第227話 動物園デート②
動物園に辿り着いた俺と師匠。券売機で大人(中学生以上)を2枚買い、入園した。
「Amber君。何から見ようか」
俺はもらったパンフレットの園内マップを確認した。できるだけ3Dモデルにした時に見映えがいいのが望ましいかな。
「そうですねえ。最初は、キリンやらライオンやらがいるサバンナゾーンを目指しましょうか。だとすると右回りで回っていく感じですかね。途中で鳥類エリアもあるからそこも見ましょうか」
コンペでは陸と海の動物をバランス良く取るという話を聞いた。空を飛べる鳥類はどっちに入るのだろうか。空という括りはあるのか? カモメやウミネコは海の括りで雀やカラスとかは陸という括りになるのだろうか。その辺の詳しいところも稲成さんに訊けば良かったかな。まあ、あの人も運営側の人間ではないから、そこまで詳細なことは知らないだろうけど。
「ああ。わかった。それじゃあそのルートで園内を一周しようか」
俺は師匠と並んで園内を歩いていく。周囲の人たちは、やはりカップルやら家族連れが多い。もし、俺が単身で動物園に来ていたら確実に浮いていたかもしれない。師匠がいてくれて本当に良かった。
鳥類のエリアに行くと綺麗な赤い色をしたフラミンゴが複数匹いた。
「Amber君。見てくれ。フラミンゴがいるぞ」
「ですね。生で初めて見ましたが、本当に1本足で立ってるんですね」
フラミンゴを題材にするか? 一般的に知られている動物だし、知名度は申し分ない。それに、被る可能性は少ないし題材としてはいいかもしれない。候補の1つに加えておくか。
「私はフラミンゴの体色は結構好きだな」
「師匠って暖色系が好きなんですか? 髪の色はピンクだし」
何で師匠は髪の色をピンクに染めているのか。それは、師匠を初めて見た時から疑問に思っていたことだ。染色するにしても、他に色はあるだろと思ってはいるけど触れてはいけないような気がしたのでそこには触れてない。
「まあな。寒色も嫌いではないけど、基本的には暖色系統を使う方が多いかな」
「へえ。それじゃあ同じですね」
「え? Amber君も暖色系が好きなのか?」
「あ、いや。俺じゃなくて……俺の友人に勇海さんって人がいるんですけど。その人は緋色が好きだからって理由でハンドルネームを緋色にしているんですよ。遠方に住んでいて中々会えないけど、久しぶりにまた会いたくなったな」
「イサミ……? それって男か? 女か?」
漢字の字面を見れば男性っぽい雰囲気は伝わるけど、確かに音だけなら男女どっちかわからないような名前だな。だから師匠は男女どっちか気になったのか。
「男性ですよ」
「そうか。それなら良かった」
「勇海さんの妹さんとも仲良くさせてもらってるんですよ。お兄さん想いの良い人なんですよ」
「妹……? Amber君……?」
「そろそろ次行きましょうか。フラミンゴばかり見ていても仕方ないですからね」
次の動物がいるところまで行く道中。なんか師匠が不機嫌になっている感じがした。フラミンゴを見てテンションが上がっていたのに謎だ。
次に見たのはフクロウだ。体毛がもふもふとしてそうで、触ったら心地よさそうである。まあ、流石に動物園の動物は許可がない限りは触ってはいけないものだけど。
フクロウをテーマにするのはどうだろうかと考えてみた。フクロウは賢い動物として扱われることも多いし、魔法学校にいそうだからファンタジー色を出しても不自然ではない。
「フクロウか。もふもふとしてて可愛いな」
「見た目は可愛いですけど、一応
「だな。見ている限りは大人しそうだけど、これでも生態系の上位に位置しているからな」
フクロウを見ていると不思議と癒される。そりゃあ。フクロウカフェという商売も成り立つわけか。
「ところでAmber君は、鳥類の中では何が好きなんだ?」
「俺ですか? そうですね。カワセミなんかはカラフルで可愛らしいと思いますね。もちろん、格好いい系統のワシとかも好きですけど」
「そうか。なんかAmber君がカワセミを好きって言うと不思議な感じがするな」
「どういうことですか?」
不思議な感じとは何だろうか。別に俺がカワセミを好きなことで何か問題でもあるのか?
