第180話 種族を超えた男女関係
8作目の作品が再生された。その作品は、【狐と青年】というタイトル表示と共に始まった。笛太鼓の音をBGMに、山奥の小さな村に提灯が連なり狐の面を付けた人たちが踊っていた。どうやらお祭りをやっているようだ。
この作品に対して誰も反応を示さないのでどうやらここにいる人たちの作品ではないようだ。と言っても、この中でまだ作品が出てないのは師匠とズミさんだけだ。そもそも、師匠の作品という感じはしないからここは最初から候補から外れていた。
映像の方は、祭り会場からカメラが映り、人がいない山の茂みへと移った。人が寄り付かない場所で1人の青年と1匹の狐がいた。狐は前足を怪我していて、青年はその足に包帯を巻いていた。
青年が包帯を巻き終わると茂みがゆらゆらと揺れる。茂みから飛び出してきたのは、青年と年が同じくらいの女性だった。青年は慌てふためき、狐は女性に驚いてその場から立ち去ってしまった。逃げる狐を視線で追う女性。女性は青年の方を見て、睨みつけた。
場面が変わって、建物の中で正座をする青年と、それを責め立てている大人たちという構図。建物の壁には絵が飾られていた。その絵は、巨大な狐が村を襲い、人々を自身の牙や爪で突き刺している絵だった。どうやら、この村では狐は不吉な存在として恐れられているようだ。
狐の面は忌むべき存在に扮することで厄除けをする意味合いがあったのだろうか。感覚的に言えば、節分に鬼に豆まきをして祓うものと近いのだろうか。
場面はまた切り替わって、山の中を猟銃を持った村の若い衆たちがキョロキョロと見回している。どうやら狐を狩るために探しているようだ。村人の1人が狐を見つけた。狐は銃を持っている村人の敵意を感じ取ったのか、走って逃げようとする。しかし、足を怪我していて上手く走れない。村人が銃を構えて引き金を引く。銃声が鳴り響いた。
銃弾は狐に当たらなかった。狐は運良く逃げ出したが、村人は狐を追った。
一方で銃声を聞いて異常に気付いた青年。狐の身を案じたのか走って銃声が聞こえた方に向かう。
壁際に追い詰められた狐と猟銃を持つ村人。村人は再び、猟銃を構えて引き金に指をかける。その時、青年が村人に飛び掛かった。銃は暴発して、青年の肩が撃ち抜かれた。青年はそれでも怯まずに村人から猟銃を奪い取り、それを村人に向ける。猟銃を奪われた村人はその場から逃げ去り、狐の命は守られた。
しかし、青年は撃たれた肩を抑えてその場に倒れこんでしまった。心配そうにかけよる狐。しかし、青年はその場で目を閉じてカメラも真っ暗になってしまった。
青年が目を覚ますと周囲には多くの狐がいた。その中に前足に包帯を巻いている狐もいた。包帯の狐は青年が目を覚ますとすぐに駆け寄ってきて、彼の体に体を擦りつけた。
青年は狐の頭を撫でた。そして、場面は切り替わり青年の村へが映し出された。その日は太陽が照り付けていたが、なぜか空から雨が降ってきた。不思議そうな顔をする村人たち。そうして場面が切り替わり、白無垢を着た花嫁と青年が寄り添っていた。花嫁の臀部には狐の尻尾が生えていた。
そうして、動画が終わった。なんとなくストーリーは理解できた。青年は助けた狐と結婚したということか。晴れなのに雨が降っていたのは所謂、狐の嫁入りという現象になぞらえたものだろう。
「おかしい。なんでこの作品にはツチノコもマッチョも出てこねえんだ?」
虎徹さんが首を捻った。思考が完全に毒されている。
「助けた動物に恩返しされるというストーリーは日本の昔話ではよく見られることですね。結婚まで行くのは少々行き過ぎだと思いますが……」
ズミさんが作品に対しての自身の意見を述べた。一方で虎徹さんは口を尖らせている。
「けっ、野性の狐と結婚するなんて命知らずめ。エキノコックスに感染してもしらねえぞ」
