第184話 結果発表
ついに来てしまった運命の日。コンペの結果が発表される日だ。こういうのは事前に参加者に通達が行くものだと思ったけれど、何の通達も来ないままコンペの成績発表の日が来てしまった。
俺は発表のライブ配信を固唾を飲みながら待った。コメントで「緊張してきた」とか「ドキドキする」とか書いている奴がいるけれど、そいつらより俺の方が1億倍緊張している。この胸のモヤモヤ感を1パーセントでもわけてやろうか? と思うほどだ。
そして、運命のライブ配信が始まった。いつものセフィロトプロジェクトの定期的なお知らせのライブ配信だけど、今回の同接数はいつもの数倍に跳ね上がっている。みんなもコンペの結果を知りたいということか。それだけ、クリエイターの方にも注目が集まってくれているのは正直嬉しい。
今回は、和装しているケテルとビナーが司会を務めてくれている。前回のライブ配信にもビナーが出ているし、娘が活躍してくれているのは嬉しい。
いつものイベントやグッズの情報とかのお知らせを2人の掛け合いで進めていく。俺はコンペの結果が気になって、あんまり頭に入らなかった。
「さて、皆さんお待ちかねのコンペの結果発表の時間がやってきました。今回発表するのは上位3人までです。4位以下は入賞扱いではないので、残念ながら発表はされません。なので、そこはご了承ください。それでは、ビナーさん。結果発表をお願いします」
4位以下は名前が呼ばれない……ある意味良かったのかもしれない。11位で恥をかくよりかはマシだ。
「はい。ケテルさん。任せて下さい。さて、総合成績を発表する前に、まずは視聴者投票の上位3人を発表しますね」
くそ! 焦らしやがったな! 優勝発表を焦らす構成をして! 誰だ、この構成を考えたのは! 許さんぞ!
「視聴者、投票第3位里瀬 匠さん。社長が3位にランクインしてますね」
これは意外な結果だった。視聴者投票では奮わないと予想されていた匠さんが3位を叩き出している。多少の不利を受け入れてもプロがわかる凄さを見せつけた作戦だと思ったのに、一般の層にも受け入れられたのか。俺としては、嫌な結果だな。
「流石社長ですね。やはり、最前線を退いたとはいえ、実力は折り紙付きです」
ケテルさんは淡々と流した。これがマルクトさんだったら、もっと発狂していたと思う。あの人、俺に送ってきたメッセージに匠さんに対する愛を語ってたからな。
「そうですね。データを分析してみると初期は伸びてませんが、ある時を境に一気に伸びましたね。短期間で作品が再評価されたということでしょうか」
なるほど。そういうことか。視聴者投票はある程度の期間があった。だから、長期で票を伸ばせることを見越していたのか? 誰か1人でも実際の演奏と映像がシンクロしていることに気づけば、それが検証されて徐々に広まっていく。匠さんがそこまで見越していたかは定かではないけど……あの人は計算高い人だし、それで伸ばせるだろうと見通していたかもしれない。やはり、匠さんは高い壁だな。
「第2位は、虎徹さん!」
なぜだろう。虎徹さんが勝ち誇っている顔が思い浮かぶ。視聴者投票の部門だけとはいえ、匠さんに勝っているんだからな。あの人は匠さんをライバル視しているし、一矢報いた感じか。まあ、総合でも虎徹さんが勝ってる可能性あるけど。
「私のママですね。流石ですね。この衣装を作ってくれただけのことはあります」
「むー。私だって、ショコラママがその内新しい衣装を作ってくれますよ。ね? ショコラママ」
同意を求められても困る。俺としては、企業から発注されない限りは新衣装を作ろうと思ってもできない。企業が権利を持っている以上は、俺の一存で決められないからな。
「第1位は……リゼさん。おめでとうございます!」
1位は師匠か。ある程度予想していたとは言え流石は俺の尊敬する師匠だ。この人の師事できて本当に良かった。でも、俺が視聴者投票何位だったのかはわからない。もしかしたら、最下位かもしれない。マッチョやツチノコはカルト的な人気あったし。
