第51話 巨悪の魔人騒動はひと段落した。

村で余ってる人手をすべて総動員してきたクルトとウーテ、人海戦術により準備から移住までハイペースで終わった。


予定より1日以上早く終わったな、みんなご苦労様。


ザスキアには申し訳ないが、一時的にウェアウルフ族とケンタウロス族の家にお邪魔してくれと伝えている。


「さて、開どの。

 ミハエルを神の樹から引っ張り出すか。」


「そうだな、契約魔術を使うまで拘束は頼むぞ。」


俺とオスカーはミハエルとの話どおりに事を進めようとしていると、話を聞いたのかグレーテがこちらにやってきた。


どうやら疲れたらしく、俺と一緒にドラゴン族に乗せてもらって帰るつもりだったらしい。


「巨悪の魔人を契約魔術で縛るのですか?

 相手の承認を得るか、気絶させて強制的に契約しないと機能しないはずですけど……。」


「奴は戦えない体になったみたいでな、生きるために開どのと契約を結ぶと自分から提案してきたのだよ。」


ミハエルが契約魔術を使って自分が従う側で契約すると言ってたからな。


「うーん……念のため私も居ていいですか?

 拘束はオスカーさんにお任せします、契約魔術は私も使えますので。」


そういえばこの地には奴隷制度が無いとかなんとかって言ってたな、ミハエルも魔族だから魔族領には奴隷制度があるんだろう。


だが契約魔術を使うということ自体が嘘で、俺たちを騙す可能性もあるのか……。


「ありがとうグレーテ、話の流れでミハエルを信用しすぎていたかもしれない。

 だが、万全を期すためにもラウラを呼ぶか……オスカー、残っているドラゴン族にラウラを迎えに行ってもらってくれ。

 それからドラゴン族を数人と、警備部隊以外をこの村に集結させるように。」


「心得た、すぐに指示を出そう。」


『ちょっと、まだかい?

 プラインエルフ族の気配はほぼ無くなってるみたいなんだけど?』


ミハエルがまだ外に出れないのかと催促をしてくる。


「うちの住民からの助言でな、契約魔術を使う前にお前を信用しすぎてたみたいだ。

 転移魔術は魅力的だが、俺たちのせいで世界の危機を迎えたくはないんだよ。

 こちらの準備が整うまで待ってくれ。」


『信用ないなぁ……まぁ仕方ないけどさ。』


そう言ってまたミハエルは黙る、不意を突くならここで神の樹を飛び出して逃げるか、俺たちを襲うんだろうがそうはしない。


大丈夫だとは思うが、念のためだな。




俺の指示通りにドラゴン族と戦闘要員が神の樹の前に集結する、クルトの隣にはラウラも居た。


かなり圧巻だ、巨悪の魔人が相手でも負けない気がするな。


まぁ戦わないことが一番だ、あくまで保険だからな。


「ラウラ、神の樹の中に巨悪の魔人ミハエルが居るんだ。

 索敵魔術で敵意が無いか確認してくれないか?」


「わかりました……大丈夫です、敵意は持ってないですよ。」


そうか、まぁもしかしたら何らかの手段で敵意を隠してる可能性もあるが……多分大丈夫だろう。


「よし、オスカーとシモーネはミハエルの拘束、もし反撃があれば戦闘を頼む。

 残りのドラゴン族は空から、ウェアウルフ族とケンタウロス族は地上から……もし戦闘になったら援護を頼むぞ。

 俺も皆に被害が及ぶようなら想像錬金術イマジンアルケミーでミハエルを肉塊にするから。

 グレーテは拘束して同意を得る、及び気絶まで持っていけたら契約魔術を使ってくれ。」


「「「「「わかりました!」」」」」


全員から返事が帰ってくる、一番平和に終わってくれよ。


「ミハエル、待たせたな。

 今から俺のスキルで神の樹を一気に木材にする、繋がってるところが無理矢理切れて痛いかもしれないが、まぁポーションで治るから我慢してくれ。」


『うわぁ……ありがたいけどなんだいこの戦力。

 あまりに準備が遅いから色々外の気配を感じてみたけど、すごいね……魔族も一人だけど居るじゃないか。』


あぁ、村の住民みんなが協力してくれてるからな。


『まぁ、ここから出してくれるだけで万々歳だし……じゃあお願い。』


「よし、なら神の樹を木材に分解する。

 オスカー、シモーネ、準備を。」


「うむ。」


「わかりました。」


2人の返事を聞いて想像錬金術イマジンアルケミーを発動させる。


「いったぁぁぁぁぁい!!!」


やはり神の樹と繋がってた部分があったんだろう、めちゃくちゃ痛そうに叫びながらもんどりうってる魔族が転がってきた。


瞬時にオスカーとシモーネが確保する……反撃はなさそうだ。


「いたたたた……ポーションはまだ?」


「契約魔術が先だ、村に一時的に住んでるグレーテが契約魔術を使えるらしいから使ってもらうぞ。」


「はーい……いてて。」


グレーテが契約魔術を使い、契約内容も確認し両者承諾。


これでミハエルの暴走はほぼ無くなったと言っていい、何かしでかした時点で自分の死も確定するようなものだからな。


ご苦労様、と言いながらミハエルにポーションを渡す。


すぐにポーションを飲むと傷も痛みも消えて「え、え?」と戸惑っているミハエル。


ま、とりあえずこれで巨悪の魔人騒ぎも終結したな。


「終わったな、皆ご苦労様だ!

 元巨悪の魔人ミハエルはこれで村の住民になった、生活魔術が使えるらしいから皆頼ってやってくれ。

 木材も村に持って帰る、全員村に着いたらミノタウロス族・プラインエルフ族・ミハエルの歓迎会をするぞー!」


「「「「「うぉぉぉぉぉー!!!」」」」」


久々の宴会だ、皆大いに湧き上がった。


「ウーテ、先に帰ってドワーフ族に宴会の準備をしてもらっていてくれ。」


「なら、私も先に帰ってドワーフ族のお手伝いをしますね。」


そういえばシモーネもドワーフ族に負けず劣らず料理が出来るんだったな、よろしく頼む。


「なぁ、巨悪の魔人だった私がいきなり宴会なんかに出ていいの?」


ミハエルが恐る恐る聞いてきた。


「歓迎会って言っただろ、ミハエルはもう村の住民なんだから。

 契約魔術まで使って信用しないなんてことはない、安心して村に馴染んでいってくれ。」


「わかった……。」と慣れない感じで木材をまとめるのを手伝いにいったミハエル。


これで一件落着だな、どこにも被害無し、けが人無し……無事に収まってくれてよかった。


宴会が終われば、予定より早いが魔族領に巨悪の魔人の危機は無くなったと伝えに行こう。


ついでにグレーテの証人とやらの一件も終わらせて帰るか、商人ももし見つけれたら一度こちらに来てもらおう。


まぁ、グレーテにはもう少し頼んで村に帰ってきてもらうけど、それは後で本人に伝えるか。


さて、資材の積み込みも終わったみたいだし俺も帰ろう。

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