妙に現実的な話を持ちだす虎徹さん。確かに野生動物はどんな感染症を持っているのかわからないので迂闊に触らない方が身のためだ。
続いて9作品目が流される。今度は誰のだろう。そう思っていたら、ホラー系統のBGMが流れてきた。作品の雰囲気も墓場に吸血鬼やミイラやフランケンシュタインの怪物らしきキャラクターが集まっている。
「これは私のじゃないな」
「僕のでもないです」
9作品目まで師匠とズミさんの作品が出なかった。つまり、この2人が最後まで残ったということだ。当たり前だけど、次はこの2人のどっちかの作品が確実に来る。
「トリだけは嫌だ……トリだけは嫌だ……」
ズミさんはそう呟きながらガタガタと震えていた。そう言われるとズミさんがトリになって欲しい気持ちになってきた。
ゾンビたちが棺を墓場に運んできた。そして、ゾンビが棺を開けると中に入っていたのは、ドレスを着た血色の悪い少女。少女の顔にはツギハギがしてあって、生きている人間には見えない。少女が目を開ける。そしてゾンビと視線が合うと少女は悲鳴をあげた。
ゾンビは少女に手鏡を向けた。自身の顔をみた少女は絶望的な表情をした後に頭を抱えて首を横に振り始めた。
そして少女の回想が始まった。ロープを体に巻き付けた少年が木に登っていた。少年はそのまま頭から飛び降りてバンジージャンプを楽しんでいた。その様子を見ていた少女は少年に近寄り、羨ましそうな視線を送った。
少年はしぶしぶながらも自身のロープを解いて、少女にロープを巻き付けた。そして、少女はそのままの勢いで木から飛び降りた。少年は慌てた様子で少女を止めようとしたが時は既に遅かった。少女のロープがほどけて少女はそのまま地面に落下。どうやら、まだちゃんと縛れてなかったらしい。そうして、少女の口から魂が飛び出る演出がなされた後に、場面が切り替わり、少女は棺へと入れられた。
自身が死んだことに気づいた少女は、現実を受け入れられずに暴れまわった。しかし、ゾンビたちに取り押さえられてしまった。そんな時に美形の吸血鬼が少女の前にやってくる。そして、少女の顔を見つめて、その後に手から薔薇を出して少女にプレゼントした。
少女は血色が悪いながらも頬を赤らめる。それでも少女の心はまだ晴れてなかったのか浮かない表情をする。
そんな中、軽快なBGMと共にゾンビたちが踊り始めた。さっきまで動きがとろかったくせに急にキレッキレなダンスを披露するゾンビたち。浮かない表情をしていた少女もゾンビたちのダンスに徐々に心を奪われていき次第に笑顔になっていった。そして、ゾンビと同じダンスをして、少女はこの世界の異形の者達と仲良くなった。
シーンが切り替わり、美形の吸血鬼と2人きりになる少女。少女は頬を赤らめてもじもじとしている。そして、目を思いきり瞑ってなにか言おうとした瞬間、今度は麗しい女吸血鬼が登場した。男吸血鬼は、女吸血鬼の顔を見るや否や、彼女の傍に近寄り、2人は手を繋いで少女を置いて闇の中へと消えていった。
1人取り残された少女。完全にポカーンと大きな口を開けていた。そんなコメディタッチなオチでアニメーションは終了した。
俺はこの作品を見て……男女関係のアレコレが表現されていることに恐怖を覚えた。なぜならば、サツキさんの地雷を踏み抜いた可能性があるからだ。
サツキさんは孤独な花嫁をテーマにした作品を作ったし、駆け落ちが描写されている俺の作品を見て地雷を踏んだ感じになった。ということは、今回の作品もきっと……
「この作品面白い……」
サツキさんは普通に笑顔で作品を見ていた。なんなんだよ。この人の基準がわからない。地雷はどこいったんだよ!
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