第314話 トロッコ問題(よろしければ読者のみなさんもやってみて下さい)
「みな様。おはようございます。バーチャルサキュバスメイドのショコラです。みな様はトロッコ問題をご存知でしょうか? トロッコを走らせていると目の前には、【予定にない作業をしている作業員5人】がいます。彼らを助けるためには自分がレバーを引く必要があり、レバーを引いた先には【予定通りの作業をしている作業員1人】がいます。5人を助けるためには自らの意思で1人を犠牲にしなければならない。あなたはレバーを引けるかどうか。そういう思考実験です」
『俺は予定にない作業している人を犠牲にするかな』
『自分の手でレバーを引く決断ができないから5人やっちゃいそう』
『犠牲者は少ない方がいいから俺は1人に星になってもらう』
『6人全員轢けないの?』
「なんか通報したくなった人がコメント欄にいましたが、それは放っておいて今回はその究極の命題。そのシミュレーター的なゲームがネット上に転がっていたので、やっていきたいと思います」
ゲームを起動すると2Dの真上から見た視点。つまりトップビューでトロッコが線路を走っているのが見えた。そのトロッコが進んでいくと分かれ道と同時に選択肢が表示された。
≪Q1.どちらを助ける?≫
A『予定にない作業をしている作業員5人』
B『予定通りの作業をしている作業員1人』
「早速ベーシックな問題が出ましたね。私は……Bを助けますね」
予定通りに行動していたのなら、その人物に非はない。予定にない作業をしているのなら、そっちの方に非がある。非がある方を犠牲にすることで、自分の中の大義名分を得たいという考えで選んだ。
トロッコが容赦なく進み、5人を轢いた。しかし、トロッコは止まらない。本来ならこれで思考実験は終わりだけれど、これではゲームにならない。次は別の状況での2択を迫られてしまう。そして、続いての分かれ道にやってきた。
≪Q2.どちらを助ける?≫
A『いじめられっ子を線路に突き落としたいじめっ子3人』
B『線路に突き落とされたいじめられっ子1人』
「なるほど。そう来ましたか。私としては、助けられる人数よりかは、どちらに非がないかで選びたいのでBを助けます」
またしても容赦なくいじめっ子を轢くトロッコ。先程は一応、過失があるとはいえ、作業をしていた善良な市民だった。その一方で、こちらは非があるどころか完全な悪人なので、心がほとんど痛まない。
≪Q3.どちらを助ける?≫
A『未来ある優しい子供1人』
B『今まで多額の寄付で社会貢献してきた老紳士1人』
「うわ……きつい問題が出ましたね。今までの功績を考えたら、老紳士には報われて欲しいのですが、未来ある善良な子供を轢くのも嫌ですね。この子供が将来、この老紳士並に社会貢献しないとも限らないし……うーん」
どちらを選んでも俺は嫌なやつになってしまう。どちらにも非はない。そういうパターンで来たか。中々心に来るゲームだな。しかし、決断できないのも良くない。所詮はゲーム。俺は……
「Aの子供を助けます」
残酷だけど、子供が成長してやがて大人になり、年老いて死ぬ。それを繰り返して人類のみならず生き物は命を繋いできた。そうした生命のシステムを考えた時に優先されるのは子供の命。それが合理的な考え……と老人を犠牲にしてしまった言い訳を考えてみた。
≪Q4.どちらを助ける?≫
A『数千人の命を救ったけど、あなたの家族を医療ミスで死なせた医者1人』
B『軽犯罪で捕まったあなたの友達3人』
「なんで軽犯罪で捕まった友達が3人もいるのかよくわからないですね。友達にそんなに逮捕者が多いのもなんとなくヤバい地雷臭がしますね」
自分の交友関係で考えてみよう。例えば、三橋や藤井が軽犯罪で捕まったとする。三橋はアホだから、飲食店で会計を忘れて無銭飲食で捕まったと仮定。藤井は、インターネットで誹謗中傷をやらかした程度でいいか……まあ、死ぬ必要はないな。
そして、もし家族の中の誰かが医療ミスで死んだとしたら……俺はその医者を許すことはできないな。例え、過去に数千人の命を救った人格者であっても関係ない。
「Bを助けます」
トロッコが医者を轢く。その瞬間、俺はこれは自分本位の考えをしてしまったのではないかと思ってしまった。もし、医療ミスの対象が自分の家族ではなく、見知らぬ他人だとしたら……俺は躊躇なくこの医者をトロッコで轢けただろうか。そりゃ、医療ミスは絶対に許されることではない。その一件だけで正義の鉄槌を食らわしてもいいレベルだ。しかし、その憤りが殺意にまで昇華するかどうかと言われたら……特に今回はどちらにも非があるケースだ。数千人を救った功績で多少は
容赦する人もいるんじゃないか?
