。
メアリーが言ったなら考えあってのことだろう、負担になってないかと聞いても今のところ全く負担にならないとのこと。
それならいいか、でも一度メアリーとも話しておいたほうがいいだろうな。
家に帰るとウーテが先ほど受け取ったお金をしまっているのが目に入る。
「あ、村長おかえり。
さっきドワーフ族とプラインエルフ族から稼いだお金の一部を受け取ったわ、一応ここにしまっておくつもりだけどもっと厳重にしたほうがいいかしら?」
「ただいま。
一応貴重品だし、信用を得ているとは言え外部から人が来ているからそのほうがいいかもしれないな。
カールをベッドに寝かせたら金庫を作っておくよ。」
「キンコ……?」
「貴重品を厳重にしまえる箱のようなものだ、作ったら見せるよ。
それよりウーテ、お金を受け取るのは一度断ったはずなんだがメアリーから何か聞いてるか?」
同じ屋根の下で暮らしているし、俺が居ない間に何か聞いているかもしれない。
「村長は一度断ったけど、カタリナさんが相談を受けてたらしくてね。
メアリーさんが魔族領のお金を村に集中させすぎるのもダメだし、寝かせておいても損をするからと言って村のために一部受け取ることにしたの。」
そうか、貨幣を発行しすぎると価値が下がるし使われないお金が増えると物価も貨幣価値も変動してくる……下手をすると経済崩壊になる可能性があるな。
メアリーはそれを見越していたのだろう、貨幣に対する知識は俺のほうがあるはずなのに気づけなかったのが恥ずかしい。
しかし、それでも貨幣の量を見るとごく一部だ……ドワーフ族とプラインエルフ族はどうやってお金を使うのだろう。
「それと、ドワーフ族とプラインエルフ族は今この村で一番稼いでいるだろうから行商さんに営業を積極的にかけてもらうよう声をかけておいたわ。
欲しい物が無くはないだろうし、お金を使って手に入るなら経済も回るでしょうから。」
俺が思いつくような心配はすでに解消されていた、本当に俺が村長でいいのだろうか不安になるくらい皆が優秀。
「ありがとう、そのお金はよく考えて使うことにするよ。
魔族領と何が出来るか話して、村の皆とも相談して納得できる使い道を見つけないとな。」
「そうね、でも村長が出した案なら絶対村のためになるし大丈夫だと思うわよ。」
信頼されているな、嬉しいけど欲に走ったようなことがあったら止めてくれよ?
ウーテとの会話を終えカールをベッドに寝かせる、さて倉庫に行って金庫を作ってくるか。
少し考えて鍵はどうしようかと悩む……多分
また鉄に戻すことも出来るだろうが、それも面倒くさい……仕方ないので鉄の箱に南京錠を3つ付けて全て別々の鍵で開けることにした。
ドラゴン族やミノタウロス族のような力自慢じゃない限り無理やり突破するのは難しいだろう、オレイカルコス製でも良かったが流石に気が引けたので鉄製にしておいた。
ウーテにお金を出してもらい金庫の中へしまう、そこそこ大きめにしたのでしばらくはこれで大丈夫だろう。
ちょっと手狭になってきたな、俺の家の周りの土地は余っているし気が向いたら増築や改築をしてもいいかもしれない。
そう思ってレイアウトを考えていると、誰かが家の玄関をノックする音がする。
「はーい。」
ウーテが出てくれるみたいだ、一応俺も顔を出しておこうか。
玄関を開けると、商人ギルドの企画担当者が立っていた。
「村長、あらかたの材料の準備、及び搬入と企画の台詞が決定したので相談をしに参りました。」
とうとう決まってしまったのか、出来るだけ短めであってくれよと思いながら企画担当者を家に招き入れる。
今まで考えないようにしていただけに、かなり不安だけど。
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