「それぞれ5人の審査員が1位を付けた人を発表しますね。総合優勝の予想の参考にして下さい」
流石に5人分のベスト3を用意するほど引っ張らなかったか。それでも、十分引っ張ってるけど。
「それでは、最初の審査員は、里瀬 匠さんを最も評価しました」
く……わかっていたけれど、匠さんの評価が高い。匠さんは既に3位を取っているし、ここでも1位を取るとなると相当な高ポイントが予想される。
「続いての審査員は……リゼさんを最も評価しました」
次は師匠か。やはりこの兄妹が強いか。下馬評でも優勝候補筆頭だからな。今のところ、1位を2回取っている師匠が有利か? でも、同じ1位でもポイントの配分はわからない。匠さんが110ポイント独占している可能性もあるし、審査員はポイントを余らす権利があるから、師匠が1位でも1ポイントの可能性がある。1位を多くとったからと言って高得点は限らないから最後までわからないのだ。
「3番目の審査員は……里瀬 匠さんを最も評価しました」
また匠さん! ここまで名前が一切出ていない俺の入賞は諦めるとして、1位が誰かを予想する展開になってるな。とは言っても、現状では、匠さんと師匠の2択か?
「4番目の審査員は……ズミさんを最も評価しました」
ここでズミさんの名前が出てきた! ということは、1位と2位は里瀬兄妹でほぼほぼ確定として、3位争いを虎徹さんとズミさんでする形になるのか? 残念だなあ。せめて、入賞は無理でも1回だけでも名前を呼ばれたかった。
「5番目の審査員は……スゥゥゥ……」
ビナーが息を吸い込んだ。そして、彼女の表情が笑顔になる。
「ショコラさんを最も評価しました! 流石ショコラママ! 私は信じてたよ!」
なんだと……! もう名前は呼ばれないものだと思っていたのに、ここで名前を呼ばれただと! 審査員の1人は、匠さんや師匠やズミさんや虎徹さんでもなく、俺を最も評価した。その事実だけで胸がいっぱいになる。なんか目頭が熱くなってきた。もう思い残すことはない。俺を最も評価した人がいる。それがわかっただけでも、このコンペに参加した甲斐があった。
「えー。虎徹ママを1位にした人はいないんですか。納得できませんね」
「へへ。まあ、でも総合はまだ出てませんからね。これからが本当の勝負ですよ」
ビナーの言う通り、確かにまだ勝負は終わっていない。俺を最も評価した人がいる。つまり、俺にも入賞の可能性はある。さっきはもう思い残すことはないと思ったけど、入賞の可能性が出てきた以上は、それを目指したくなる。それが欲深き人間の心理というものだ。
「それでは、3位から発表しますね」
3位……俺が入賞している可能性があるとしたら、ここしかない! 1位と2位は里瀬家が独占しているはずだ。頼む! 俺の名前が出てくれ! 俺に銅メダルの夢を見させてくれ!
「3位……ズミさん!」
ダメだったか。儚い夢だった。でも、ズミさんに負けるんだったら悔いはない。元々は俺よりも実力がかなり上の人だ。その近くまで迫れただけでも俺にしては大金星だ。
「……と、実は同率でもう1人います!」
な、同率3位だと! 確かに同じポイントの可能性は全く考えてなかった。オリンピックの柔道でも3位は2人いるし、なんらおかしくはないな!
「もう1人の第3位……」
ビナーが突然、白けた顔をする。え? どういうことだ? さっき、ビナーはショコラが1位になったことを喜んでくれていた。ということは――俺の勝ちはない……
「ショコラママァ……」
え? ショコラの名前が出た? 俺、勝ったの? ってか、なんでビナーは残念そうなんだ?
「ショコラママが入賞したから、ママの罰ゲームがないなった……」
そこを残念がるのかよ! 全く、親に罰ゲームさせるなんてとんでもない娘だ。でも、入賞できて良かった。
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