第370話 爆発炎上の神「出番きた?」
「ビナーさん、ショコラさん。誰が人狼だと思いますか?」
最初に発言したのはケテルさんだ。ケテルさん視点からしたら今の状況はかなり苛ついている展開かもしれない。なぜなら、市民のほとんどは人狼を探すムーブをするから、こうして怪しい3人が残されたわけだ。しかし、ケテルさん視点は違う。人狼は神を探して自分の安全を確保したいというのが心情だ。もし、ビナーとショコラのどちらかに神がいなければ、現在議論に参加してないところに神がいるかもしれない。つまり、そうなれば前回のゲームで獅子王さんがやったみたいに神疑惑がある人物を揺さぶることができなくなる。人狼からしたらかなり苦しい展開だろう。
「私はケテルさんが怪しいと思います」
ナイス、ビナー。それが正解! 最初に疑ってくれたお陰で、ケテルさんにとっての神疑惑が強まった。
「なんで私が怪しいと思うんですか?」
「え? 言っていいんですか?」
ビナーが含みを持たせた言い方をする。この2人は同じ箱でしかも同期だから、身内だからこそ知っているネタがある。そのネタでケテルさんがロマンチストだと判断したんだろう。
「言っていいもなにもゲームだから言わないと話にならないでしょう。リスナーのことを気にして放送できないと判断した場合は編集でなんとかするから大丈夫ですよ」
幸いにもこれはライブ配信ではなく、収録だ。問題発言があったとしても編集でなかったことにできる。
「じゃあ、言いますよ。ケテルさんって一途なところありますよね? そう、高校時代からずっと想っていた人と……」
「ストップ! 私が悪かった。その話題はやめてください」
ビナーの問題ありそうな爆弾発言はケテルさんにより静止された。なんとなく、この発言がリスナー的に危ない発言であることはなんとなく予想できた。
「その話を神が知っているとは限らないじゃないですか! ってか、その話知ってるのビナーさんだけですよね!」
「でも、ケテルさんはライブ配信で、結婚したら行ってきますのチューをしたいって言ってたじゃないですか!」
「ぐぬぬ」
それはロマンチストの判定に入るのだろうか。定義が段々わからなくなってきたけど、ビナーが押しているならいいや。
「ビナーさんだって、記念日にはお互いにプレゼントしあうのが理想って言ってたじゃないですか!」
「まあ、言いましたけど……」
言ったんかい。
「でも、それってプレゼントの内容によりませんか? お互いに指輪とかを送りあったらロマンチックですけど、するめいかを送りあったら全然ロマンチックじゃないですよ」
「ぐぬぬ」
なんで今のとんでも理論で負けるんだよ。議論よわよわかよ。
「それじゃあ、ショコラさん。ショコラさんだってロマンチックなようなこと言ったことありますよね?」
「ありましたっけ?」
全く身に覚えがない、
「……ないような。ショコラママの配信見ても……なんて言うか、恋愛っ気がないと言うか、ロマンチックの欠片もないかな。正直、白確で見ても良いと思います」
「娘から容赦のない言葉を浴びせられてママは悲しいです」
そんなこんなで議論は続き、ついに投票時間になった。議論と言ってもほとんど、ビナーとケテルさんが殴り合っているだけで、ショコラはステルスに成功したから助かった。さあ、ビナーとショコラはケテルさんに入れるとして、他の3人がどう判断してくれるかが重要だな。
【投票結果】
ビナー……2票(佐治、ケテル)
ケテル……3票(ビナー、ショコラ、アウル)
ショコラ……1票(獅子王)
思ったより割れたな。と言うかギリギリだな。後、1票でもビナーに入っていれば、人狼側の勝ちになってしまってた。
『投票の結果、白石 ケテルが処刑されることになりました……白石 ケテルの正体は――』
『 人 狼 でした』
しかし、状況は良くないな。ケテルさんは自分に入れた者の中から神を探そうとするはずだ。神が人狼に入れなければならないというルールはないけれど、流石に答えを知っていてわざと間違える高等テクはまだ出ないと思う。というか、俺にはそれをやる度胸がない。
