第155話 コンペ情報解禁
今日はVストリームの公式生放送だ。セフィロトプロジェクを箱推ししている人も注目しているし、V関連のネット記事を書いている人もネタ探しで見ていることだろう。
ネット記事と言えば、ショコラのやつを見かけたけど、【性別は? 年収は? 恋人はいるのか? 前世は? 調べてみました】って見出しで【詳しいことはなにもわかりませんでした】とかふざけた結論を出してるのを見かけた。いかがでしたか? じゃねえよ。こんなのが検索上位に出てくるな。SEO対策すんな。
生放送は既に始まっていて、同接数も万単位もありかなり注目されている。ちょっと覗いてみるか。
画面には匠さんが映っていた。時々、匠さんガチ恋勢みたいな層がいるのか、匠さんに熱烈なラブコールを送っているコメントもあった。
「さて、そろそろみなさんが気になって仕方ない情報を発表しましょうか。SNSで匂わせた通り……新しいVtuberの情報が解禁されます」
『きちゃああああああああ!!』
『これを見に来た』
『うおおおおおおおおおおおお』
『男? 女?』
『男の子なの!? それとも、男の娘!?』
「はい、そこ。転校生がやってきたみたいなノリで男か女か訊かない。セフィロトプロジェクトは数字の大きいセフィラから順にVtuberが誕生してきました。そして、そのトリを飾るのは、隠されたセフィラであるダアト」
『やっぱり、ダアトまでいるのね』
『なに! 生命の樹の球体は10個ではないのか!?』
「ダアトのママも既に決まっています。知る人ぞ知るCGクリエイターのズミさんに担当して頂くことになりました」
『誰?』
『有名な人?』
『お前ら忘れたのかよ。ビナーを担当するはずの人だったんだよ』
『ああ、ショコラちゃんに仕事取られた人か』
『なんだ敗北者か』
『取られたってか事故起こして、入院してたんじゃなかったけ?』
『ショコラちゃんのサプライズ起用が衝撃的すぎて前担当者の名前忘れてた』
ズミさんが好き放題言われている。ショコラに仕事を取られたのは事故で仕方のないことだったのに。
『ズミか。まあ、実力的には妥当なところかな?』
『いやいや。妥当どころじゃないって。あの人、あんまり表に出てないけど実力はトップクラスのクリエイターだよ』
『今度こそ事故らずに頼むぞズミ。俺はあんたのキャラを見たいんだ』
中には彼の実力をわかっている人もいた。この人たちもCGの世界に明るい人なのだろうか。普通の人なら、クリエイターの名前はあんまり覚えてないよな。ズミさんの実力を評価している時点で、なんか強キャラオーラを感じる。
「現状、公表できる情報はこれだけでですね。またキャラデザやそのシルエット等は段階的に発表していきます」
『焦らすじゃねえか』
『焦らした分期待上がってるから、わかってんだろうなあ! ズミ!』
ズミさんにプレッシャーかけるのやめてあげなよ……あの人、そういうのに本当に弱そうだから。この放送見てたら胃液吐いてそうだから。
「さて、今日はもう1つお知らせがあります」
来たか。俺の勘が言っている。ここでコンペのお知らせが来ると。
「先日生まれた私の娘が寝返りをうちました」
違うんかい!
