第61話 2度目の魔王との謁見が終わった。
魔族領から魚を持ち帰り、ドワーフ族に渡して晩御飯の時に試食をするから調理をしてくれと頼んだ。
調理方法を聞かれて、焼いたり炙ったり、生でも煮付けたりしても美味しいぞと伝える。
刺身醤油がないのは残念だが、醤油はあるのでそれをベースに付けるものを作ってくれ。
投げっぱなしだが、刺身醤油は出来合いのものしか使ったことがなくて作り方がわからないからな……濃口醬油にめんつゆを入れるといいと聞いたことがあるけど、めんつゆが無い。
なのでドワーフ族の舌と技術を信用した、他に出来ることがないんだ。
頼んだぞ。
魚を預けて、カタリナは村に残りグレーテとオスカーが加わって魔族領へもう一度向かう。
魔法陣を通ると、見張りとは別に魔族領の衛兵が一人立っていた。
「お待ちしておりました、話し合いを行う場所までご案内しろと仰せつかっております。
私に付いてきてください。」
「わかった、よろしく頼むぞ。」
そう言って進み始めた衛兵についていく、城の出口に向かわないということは城の中で話し合いをするんだろうな。
着いた先は広い部屋に大きいテーブルがある場所だった、写真や映像でしか見たことないような部屋だな。
そこに魔王・先代魔王・ミハエルの3人だけというのがものすごいシュール、寂しすぎないか?
「機密保持のためにもこうなってしまったのじゃ、許してほしいのじゃ。」
寂しく感じるだけで文句はないから大丈夫だぞ、気にしないでくれ。
「衛兵に記録を調べさせたところ、ミハエル・ギルド長の証言と一致しておった。
さて、改めてミハエルの発見及び救出に礼を言うぞ。
開どの、未開の地の住民の方々、我が娘を救ってくれて本当にありがとう。」
先代魔王が席を立って頭を下げてお礼を言った。
本当に偶然だから気にしないでくれ、それにそのおかげでプラインエルフ族が村に移住してくれたし、転移魔術だって使わせてもらえてるしな。
「差し出がましいお願いなのだが、こう見えてもミハエルは王家の血筋……契約魔術を解いてやってはくれないだろうか。
もちろん見返りは用意しておる、首都の街中への転移魔術の展開と自由な出入り、そして魔法陣を隠すための敷地の提供と、開どのの村との永続的な友好関係を考えておるぞ。」
ミハエルが巨悪の魔人となった理由は明らかになったし、また妖狐のような魔物に操られない限り暴走の心配のないこともわかったからそれはいい。
だが、それにも関わらず明らかにこちらに有利な条件を提示している、流石に誰かに指摘されなくても他に理由があるかわかるな。
「俺は別に構わない、条件に不満も無いが他の狙いは何だ?
そこまでする以上は。追加の要望があると思うんだが。」
俺がそう指摘すると先代魔王が困った表情になった、バレないと思ったのだろうか……。
「それに関しては我が説明するのじゃ、父上の目論見がバレなくてもいずれ話さなければならない問題じゃからの。
お姉さまから聞いたのじゃが、開どのはこことは違う世界から神に転移させられ、その時神からスキルを賜ったとのことじゃが、間違いないかの?」
いずれ話す機会があればと思ったが、ミハエルが喋ったか。
特に不都合もないし問題はないけどな、会話の切り出しにそれを言うということは
広い領地を持ってそれを束ねる立場の人が
軍事利用だったら迷いなく断ろう。
「あぁ、間違いない。
信じれないならここで実践してもいいが、どうする?」
「いや、この場で嘘をついても開どのにデメリットしかないからそれは大丈夫じゃ。
そのスキルを使って村を発展、拡大して他種族で何のトラブルも無く氷の季節を越えた……これも間違いないかの?」
「俺のスキルを頼って移住をしてきた種族は確かに居るが、食糧と住居以外俺はほぼ何もしていない、あの村が機能しているのは紛れもなく住んでくれている住民のおかげだぞ。」
俺がそう言うと、魔王は「それじゃ!」と叫んだ。
「我が、というか魔族領からのお願いじゃ……ここ最近不作が続いており民への食糧供給が間に合ってないのじゃ。
食料の融通、可能なら改善する方法が無いか知りたいのじゃよ。」
なんだ、そういうことか。
軍事利用じゃなければ俺に出来ることならやるぞ、それで先代魔王が出した条件が付くならお釣りを払ってもいいくらいだ。
「軍事利用なら即答で断るつもりだったが、食料の融通なら問題ない。
しかし、商人ギルドのギルド長から少し話を聞いたが作物を作っている人の仕事を奪うことにはならないよな?