『処刑される直前に人狼は最後の晩餐として村人1人を道連れにします
白石 ケテルさんが最後の晩餐を選択中です……』
「うーん……どっちだ。2択なんですよねえ」
2択。何と迷って2択なんだ。
「よし、こっちにしよう」
『白石 ケテルは処刑される直前に、福下 アウルを食べました。福下 アウルの正体は――』
『 市 民 でした』
「ぎゃー」
食べられたことでわざとらしく悲鳴をあげるアウルさん。
「今夜は焼き鳥よー」
「獅子王君は生態系の頂点側にいるフクロウを焼き鳥にして食うのか。あんまり美味そうじゃないけどな」
「何言っているんだ佐治ちゃん。スフィンクスは人間も食う。フクロウなんて美味しい部類だ」
完全に悪乗りしているリドルトライアルのメンバー。彼らは今回はほぼほぼ部外者だったので気楽なものだ。
「えー。じゃあ、神は誰なんですか!」
「それは僕も気になるところだな。今回は神が全く見当もつかなかった」
流石のアウルさんもわかってなかったみたいで今回は上手くステルスできたようだ。
「ほっほっほ」
佐治さんが急にサンタクロースになった。
「まだまだ青いなアウル君よー。俺は神が誰だかわかってるもんね」
「なん……だと……」
「ショコラちゃんだよね? 人狼っぽくないのに、ステルスしている感じがそれっぽかった」
「流石です佐治様」
「え!? 嘘だ! だって、神なのになんで開幕からあんなムーブを……」
やはりケテルさんはショコラの思惑にまんまと嵌ったみたいだ。
「私が佐治さんを怪しいと言ったことですか? それは、佐治さんが全く怪しくないからですよ。見当違いのところに疑いの目を向けることで、答えを知らない人物。つまり神ではないと錯覚させるための茶番劇だったんですよ」
「うう……私は答えを知っているムーブをしている人を探してたんですよ。アウルさんは、議論から自分を遠ざけるように自然な流れを作り出した。だから、ボロを出したくない神かなって思ったんです」
「まあ、今回はショコラちゃんが神だと見破った俺の1人勝ちってことで」
「人狼見つけられなかった癖に」
佐治さんのイキり発言にアウルさんが釘を刺した。2人とも完璧に盤面を把握してなかったものの、それぞれ半分正解したってところか。
◇
「さて。第3ゲームは少しルールを変えようか。新しい役職を追加しよう」
佐治さんがルールの設定を変更する。新しい役職それは一体なんなんだ?
「新しい役職は【爆弾魔】。市民側でも人狼側でもない単独勝利型の第3陣営」
「あっ……」
全員が何かを察したようである。一体何を察したと言うのか、俺には察しがつかない。
「まず、爆弾魔の役職は市民と神と同様に最初に配られる。その後、神が人狼にする人物を指名する際に爆弾魔が選ばれた場合、爆弾魔は役職を失い人狼になる。この時、神は人狼になった人物が何の役職を持っていたかを知る」
つまり、爆弾魔が人狼に選ばれた場合は役職欠けが発生するってことか。そして、役職欠けが発生したかどうかは神のみぞ知るか。
「爆弾魔が人狼にならなかった場合、再度の確認フェーズで爆弾魔は自分以外の誰かに爆弾を仕掛けることができる。爆弾を仕掛けれたプレイヤーが死亡した場合、爆弾が作動して村ごと吹き飛ばす。そうなれば、爆弾魔の勝利で、市民と人狼が負け。それ以外だと爆弾魔の負け」
爆弾を仕掛けれた人物が絶命することで作動するか。確かに自分に仕掛けられたら強すぎるな。
「爆弾を仕掛ける時は既にテーマが発表された後だから、それも考慮して爆弾を設置する相手を選んで欲しい。わかったかな? ショコラちゃん」
「なんで私を名指しするんですか」
「死亡判定は、市民と神は、最多投票で処刑された場合と人狼に噛まれた時。人狼側は自分が投票されて神を噛むことに失敗した時。つまり、人狼は神を食べれば死亡を免れる判定になるから気を付けてね。ショコラちゃん」
「だからなんで私にだけ言うんですか」
なんか扱いに関して腑に落ちない点があるものの、新役職が追加された第3ゲームが始まる。
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