『お義父さん!』
『通報した』
「まあ、その話は置いておいて……セフィロトプロジェクトのVtuberのママ11人によるCGアニメーションコンペが開催されることになりました」
『!?』
『え、マジ?』
『なん……だと……』
「テーマは自由。各々が自分の得意分野で殴りあうスタイルです。お気に入りのママを応援するもよし、推しのVtuberのママを応援するのも自由。セフィロトプロジェクトの最強のママがついに決定します」
『ママってことは、たくみんも参加するってこと?』
「はい。そうですね。私も当然参加します。そのため、審査は公平性を保つために外部企業に委託します。社長だから贔屓されるということもありません。誰が勝ってもおかしくないのが今回のコンペです」
『そいつぁすげえや!』
『Vの者だけじゃなくて、ママもフューチャーしてくれるのもこの箱のいいところだよな』
『わかる。クリエイターを応援している立場としては、こういうところが推せる』
「なんとか各人のスケジュールを調整して、無事に11人全員参加することになりました。その中には、先程紹介したズミさんも入ってます」
『マジか! ズミさん仲間外れにされなくて良かったね』
来た! ズミさんの参戦情報。正直、これが1番聞きたかったやつだ。早く、ズミさんと戦いたい。ズミさんだけじゃない。師匠も匠さんも、他のみんなも全員と戦って……そして勝ちたい! このコンペで勝てれば大きな実績になるはずだ。
こうして盛り上がった空気のまま生放送が終了した。夜も遅かったので、俺はベッドに入るが、興奮して中々寝付けない。今日はゆっくり寝て、明日からコンペに備えないといけないのに。
◇
生放送が終了した後、収録スタジオから出る。その出入口に俺の妹の操が待っていた。
「よ、兄貴」
「操。わざわざ待っていたのか?」
「ああ。兄貴に聞いて欲しいことがあるんだ」
「なんだ? プライベートなことなら受け付けるぞ。コンペに関わることだったら、悪いけど俺と操はライバル同士。いくら兄妹とは言え、馴れ合うつもりはない」
少し酷な話かもしれないけれど、参加者同士が意見をすり合わせると意図せずに作品に影響が出て似たものが作られてしまう可能性がある。それを避けるためにも俺は他の参加者となるべく接触するつもりはない。
「いや、そうじゃないんだ。あ、いや。コンペが関わっていると言ったら、そうなるけど……」
「なんだ。ハッキリしないな」
「私は、今回のコンペで優勝したら……Amber君に告白しようと思ってる」
え? 今、なんて言ったんだこの子は? 俺の聞き間違いか? あの恋愛に関してヘタレすぎる操が告白?
「その……コンペで優勝したって良いことじゃないか。良いことは重なるって言うし、勢いのまま告白したら、いい結果が得られるんじゃないかって」
良いことの後には悪いことがあるとも言うけど、まあ、それは教訓みたいなものだな。良いことがあると人は調子に乗りやすい。だから、悪いことが起こる心づもりで何事にも取り組めという戒めで生まれた言葉じゃないかと。勝って兜の緒を締めよという言葉と似たようなものだと俺は解釈している。
「なるほど。まあ、操の言ってることには一理あるな」
次の試合でホームラン打ったら、ゴールを決めたら、志望校に受かったら、そうした制約で行動を移す人も確かにいる。それくらい操は、コンペにも琥珀君にも真剣なんだ。
うーん。どうしようかな。今回のコンペは俺も本気を出すつもりだったけど、操を優勝させたいしな。
「兄貴! 言っておくけど、手加減したら一生恨むからな! 中途半端な状態の兄貴を倒したところで、ゲンは担げないし、私の気が済まない。なにより、1対1の戦いじゃないし、手加減は他の参加者に失礼だからな」
「ああ。わかってる手加減するつもりはないさ。むしろ、安心した。操が『兄貴~、好きな子に告白したいから手加減してよ~』なんて泣きつかなくてな」
「んなことするか!」
全力で挑まなかったら、操だけでなくて琥珀君にも恨まれるからな。一瞬、嫌な考えが頭をよぎったけど、忘れよう。
「操。幸せになりたいか?」
「な、なんだよ急に。そんなになりたいに決まってるだろ!」
「だったら、操を……いや、参加者全員を叩き潰すつもりの俺を叩き潰してみろ。生ぬるい作品で勝てるほどこのコンペは甘くない。だって、俺が参加してるんだからな」
「ああ。最初からそのつもりでいる」
こんなに熱くなったのは何年ぶりだろうか。年甲斐もなく少年のようにワクワクしてしまっている。操の決意は本物だ。いつも以上のパフォーマンスで俺に牙を剥くだろう。やっぱりダメだな。仮に操に手加減をお願いされてたとしても、手加減できなかっただろう。だって、全力以上の力を出してくる操を倒したい欲求がでかすぎる。俺は体から湧き出る闘争本能に逆らえなかった。
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