第138話 水平思考クイズ⑥【天然由来の成分】(後編)

前回の情報

『女はあるハーブのお陰でとても幸せな気持ちになれた。一体なぜ?』

○ハーブは合法(質問者:獅子王)

×ハーブの種類は特定いる(質問者:福下)

△幸せになったのは女だけ(質問者:ショコラ)

×女以外に登場キャラはいる(質問者:佐治)

○ハーブは不特定多数の人に恩恵を与えた(質問者:ショコラ)

○ハーブは商品(質問者:ビナー)

◎ハーブは化粧品に加工された(質問者:ビナー)


△(要素不足)「とある企業がハーブを使って、新たに化粧品を作った。女はその化粧品を使って、綺麗になり幸せな気持ちになった!」(解答者:ビナー)


――


「ショコラママ」


「ん? どうしました? ビナー様」


「ショコラママは足りない要素はなんだと思いますか?」


 ビナーの問いかけを受けて俺は考えた。コクマーさんはビナーの解答に対して、不正解ではなくて、要素不足だと言った。だとしたら、女にはハーブの化粧品を使う目的があったはずだ。そこを突き詰めるのが良いのかもしれない。


「女が化粧品を使った結果、どうなったか……? それがこの問題の肝なんだと思います。ビナー様の解答では、使ったという動作までしかありませんでした。動作に対しての結果が不足しているということだと私は思います」


 ショコラの回答を受けて、ビナーは「うーん」と考え込んでいる。


「そうですね。足りない部分はそこだと思います。流石です。ショコラママ」


「えへへ。それほどでもありますよ。ビナー様こそ、ここまで導いたのは凄いです。流石は私の娘です」


 娘に褒められて悪い気分にはならない。俺が褒め返したところ、ビナーも照れ笑いするリアクションを返す。


「作戦会議は終了したかな? 質問してもいいよ」


 コクマーさんが質問を促す。解答にまでは至れなくてもいいから、なにかしらの重要な要素は落としたい。そう思って質問を考えているとビナーが動いた。


「はい。コクマーさん。女は化粧品を使った後に誰かに会いましたか?」


「関係ないよ」


「うーん。そうですか……女子としては、誰かに可愛くなってねって褒められたら嬉しくなるからそれ関連かなと思ったんですけど」


「うーん。発想自体は悪くありませんが、既に質問で他に登場キャラがいるかどうかで“いいえ”と返されてますから、女だけで完結することだと思いますよ」


「あ、そうですね。流石です。ショコラママ」


 水平思考では“はい”を返された質問に着目しがちだけれど、“いいえ”で返されたことも決して軽視できない。可能性を1つずつ潰していくことで見えてくる真実もあるのだ。


「女は綺麗になったことでなにか得をしましたか?」


 福下さんが詰めてくる。得をしたことがあったから、幸せな気持ちになったということなのだろうか?


「綺麗になることそのものが得だと思うけど……副次的効果で特別に得をしたことがあるかどうかは関係ないよ」


 なんだ? この問題の正体は。全くわからない。もしかして、これは俗にいう“沼にハマった”という状況ではないのか? 発想が遠い所にありすぎて、正解に近づけない。まるで底なし沼に沈んで抜け出せない。


「女は体になにか問題を抱えていた?」


「はい。良い質問だ。佐治君」


 沼にハマっていた状況を助け出してくれたのは佐治さんだった。佐治さんの投じた一石がこの問題を解く大事な要素になった。


「女は病気だった?」


「いいえ」


 すかさず獅子王さんが追撃をいれるが、躱される。病気ではないのに、体に問題を抱えてる……? もしかして、アレか?


「女はアレルギーを持っていましたか?」


「はい。ショコラ君。いい質問だ」


 なるほど。そういうことか。よし、このまま一気に詰めて……詰めて? あれ? アレルギーがなんで化粧品と関係があるんだ?


「ショコラママ! 私、わかりました!」


 お、ビナーがわかってくれたようだ。これはこのままビナーに決めてもらって終わるか。


「ショコラママもわかりましたよね?」


「え? あ、あの……その」


 ビナーが純粋な目で圧をかけてくる。いや、アレルギーは特定できたけどそこから先がわからない。特定アレルゲンとか関係あるのか? 落花生、蕎麦、卵、牛乳……ハーブと関係ないじゃないか!


