第42話 別視点幕間:未開の地の探索を始めるまで。
私はグレーテ、魔族領の首都にある冒険者ギルトに登録してる冒険者。
ダンジョンに潜ったり、調査依頼をこなしたり色々してるわ。
冒険者ランクもE~Sまであって、私は最高ランクのS!
えっへん!
やれないことはない、装備も充分整ってると思って魔王様直々の依頼「未開の地の調査」をすることにしたの。
もう私が産まれるずっと前から依頼は出されているけれど、情報を持って帰ってきた冒険者は0……ここで情報を持って帰れればものすごい名声が手に入るはず!
……なーんて息を巻いて依頼を受けたはいいものの、同行者が見つからない。
それはそうよね、「未開の地の調査=死」という等式が冒険者には出来てる……お金持ちが売り物にもならなくなった奴隷を行かせるくらいだもの。
それでも、「知らないところの調査ほどワクワクするものは私にはないから!」と、必死にお願いしたら、未開の地に入る手前の山頂あたりまでならという同行者を見つけることが出来た。
賃金は前払い、金額も相場通りだし3人とも同じSランクだから問題ないわね。
本当は未開の地までついてきてほしいけれど、そこまで薬や道具を温存出来るだけでも万々歳と考えましょう。
魔族領側の山脈は調査も進んでるから対策もしやすいし。
生きて帰る……そしてもっと有名になってみせるわ!
出発してから2日で、約束の山頂に到着。
「それじゃ俺たちはここで、是非生きて帰って酒を飲みながら冒険譚を聞かせておくれよ?」
「えぇ、もちろんよ!
帰ったらすぐに冒険者ギルドに行くから、その時はお祭り騒ぎだわ!」
「楽しみにしてるぞー!」
心細くなるのを押し殺して、笑顔で同行者に別れを告げた。
よし……前人未到の調査、どんな情報でも絶対に持ち帰るわよ!
山頂から未開の地側に下ってしばらくは魔族領と同じ魔物の分布ね、そこまで急に変わるはずもないか……と思っていたら突如見慣れない色のオークが遠目に見えた。
ちょうど山の斜面がなだらかになってるあたりに、オークはいる。
この斜面の角度の境目が恐らく魔族領と未開の地を分けているのね……心してかからなきゃ。
気配遮断スキルは切らしたらダメね……今私は一人なんだから出来ることは限られる。
Sランク冒険者という自信もここでは役に立たないわ、初心を思い出して生存率を上げる選択を常にしていかなきゃ。
見晴らしの悪い山を少しでも早く抜け出すことを目標に、今までの経験を総動員して臨む。
幾度か戦闘になった、オークの速さには勝てるけど力じゃ絶対に負ける……魔族領のオークより何倍も強いわね。
だけど、速さを生かした戦い方でなんとか切り抜けることが出来たわ。
群れで行動してないのは救いね、と思いながら戦闘で消費した体力を回復するために休憩を取っている。
周りを見渡していると、木と木の間から平原らしいところが見えた……山を抜けれたわ!
早く山を抜けよう、そう思って休憩を切り上げて足早に平原に向かった途端に、地鳴りが聞こえ始めた。
……何かが来る!?
即座に身を隠して地鳴りの方向を見ると、オークが数体こちらに向かって走ってきている……流石に1対1じゃないと分が悪いわ。
木の上に隠れ、念のため気配遮断を移動時より強くかける。
魔力消費は多くなるけど、生きることが一番大事。
するとオークの後ろに、魔族領では見たことが無い色のオーガが3体見えた。
魔族領のオーガでも1匹の出現でA~Sランクが束になってやっとの魔物、色が違うということはオークと同様に魔族領と比較にならないほど強いはず。
無理よ……未開の地はあんなのが当たり前に生息してるとんでもないところなの……?
引き返す選択肢もあるにはあったけど、あのオーガの生息域が分からない以上無闇に動けなくなった。
来た時はたまたま遭遇しなかっただけかもしれない、帰り道に遭遇して殺されるかもしれない。
その恐怖で、前にも後ろにも進めなくなる。
考えてるうちにオークもオーガもやり過ごすことが出来たが、どうすればいいのかわからなくなった。
普段単独行動に慣れていない弊害がこんなところで出るなんて……無理にでも付いてきてもらえる人が現れるまで決行しなければと後悔してる。
でもこのまま木の上に居ても、魔力切れを起こしてオークやオーガに見つかって殺されてしまう……。
動くしかない、そう決断して震える全身に力を込めて平原に向かう。
進むも戻るも安全は保証されてないけれど、視界が開ける前者を選ぶしかなかった。
平原に無事に出ることが出来、視界が開けて一安心。
オーガの姿も見えずに平原に出れたのは僥倖だわ、まだ山は見えるから早く離れなきゃね。
特に魔物の姿は無く、魔族領でも見た動物が所々に点在しているわね……平原は平和なのかしら?
そう思った矢先にオークが動物に襲い掛かっているのが見えた、どこにでも生息してるのね……オーガが見えないだけ大分気は楽だけど。
動物に気を取られている隙にその場から離れる、安全圏が確保出来るまで無駄な体力は使えないわ。
しかし、そろそろ日が暮れてしまう……誰か住んでいそうな集落か身を隠せる場所を探さないと。
そう思っていたが、夜になるまで何も見つけることが出来なかった……そもそも誰か住んでるのかしら……。
深く考えず、名声を得たいという欲だけで未開の地に足を踏み入れた己の愚かさを嚙みしめながら、少し太い木を見つけたのでそこで食事がてら休むことにしましょう。
野営食を作り、空腹を癒して体を温める。
寒い季節ではないが、夜はやはり冷えるわね……火を起こしっぱなしというわけにもいかないし。
仕方ない、木の上で毛布に包まって夜を明かしましょう……葉っぱが風よけになって少しはマシなはずだわ。
落ちないか不安で寝れないかと思ったが、思った以上に疲れていたのかすぐに眠ってしまった。
朝。
今まで感じたことのない孤独な目覚め、帰る方角はまだわかる。
でも、何も未開の地を探索した証拠は掴んでない……帰れないわ。
そう思い、未開の地で1日生き残れたという底辺のような自信を糧にして足を進める。
今まで危険な目には何度も合ってきた、だが今の状況よりはマシだったと思いながら。
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