俺はやれることはやるが、経済の混乱や人の仕事を奪うことはしたくないぞ。」
「それに限っては心配しなくて大丈夫じゃ、むしろ農家の者は仕事が出来なくなっており困窮しておる。
この首都も一部では食料が回りきっておらんでな……衛兵もあまり食べれていない者がおるのは把握しておるのじゃ。
まず最優先で食料の融通をお願いしたい、頼めるかの?
もちろん食糧分の支払いは魔族領から直接払うから安心してほしいのじゃ。」
「わかった、明日からでも取り掛かってこちらに食糧を運びたいからまずは転移魔術を展開する土地の確保を最優先に動いてくれ。
支払いは嬉しいが、未開の地には貨幣の概念が無くてな……俺たちが買う魚の支払いを立て替えてくれないか?
後はこちらから魚の鮮度を保つための技術を提供するから、漁師たちの増員と待遇改善も頼む。
未開の地には海が無いからな、頼れるのは魔族領だけなんだ。」
俺がそう言うと、魔王は先代魔王と相談を始めた。
「村長、安請け合いしてよかったんですか?
金銭的には村が大損していますよ?」
「そうだぞ開どの、もっと強気に色々要求してもいいくらいだ。」
こっちもグレーテとオスカーがもっと押せ押せと耳打ちしてくる。
別に損得勘定で動いてないからな、こっちは魔族領へ自由に来れて魚も手に入って、魔族領は全体が助かる。
Win-Winの関係ならそれでいいじゃないか、向こうが際限なく甘えてくるようなことがあれば断るだけだが今回はそうじゃないからな。
そうだ、強いて言うならもう1つお願いがあるぞ。
「もう1つお願いがある、神への信仰を少しずつでもいいから広げていってくれると嬉しい。
俺は今の生活に満足してるからな、もし神に会ったら2発は殴るが感謝はしているんだ。
村からの要求は以上だ、後は魔族領の判断に委ねる。」
「神の信仰も含めて急ピッチで話を進めるのじゃ、急で申し訳ないが今回の話し合いはここまでにさせてほしいのじゃ。
我も村を一度見てみたいからの、話が前に進めばこちらから村にお邪魔させていただくのじゃ、その時はよろしく頼むぞ。」
「わかった、じゃあその時まで村で待っているよ。」
そう言って席を立ち帰ろうとすると、魔王に呼び止められた。
「忘れておった、お姉さまも連れて帰ってやってほしいのじゃ。」
ミハエルは王家の者なんだろ、契約魔術を解いてくれとお願いしたということは魔族領に残るんじゃないのか?
「契約魔術に関しては父上の親心から来てるワガママじゃよ、食糧の融通を飲んでもらった以上口頭で不確かではあるが父上が出した友好関係はほぼ確立出来たと考えておる。
じゃから、魔族領からの親善大使としてお姉さまを改めて迎え入れてほしいのじゃ。」
それは構わないぞ、それなら村からも出したほうがいいかな?
聞いてみると、食糧が困窮している以上申し訳ないので解決次第決めていこうとのこと。
それじゃ、帰るとするか。
「改めてよろしくね、村長!」
ミハエルがニカッと笑ってそう言った。
こちらこそよろしくな。
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