≪Q5.どちらを助ける?≫
A『あなたの本命の恋人1人』
B『あなたがキープしている恋人4人』
「え? キープしている恋人4人ってなんですか。キープしすぎでしょ。5股している方が轢かれるべきだと私は思いますけどねえ!」
これも自分の交友関係に当てはめてみよう。もちろん、本命の恋人は師匠だ。そして、キープは……誰も思い浮かばないな。俺にとっては存在しないものだし、そんなの迷うことなく師匠を助けるだろ。
「本命を助けるしかないです」
トロッコが俺にとっては存在しないキープを轢いていく。今回に関しては全くイメージが湧かなかったからスムーズに選ぶことができたし、罪悪感も薄いけれど……実際にキープがいる人がこれやるとガチで悩みそうだなって思った。
【いよいよ最終問題です。この問題は今までの問題とは少し毛色が違います。準備はいいですか?】
「お、もう最終問題ですね。なんかいきなり注釈が入ったので驚きましたが、こんな前フリがあるってことは、きっと凄い問題が出るんでしょうね」
無駄に制作者のハードルを上げる系サキュバスメイド。そして、いよいよ最終問題が表示され……る前にトロッコが終点についた。
「あれ? 最終問題前にトロッコが終点につきました。これはどういうことですか?」
場面が変わり、場所は会議室のような場所に移り、2人の人物が大勢の人に取り囲われている。そして今度こそ表示される最終問題。
≪Q6.どちらを助ける?≫
A『予定にないトロッコを勝手に走らせたあなた』
B『あなたを監督する立場にあった上司』
「え? なにこの問題……ってか、今までの前提条件がひっくり変える程のどんでん返しが起こりましたよ。予定にない作業だとか作業通りとかそんな次元の話じゃない。そもそもトロッコが走っているのが予定外だったんですか!?」
だとすると話が変わってくるものがある。最初の予定にない作業をしていた5人。勝手に作業して勝手に死んだのなら自業自得の面もあったと思ったけど、そもそもトロッコが来るはずがないからこそ、急遽予定にない作業をしたと言うことか?
「普通に考えたら監督者にも責任はありますが……どっちがより非があるか。それをトロッコを走らせた側である私が判断しろってことですか?」
俺が第三者の立場だったら……走らせた本人が悪いか、監督不行き届きが悪い。どっちか簡単に断ずることができたかもしれない。けれど、罪悪感や負い目があるのが自分を助けたいか、他人を助けるか選ぶ……なんという問題だ。
「私は……自分の責任は自分で取ります」
別に好感度稼ぎとかそういう意図は一切ない。俺がこの立場だったら、自分が責任逃れをできるかどうかと言ったら……いっそ罰してくれた方が楽かもしれない。そう思ったからだ。他者からの責任の追及は逃れられても自責の念からは逃れられない。
【これにて、シミュレーターは終了です。お疲れさまでした】
最後に表示されるメッセージも淡々としてかえって不気味さが際立っている。
「なんとも後味が悪い最後になりましたね。でも、そうした点も含めて楽しめました。制作者様ありがとうございます」
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