第152話 お兄ちゃんは心配です(´・ω・`)
カミィ(莉愛)が参加したワードウルフの動画を見た。結果は、莉愛が1勝しかできなくて、兄としては少し複雑な気持ちだ。もう少し良い結果をさせてあげたかったな。それにしても、男性陣2人が強すぎた。ビナーもカミィも押されて気味だったし。
それにしても、妙な運命の巡りあわせだと思った。イェソドの正体は、俺のかつての同級生、
それに莉愛にも、イェソドが俺の友人であることは言っていない。あの場に、俺の友人が1人いたと知ったら、莉愛はびっくりするだろうか。緋色とイェソドがコラボした時も、お互いがリアルで親交があるとは公表してなかったし。
ワードウルフの動画を見て……気になるお題があった。倫太郎が頭おかしいのは、昔から変わらないことなので、放っておくとして。莉愛の出したお題の1つ……好きな人に恋愛相談される。これが気になった。
だって、莉愛は正に今恋愛相談されている最中なのだ。その相手が、俺も良く知っている琥珀君だ。もしかして……莉愛は琥珀君に好意があるからこそ、現実世界とリンクさせてあのお題を選んだのではないかと邪推してしまう。
別に琥珀君が信用ならないだの、莉愛にはもっと相応しい人がいるとか言うつもりはない。兄としては莉愛に幸せになって欲しいから、恋愛は修羅場に巻き込まれずに綺麗な形で成就して欲しいのだ。
つまり、琥珀君は今想われている人がいるわけで、仮に莉愛が琥珀君のことが好きだった場合、絶対そこでバチバチにやりあう何かが発生してしまうのではないかと。そういうことを考えてしまう。
恐らく、杞憂だろうけど、1パーセントでも可能性があるのなら……兄としては心配でならない。それとなく探りを入れてみるか?
コンコンとドアをノックする音が聞こえた。俺はノックに対して返事をすると、ドアが開いて莉愛が入ってきた。
「お兄さん。夕食の買い出しに行きますけど、なにか食べたいものありますか?」
「うーん……今日はハンバーグが食べたい気分かな」
「はい。ハンバーグですね。ふふふ、わかりました。では、行ってきます」
莉愛が部屋から出ようとする。俺はすかさず「待って」と莉愛を呼び止めた。
「ん? どうかしましたか? お兄さん。他に何か欲しいものでもあるんですか?」
莉愛は首を傾げてキョトンした顔で俺を見ている。
「あ、そうじゃないんだ……ただ、ちょっと気になることがあって。この前のワードウルフで、莉愛の出したお題に【好きな人に恋愛相談される】ってあったよな?」
「ええ。ありましたよ」
「その……莉愛はそういう経験あるのかなって」
間接的に行こうと思ったけど、あんまりグダグダ話して莉愛の買い物の邪魔をしたくない。ここは直球で訊こう。
「うーん。どうでしょうかね」
意味深な笑いをする莉愛。
「秘密です」
小悪魔的な笑みを浮かべて、人差し指を立て自身の鼻の前に持ってくる莉愛。
「そっか。まあ、しょうがないか。兄妹でも言えないことあるもんな」
これに関してはしょうがない。俺だって、イェソドが俺の友人だってことを莉愛に秘密にしている。自分だって隠し事をしているのに、妹に隠し事されてショックだなんて思ってない。全然思ってない。これっぽっちも思ってないし……
「お兄さん。もう良いですか?」
「え、ああ。ごめん。呼び止めて」
「いえいえ。では改めて行ってきます」
ドアを閉めて、買い物に行く莉愛。足音が段々と遠ざかっていく。
結局、莉愛の心はわからなかった。莉愛が気まぐれであのお題を出したのか、自分が現在同じ状況に置かれているから、あのお題を出したのか。それがわからない。俺はただ、前者の方であってくれと願うばかりだった。
◇
「はあ……」
近所のスーパーへと車を走らせている途中、ふと私はため息をついてしまう。全く、あのお兄さんは妙なところで鋭さを発揮するんだから。まさか、私の最近の実体験をお題にしていたことに気づかれていたなんてね。うーん。こういうところでバレてしまうから、私は
これからどうしようかな。早く、琥珀さんの相談に乗ってあげたい気持ちはあるけれど、私自身の問題にもそろそろ蹴りをつけたいところだ。いつまでもこんな宙ぶらりんなままではいけない。私も来年は成人する歳なんだ。いつまでも子供のままじゃいられない。きちんと恋愛面において責任を負える大人にならくちゃ。
それに、引き延ばすのもそろそろ限界に来ている。いつまでも、忙しいフリをして、琥珀さんと予定を合わせなさすぎるのも不自然すぎるし。私は私で、この気まずいもやもやを解消したい。
スーパーの駐車場についた。出入口付近のところは全部駐車されていた。やだなー。遠いところしか停められない。
出入口からそこそこ遠いところに車を駐車させて、降りた。スーパーへ向かう最中に子供連れの主婦の人とすれ違う。その人は、出入り口に近い車に乗り込んで、そのまま駐車場から出て行った……何このタイミング。間が悪すぎる。なんだろう。今は、何をするにしても間が悪いから、余計なことはするなというお告げなのだろうか。
「あ、莉愛ちゃん!」
スーパーでたまたま会ったのは、私と同期の女の子だ。年齢も同じだし、話も合うので職場では1番仲がいいかな。
「おーい! 椿さん! この前のこと考えてくれた?」
そして、最悪なタイミングで最悪の人に出会う間の悪さを発揮してしまった。なんなの。今日は間が悪い日なの。私たちの直属の上司、係長の男性。丁度今、隣にいるこの子が好きな人。私は、彼に愛の告白をされたのだ。
私が係長を傷つけないように断り文句を考えていたら、係長は「そっか。急に言われても悩むもんね。返事は後日でいいから、ゆっくり考えてね」と勝手に告白して、勝手にその場を打ち切って、そして、今勝手に返事を迫ってきた。
係長は多少、強引なところがあるけど、悪い人じゃないのはわかる。実際、その強引なところに惹かれて、リードして欲しいと思っている隣の彼女もいるわけだし。でも、私はリードされたいと言うよりかは、2人で一緒に進む道を決めていきたいタイプなので、申し訳ないけど係長とは相性があわない。
「係長。お疲れ様です! え? 莉愛ちゃんとなにか話をしてたんですか?」
ええ……そこ訊くんだ。私は彼女に、係長に告白されたことを伝えてない。伝えられるわけがない。だって、彼女は係長のことが好きすぎるし、ちょっと嫉妬深いところもある。私が好意を向けられているって知られたら、何されるかわかったもんじゃない。
「ああ、実はね。僕は椿さんに――」
「か、係長! その話は守秘義務がありましたよね? この場ではやめましょう」
「いや、仕事の話じゃ……」
「あーあー!」
「守秘義務? 同じ職場の私に言えないことなの?」
「そうそう。極秘プロジェクトなのです! 係長。その話は後で電話しますので、今はどうか収めてください」
「ん? ああ。ごめんね。なんか急かしたみたいで」
こうして、3人はそれぞれ別れを告げて、各々が自由にスーパーを回った。一触即発の空気をなんとか回避した私。うん。そうだよね。何事も後回しにしすぎるのは良くない。さっさと係長を振ろう。
スーパーから帰宅して、お兄さんとの夕食後、私は係長に「ごめんなさい」の電話をして、この一連の流れに決着をつけた。
数日後、係長と同期の子が付き合うことに……! なんて展開にはならなかった。同期の子が係長に想いを伝えるも、係長は告白を断ってカップルは不成立。世の中って世知辛い。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます