第150話 ワードウルフ④ お題提供者:カミィ

・ワードウルフ(制限時間5分)

 お題提供者:カミィ

 参加者:ショコラ、イェソド、コクマー、ビナー

 ショコラのお題:友人の好きな人に告白される


 『なんだこのお題は!』最初にお題を引いた時に思ったことだ。お題の内容が気まずすぎるし、対抗のお題も全く想像できない。こんなのでどうやって戦えばいいんだ。


「あーしのお題全員に行き渡ったかな? それじゃあ、開始の合図をするよ。3、2、1、はじめー!」


 カミィの合図で始まってしまったけど、なにから話せばいいんだ。


「これ実際に経験したら気まずいな……」


 コクマーさんが初手を切り出した。ショコラのお題も体験系だし、コクマーさんも“経験”という言葉を出した。2人が似たようなお題を貰ったってことは、俺とコクマーさんの陣営が一致しようがしまいが、多数派は体験系のお題を貰ったことは間違いない。


「たしかに」


 全員が頷く。お題のインパクトのせいで、集中できなかったから誰かが出遅れたとかそういうのは見れてなかった。


「というか、これ実際に経験した人いるのかな?」


 イェソドさんが話題に一石を投じる。俺は告白された経験はない……ってことでいいんだよな? 別に師匠から直接告白されたわけでもないし。


「うーん。私はないですね」


「私もないな」


「ビナー様とコクマー様に同じくありません」


「そうかな? 僕はある」


「え!?」


 ビナーがイェソドさんの発言にリアクションした。しかし、驚いただけでそれ以上に突っ込むことはしなかった。


「まあ、嘘だけどね」


「嘘かい」


 イェソドさんの小粋なボケにツッコミを入れるコクマーさん。なんでこんな嘘をついたのだろうか。


「僕のお題は世間一般では、ありえる話だからね。もし、誰かが『絶対ないだろそれ!』ってツッコミを入れたら、それも1つの情報として落ちる。今回はそれがなかったから不発に終わったけど、上手く行けば炙り出しはできたかもしれない」


「なるほど」


 イェソドさんの発言にコクマーさんが何かを納得したようだ。だけど、俺にはまだ何も見えていない。


「私は経験してないからわからないんですけど、こういうのって将来的に青春の思い出になることはあるんですかね?」


 ビナーが【青春の思い出】という情報を落とした。俺のお題と近しい何かを感じるけどまだ油断はできない。狼が出る発言した仲間(だと思ってた人)に後ろから刺されることも珍しくないからな。


「なる人はなるし、ならない人にはならないだろう。ビナー君。青春時代の禍根かこんがいつまでも残る例はあるんだよ。対応を間違えれば特にね」


「あっ……」


 コクマーさんの発言にビナーが何かを察したようだ。でも、俺には何にもピンと来ないな。


「では、そろそろ詰めようか。イェソド君。キミはさっき、世間一般ではありえると言った。つまり、キミ自身の身にこれが起こる可能性は考えていないのかい?」


 コクマーさんがイェソドさんに殴りを入れた。凄い、言葉の綾を拾って追求するなんて人狼ゲームみたいだ!


「さあ。未来のことはわからないけど、僕は過去から現在まで、これが発生する危険について考えたことがなかったな」


 考えたことがないとお茶を濁して明言を避けるイェソドさん。議論系のゲームをやり慣れている感じが言葉の節々から感じられる。


「なるほど」


「そういうコクマーさんはどうなの? これが起こる可能性は考えたことがあるの?」


「私か? そうだな。すまない。発言を訂正させてもらう。私は先ほど、これを経験したことが“ない”とハッキリ言い切った。けれど、正確には“ないとは、思っているけど可能性はある”に訂正するよ」


 あ、確かにそうだ。コクマーさんの言っていることは尤もだ。もし、コクマーさんが俺と同じお題だったとしたら、過去に1度でも告白されたことがあるのなら……絶対に“ない”とはハッキリ言えないはずだ。友人の好きな相手を必ずしも知っているとは限らない。


