第15話 ドラゴン、臨時入村。

ドラゴンが出た。


みんなの慌てぶりを見る限り、相当な実力を持っているのだろう。


「子どもだが、注意しろ!」


警備はピリピリしている。


俺の知るドラゴンは架空の生き物だが、ほぼ例外無く強かった。


子どもでもそうなのか?


「開様は下がってください!

 ドラゴンは子どもでも強力な上、親がどこかにいるかもしれません!」


メアリーが弓を身に付けて俺の前に出る。


「わ、わかった。」


戦闘では役に立てない俺は下がった。


いざとなれば肉にしてやる、と思っているので視界に入らない位置までは下がらない。


「そのドラゴンは敵対してないです、安心するです。」


後ろからラウラの声がした。


「私は常に索敵魔術を使ってるです。

 強大な反応は無いので親も近くに居ないですよ。」


ある程度敵の強さもわかるのか、すごいな。


「それにそのドラゴンは子どもです、優しくしてあげるです。」


「だが、ドラゴンの子どもが1匹で歩くなど……。

 親が近くに居るのではないか?」


見張りからもっともな意見が。


「恐らく迷子ですよ、しばらくかくまってあげるです。」


タイガと一緒に居始めて鍛えられたのか、ラウラの肝っ玉がすごい。


ドラゴンは子どもでも怖いぞ?


森からドラゴンの子どもが出てくるのが見える、本当に大丈夫か?


周りがびくびくしてる中、ラウラがドラゴンの子どもに寄っていく。


「よしよし、どうしたんです?

 お腹空いてるですか?」


ラウラが話しかけると、ドラゴンの子どもがポンッと人の姿になった。


美少年。


「うん、お腹空いた。」


そう言ってラウラにくっついた。




特に危害を加える様子もなく、親も居ないのでラウラと一緒にドワーフ族の調理場へ向かっていった。


ひと段落着いたのでメアリーと少し休むことに。


「ラウラすごかったな、さすがに怖かったぞ。」


「私も怖かったです、それに見張りの方や他の住人もピリピリしてましたよ。

 今は収まってるみたいですが。」


それはそうだ、子どもとはいえドラゴン、畏怖の象徴のような存在だろう。


ましてや新しい生活が始まってすぐ、不安にならないわけがない。


「ラウラ、タイガ様と仲良くなって物怖じしなくなりました。

 前はもっと慎重な性格だったんですが……。」


タイガは俺が仕事をしてると必ずラウラと一緒に居る。


何もしてない俺を見ると寄ってくるんだがな。


「タイガ様とお話して仲良くなったです、開様の次に守ってやるって言われたですよ。」


話を聞いてたのか、ラウラがこちらに来た。


「ラウラ、タイガ様の言葉がわかるの?」


「元々動物会話スキルはあったです。

 タイガ様と一緒に居る影響か、スキルレベルが上がったんだと思うです。」


すごいな、しかしレベルアップすると頭に通知があると思うが、俺だけなのか?


「すごいわねぇ……、私は弓の早撃ちしか出来ないから羨ましいわ。」


メアリー、それはスキルか?


「メアリー姉の早撃ちは尋常じゃないんですから、これくらい許してほしいです。

 本気を出せば1秒で矢筒が空になるまで撃ってるじゃないですか。」


特技でもスキルでも十分すぎる強さだった。


「とりあえず、ドラゴンの子どもはお腹いっぱいになったら寝たですよ。

 その報告に来たです。」


とにかくみんな無事でよかった。


「ラウラ、ドラゴンの子どもが村を離れるまで世話を頼めるか?」


「大丈夫ですよ、索敵魔術とドワーフ族の手伝いの他にすることなかったですから。

 任せてくださいです。」


頼んだぞ。




先ほどのドラゴンの件でケンタウロス族から相談があった。


異常があったのはわかったが、どこの入り口の警備が異常を知らせたかわかりにくいとのこと。


確かに。


特に森側で異常が発生すると、どっちの出入口かわかりづらいな。


それに森側のほうが異常は多いはず。


対策を立てておくと伝えて、その足でローガーと相談。


各入口に建てている櫓に音を鳴らすものを置いてはどうかと。


櫓ごとに音を変えて、それを周知徹底すれば即座にわかるのではないかという意見。


それが一番いいな。


しかし音の出るものか……何かあるか?


「笛と太鼓ならウェアウルフ族が作れる、どちらも遠くまで音が聞こえるぞ。

 もう1つ何かあればいいが……。」


「後は鐘か銅鑼くらいか、今は無理だな。

 とりあえず一番警戒しなければならない森側に笛と太鼓を頼めるか?」


「わかった、作れるものに伝えておこう。」


作れるものは作ってもらう、なんでも俺が錬成してたら技術が廃れると思ったからだ。


緊急性の高いものや食糧は作るがな。


とにかく鉱石類は今のところドワーフ族の里頼りだ、いずれは村でなんとかしたい。




もう夕方だ、ドラゴン騒ぎでバタバタした一日だった。


だが、気づきも得られたので嬉しい。


ホントの緊急時には、もっと素早く安全に対処できるようにしないとな。


今日の畑の拡張を終え、家で休んでるとラウラとドラゴンの子どもが入ってきた。


ラウラの顔が心なしか赤い、どうしたんだ?


「開様、この子ここに住みたいって言いだしたんです。」


「ご飯美味しいしラウラが居る。

 ここに住んで問題ないか?」


めちゃくちゃラウラに懐いてるな、べったりじゃないか。


タイガが寂しそうだ、こっちにおいで。


いや、寂しいけど何かを楽しんでる微妙な表情をしてる。


どうした?


まぁいいか。


「住むのは問題ないが、子どもだろ?

 親はどうしたんだ?」


「ケンカして飛び出した。

 探しに来るかもしれないけど、ここに住みたい。」


「探しに来た親がここを襲わないか?」


「ボクが話せば大丈夫。

 父さまも母さまもいきなり襲ったりしないよ。」


ならいいか。


「なら住むのは問題ない。

 だが住む以上ドラゴンでも何かしら仕事はしてもらうぞ。」


「うん、大丈夫。

 ボクはクルト、よろしくね。」


「俺は開 拓志。

 こっちはプラインエルフのメアリー。」


「わかった。

 メアリーさんもよろしく。」


「はい、こちらこそよろしくお願いします。」


明日はウェアウルフ族とケンタウロス族へ説明しなきゃな。


「開さんとメアリーさんの邪魔になるかな?」


邪魔とは?


「その、夜の営みとか……?」


まだそんな関係じゃない、子どもなのにませてるな。


メアリーも真に受けてモジモジするなよ。

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