「いや、大した理由ではないんだけどな。鳥のカワセミと宝石のヒスイがあるだろ。あれはどっちも同じ漢字を当てられるんだ」
「そうなんですか。確かに宝石が名前の由来の俺に縁があるのかもしれませんね」
多分、今後の人生で役に立つ機会はそうそうないであろう知識を師匠から教えてもらった。こういう無駄な知識は、どうして興味惹かれてしまうんだろうか。多分、その答えがあったとしても無駄な知識になるのだろう。なんだか哲学的なことを考えてしまった。
「逆に師匠が好きな鳥はなんですか?」
「私か。そうだな。それこそさっき見たフラミンゴが好きだし、後はペンギンも好きだな」
「ペンギンですか。丁度近くにペンギンのエリアがありますし、見に行きますか」
ペンギンのエリアに向かうと、飼育員がペンギンに餌やりをしている最中だった。バケツの中に入っている魚をペンギンに向かって投げている。ペンギンはそれを口でキャッチしてパクパクと食べている。それを見て、近くにいた小さな女の子がワーキャー言っている。
「餌やりの時間に立ち会えたのは運が良かったですね」
「そうだな。そう何度も狙って見れるものじゃないからな」
餌やりに釣られて他の入園者たちもペンギンがいるエリアに集まってきた。それは完全に人だかりとなった。
ペンギンか。3Dモデルのイメージというよりかは……クレイアニメのイメージがある。ペンギンをテーマの主軸にするんだったら、背景は南極大陸か? 氷の世界を表現したいんだったら、ペンギンを使う選択肢はありかもしれない。
フラミンゴ、フクロウ、ペンギンと見てきたが、鳥類と一口に言ってもそれぞれ個性がある。その個性によって効果的な演出も変わってくるし、中々に悩ましいところだ。
やりたい演出に合わせてテーマとなる動物を選ぶのか。それとも動物に合わせて演出を決めるのか。それによっても変わりそうだ。ただ、今回は動物のコンペということで、動物をメインテーマに据えなければ、主催者は満足してくれないと思う。
そうした主催者側の意図も組みつつ考えなければならない……うーん。やっぱり、考えることが多すぎる。このコンペ。ただ動物の3Dモデルを作って、スチルを作れば良いだけかと思った。けれど、予想以上に選択肢が多くて、まだテーマを絞り切る段階まで行けてない。
「どうだ? Amber君。なにかインスピレーションが沸いたか?」
「いえ。まだ。決定的にこれだ! って言うのは出てないです。どれも一長一短があって、自分のスタイルに適したものは何かというのがまだ掴めてないです」
「そうか。まあ、今日はまだ時間はある。ゆっくりと決めればいい。それに色んな動物を見てから決めても遅くはないからな」
「そうですね。ありがとうございます師匠。そして、ごめんなさい。折角のデートなのに、俺はコンペのことばかり考えてしまって」
「気にしなくてもいいさ。元々今回の動物園デートはそういう趣旨だったからな……それに。私はAmber君のそういう作品制作に真剣に取り組んでいる姿が……あの……好きだからな」
急に好きと言われてしまった。流石の俺も不意打ちを食らったら妙に照れ臭くなる。お返しというか仕返しにこっちも不意打ちをしかけてやる。
「俺だって師匠の面倒見がいい所が好きですよ」
「んな! あ……Amber君ダメだ! 急にそんなことを言ったら……私の心臓が持たないじゃないか」
師匠は顔を赤くしてしまった。どうやらカウンターは上手く決まったようだ。
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