 現に俺がそうだった……俺は師匠の好きな人を知らなかったのだ。と言うより、俺の例で言えば、三橋以外に誰が誰を好きとかそういう話は知らない。藤井だって付き合いは浅いとは言え友人だけど、アイツに好きな人がいるのかどうかすら分からない。


「可能性はある? それは妙な話かな。後からこの条件を満たすとしても、発生した時点では“ある”か“ない”という話だと思うよ」


 ん? イェソドさんの発言がおかしい。イェソドさんは過去のゲームで【指名手配犯と遭遇したことがあるか?】に対して、【ないとは言い切れない】と返していた。つまり、そういうところに頭が回る性格なわけで、そのイェソドさんが“知らず知らずの内に発生していた可能性”を考えないのはおかしい。


 と言うことは……このゲームはもうすぐ終局を迎えそうだ。


「私は、コクマー様の方が正しいと思います!」


「なにっ!?」


 ショコラの攻撃を受けて、イェソドさんは予想外と言った反応を示した。


「ショコラ君。援護助かった。後少し遅かったら発言を訂正して、イェソド君の方に同調していたかもしれない」


 コクマーさんのアバターがニヤリと笑った。勝利を確信した笑みだ。


「え、なに? どういうことですか? イェソドさんが怪しいんですか?」


 ビナーは、まだ状況に気づいていない様子だ。でも、イェソドさんがおかしいということは空気で察せている様子だ。


「私のお題でも、知らず知らずの内にこれが発生する可能性があるんですよ」


 ショコラの言及に戸惑いを見せるイェソドさん。


「あ、えーと……ああ、そう。確かに言われてみれば……そういうことか」


「イェソド君。そういうことが、どういうことか説明してもらえるかな?」


 コクマーさんの追求にイェソドさんは答えられなかった。適当に納得したフリをして、乗り切る作戦だったんだろうけど、ここまで怪しまれては意味がない。イェソドウルフ説が浮上したまま議論の時間は終了した。


「はーい。1番人気の子が決まりましたー。イェソドっち。当選おめでとー」


 投票された人物は負け確定のゲームで何がおめでとうなのかは知らない。けれど、イェソドさんのお題は何だったんだ? 違うお題を持っている空気はあったけど、そこまでは暴けなかった。


「僕のお題は【好きな人に恋愛相談される】だったよ。くそう……対抗のお題はなんなんだ」


「うーんと。そだね。やっぱり、イェソドっちがウルフでした。市民の勝ちだよー。おめでとー」


 カミィの市民側勝利宣言で、またしてもショコラは勝ってしまった。現在3連勝だ。


「私たちのお題は【友人の好きな人に告白される】だ」


「あー。そういうことか。うーん。やっぱり恋愛関係は苦手だな」


 ゲーム全般が得意で隙がないように感じたイェソドさんも、苦手なジャンルはあったのか。恋愛が絡むとダメになるなんて面白い人だなあ。しかし、俺には解せないことがあった。


「コクマーさん。質問いいですか?」


「ん? なにかな?」


「どうして、イェソドさんに狙いを絞ったんですか?」


「彼が議論系のゲームもやり慣れているから遠慮なく殴れるのが理由の1つ。もう1つは“世間一般”がちょっと引っ掛かりを覚えたことかな。私のお題が、完全に受動的に発生することに対して、イェソド君のお題は能動的に条件を満たせる何かがあると思ったんだ」


「なるほど」


「それで、私のお題を参考に考えてみると、イェソド君のお題は“自分が好きな相手”に対して何かが発生するものだと思った。だから、私は“可能性はある”発言で、揺さぶりをかけた。万一みんなが私を否定する流れになったら、確実に私は少数派だし、そうなったら『恋愛なんて自分の真の気持ちに気づいていないこともある』と多数派に寄せられる言い訳もあったからね。その言い分ならイェソド君の反論にも同調できたし、後はそのまま空気に徹してやり過ごせばいい」


「おお。流石ですコクマー様。参考になります」


 この短期間でそこまで考えていたのか。やっぱり、頭が良い人は違うな。それにしても、”自分の真の気持ちに気づいていないこともある“か。なんか心に沁みる言葉だな。

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