 ビナーが期待の眼差しをショコラに送ってくる。やめろ。その目をデザインしたのは俺だけどやめろ。それは、俺を追いつめるために作ったものじゃないんだ。


「も、もちろん。わかりますよ。ねえ、みな様? わかりますよね?」


 俺はリドルトライアルの面々に助けを求めた。しかし――


「いや、わたくしは化粧には詳しくないからなんとも言えない」


「獅子王に同じ」


「同じく」


 ええ……インテリ集団が思考停止してんじゃないよ。なんのための頭脳だよ。


「私は解けました。でも、私はさきほどの問題を答えたので今度は娘のビナー様に譲ります」


 子供に全責任を負わせる作戦。通称おめえの出番だ作戦。


「譲ってくれるんですか? 悪いですね。ショコラママがアレルギーまで特定してくれたのに」


「構いませんよ。ビナー様に誤答のリベンジをして欲しいですからね」


 はよ答えろ。はよ! はよ!


「では、行きます……コホン。女は普通の化粧を使うと肌が荒れる体質だった。でも、天然由来の成分しか入っていない化粧品は、女が肌荒れを起こす成分が入っていない。肌荒れを気にせず使える化粧品を手に入れたことで女は幸せな気持ちになった」


「素晴らしい。パーフェクトだね。ビナー君」


「流石ですね。ビナー様。偉いです」


「ふへへー」


 本当に正解してくれて偉い。もし、これでまた誤答したら、次の解答者はショコラに回ってくるところだった。


「では、想定していた解答を……


『女はアレルギー持ちで普通の化粧品を使うと肌が荒れて化粧が出来ない体質だった。

しかし、そんな女でも使うことが出来る天然由来の成分のハーブの化粧品のお陰で美容に気を使えるようになり幸せな気持ちになったのだ』


 確かに……これが解答例なら、ビナーの最初の解答は要素不足で誤答扱いにされても仕方ない。それにしても、女子に若干有利とはいえ、この問題に正解できるとは、流石ビナー。


「初めて使う化粧品は肌にあうのかチェックするためにパッチテストとかしますからね。化学的な成分が全般的にダメな人もいますし」


 ああ。そういえば、そんな話聞いたことあるな。姉さんが化粧品を貰ったけど、肌に合わないから真珠にあげるとか家族のトークグループで言い出したことがあったっけ。ちなみに母さんから、まだ中学生の真珠に化粧品を与えようとするなって叱られてたのは言うまでもない。


「コクマーちゃん出題ありがとう。ゲストのビナーちゃんが正解できて良かったね。ショコラちゃんもさっきの問題で正解したし、ゲスト大活躍で終わりでいいんじゃないか?」


「おい、まだ俺の出題が残ってるだろ!」


 そういえば、最初のエロ本問題がボツになったから、佐治さんの問題は残っているんだった。こっちとしてはもう4人分解いた気分になっている。


「ごめん、収録時間が長くなってるから、そろそろ一旦切りたいんだ」


 進行管理をしている獅子王さんがそう言うのであれば仕方ない。


「この後、サブチャンネルの方で佐治ちゃんの問題の動画を出すので、よかったらそちらもご覧ください」


 収録はこれで一旦区切られるけど、俺たちはこの後すぐにまたサブチャンネル用の収録をしなければならない。


「それでは、ビナーちゃん。水平思考クイズをやってみてどうでしたか?」


「そうですね。最初の内は慣れないこともありましたけど、段々と勝手がわかってきて楽しかったです。最後に活躍もできたと思うので、嬉しかったです」


「そう言ってもらえるとこちらも嬉しいかな。ショコラちゃんはどうだった?」


「やっぱり、娘のビナー様と一緒に問題を解けたのが良かったですね。親子設定があるのに、今までコラボの機会に恵まれませんでしたけど……ビナー様とのコラボの機会を作って下さりありがとうございました。リドルトライアルのみな様とのコラボも楽しかったです」


「うん。ありがとう。こちらも華があるゲストが来てくれて嬉しかったよ。それでは、また次の動画で会いましょう。さいなら!」


 これで一旦収録は終わった。この後、佐治さんの問題も解くことになったけれど、それも中々に骨のある問題だった。


――――

あとがき


佐治の最終問題は、【バーチャルサキュバスメイドのショコラの観測所】という番外編集にて、投稿予定です

現在(2021/9/15)はCLOSED PANDEMIC編(ショコラがプレイしてホラゲのチャプター2移行)が連載中なので、それが終わり次第、もしくは先に人気投票の上位キャラの特典SSを投稿してからになると思いますが、お待ちいただけると幸いです

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