第49話 巨悪の魔人が話しかけてきた。

2日経ったところで5人が戻ってきた、ザスキアは顔を青くしている……事態の認識は出来たみたいだな。


「おかえり、その様子だと事態の把握だけはしたみたいだな。」


「ただいま、とりあえずはね……私だって未だ信じれないもの。

 プラインエルフ族でも一番信心深かったおばあ様が、簡単に飲み込めるものではないわ。」


カタリナがザスキアを支えながら説明をする、足元がおぼつかないほど狼狽しているらしい。


そういえば、向こうでは騒ぎにならなかったのか?


「大騒ぎですよ、私が帰ったことに加えて未開の地の住民とドラゴンを連れて帰ってきたんですから……。

 でも、今の状況を説明してやることをやればすぐにこちらに帰ると伝えると納得はしてくれました。」


文献に残るレベルのドラゴンがトドメを刺し損ねる相手だからな、世界の危機というのはわかってもらえたんだろう。


「開さん……少し2人でお話をしてもらってよいでしょうか。

 他の者は席を外してもらえると助かるのですが。」


ザスキアが声を震わせながら俺に話しかけてきた。


「構わないぞ、皆少し外に出ていてくれ。」


皆がうなずき外に出る、部屋には俺とザスキアだけになった。


「巨悪の魔人を神と崇め、世界に危機をもたらしてしまい大変申し訳ございませんでした……。

 こんなことになるなら、しきたりになんてこだわらず若い世代の話をもっと聞いてあげておくべきでしたね、族長失格です……。」


ザスキアが体を震わせ俺に謝罪をしてきた、責任と罪悪感で押し潰されそうなんだろう。


「代々信仰してきたものだろ、ザスキアが悪いわけじゃない。

 俺が思うにオスカーにやられて未開の地に逃げた巨悪の魔人は、プラインエルフ族の危機を一度救って信仰するよう仕向けたんじゃないかな。

 巨悪の魔人とわかってたなら先代も信仰なんてしてないだろ。」


「そうなのでしょうか……。」とザスキアはまだ自分を責める。


「今までの行いを責めたってしょうがない、それに神は居るのは俺が保証する。

 巨悪の魔人へ向けていた信仰を本来の神に向けてやってくれ、あいつは信仰を欲しがっていたからな。

 俺は想像錬金術イマジンアルケミーなんて大層なスキルをもらって村長をやってるが、宣教師みたいな立ち位置なんだよ。」


「えぇ、本来は神に向けたかったものですから。

 しかし巨悪の魔人へやっていたことを同じようにするのは神への冒涜ですね、これを機に若い世代の声も取り入れてもっと簡易的にしてもいいと思います。

 そのほうが心から祈ってくれるでしょうから。」


うん、それがいいぞ。


「さて、神の樹……もう巨悪の魔人でいいか。

 あいつの対応についてだが、もうこちらの好きにしていいのか?」


「えぇ、もう神でないと分かった以上あれは世界の敵です。

 こんな状況になってからで申し訳ないですが、先に村への移住を受け入れてくださりますか?

 もし戦闘の被害が飛び火してしまうと、私たちは身を守れるか不安なので……。」


「それはもちろんだ、オスカーとシモーネの2人を見張り役に置いておけば復活しても対応出来るだろうからな。

 移住すると分かれば現状少しでも早いほうがいい、急で悪いが準備を始めさせてくれ。

 俺もウーテとクルトに言って交易部隊を呼んでもらってくるから。」


「わかりました、すぐに伝えます。」とザスキアは外に向かって走っていった。


……案外元気に動けるんだな。




クルトとウーテは交易部隊を呼びに一度村へ帰ることに。


周りに指示を出し終わると、カタリナがこちらにやってきた。


「どうやっておばあ様を説得したの?

 魔族領で文献を読んでる時も帰ってくるときもそんなはずはない、ってずっとつぶやいていたのに。」


「認めたくなかっただけで、それからどう考えても巨悪の魔人を信仰してるという答えしか出なかったんだろ。

 2人になってすぐに謝られたからな……ザスキアは責任と罪悪感でかなりへこんでいるだろうから手助けしてやってくれよ。

 これを機に、神への信仰は若い世代の意見を取り入れて簡易的にするって言ってたからな。」


カタリナはそれを聞いて目を見開いた、ザスキアの変化に驚いたのだろう。


ザスキアのもとへ走っていった。


巨悪の魔人のおかげってわけじゃないが、プラインエルフ族は少しまとまるようになるかもしれないな。


やることも無くなったので、巨悪の魔人の前でこれをどうしようかと悩んでいると、オスカーに声をかけられた。


「開どの、プラインエルフ族が村に移った時点で巨悪の魔人に手は出すのか?」


「うん、さっさと討伐してしまうのがいいだろ。

下手に時間を与えて力が戻ると厄介になりそうだし……話して分かるやつなら話し合いをしてもいいが。」


そう答えると、オスカーは「話し合いは無理だと思うぞ……。」と呆れながら答えた。


「例えばの話だよ、話が通じないならさっさと肉塊にするさ……少し嫌だけど。」


「無理にその力で知性ある命を奪わんでもよかろう、ワシに任せておけば問題はないぞ?」


「オスカーのことは頼りにしてるさ、しかし一度仕留め損ねてるくらい強い相手だろ。

 万全を期すなら俺の力を使って一瞬で終わらせるのが一番だと思うんだ。」


「なに、完全な状態でないあいつなどワシにかかれば造作もないわ。

 開どのの力は生かす力だ、わざわざ奪う側にならなくていいんだぞ。」


既にオークとかは肉にしてるから、あまり言い訳は出来ないが……確かに知性のある生物をこの力で殺したことはないか。


オスカーと話をしていると『やめてくれ!』と、どこかから声が聞こえる。


「オスカー、そんなに俺の力で巨悪の魔人のことを肉塊にするのをやめてほしいのか?

 そんな切羽詰まったような言い方をして。」


「ワシは何も言っておらんぞ?

 開どのこそ切羽詰まったようにやめてくれとは……自分で巨悪の魔人を討ちたいのか?」


ん?


『やめてくれ!

 もう世界にケンカは売らない、というか売れないから!』


オスカーと目を見合わせる。


聞こえてるんじゃなくて、頭の中に話しかけられてるな。


これ、巨悪の魔人の声なのか?

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