第136話 水平思考クイズ④【生まれ持った力】
「タイトル【生まれ持った力】」
福下さんの口から告げられる仰々しいタイトル。先程は猟奇的な問題だったけれど、今回は平和な問題であることを願う。
『
一応、問題文は出題者が読み上げてくれるのだが、個別のチャット画面にも文章として表示されている。一に正しいと書いて一正……かずまさって名前はそこまで珍しくないとは思うけど、この読み方は見たことないな。名前に意味があることは少ないし、あんまり考えなくてもいいかも。
「ふむ。なるほど……」
コクマーさんが呟く。この人はボケ倒している周りのメンツに比べて、常識人的な安心感を覚える。まだ質問はしてないけれど、既にいくつかの候補に絞れているのだろうか。
「では、早速行かせてもらう。アウルちゃん! 瞬殺してやる! わたくしの前にその愚問を出したことを後悔するといい!」
獅子王さんが息巻いている。さっき、四天王の中で最弱呼ばわりされたのがそんなに嫌だったのか。
「一正が競い合っていた内容は、常人なら追いついたり、追い越したりできないもの?」
「ふふふ。いいえだね」
獅子王さんの質問に対して福下さんが含み笑いで返す。でも、なんだ? この違和感は。普通に【いいえ】で返すのではなくて、含み笑いを仕込むなんて。
「質問だ。俺とアウル君とで勝負したら勝つのは、俺、佐治 賢郎の方である?」
「その質問の仕方だと……いいえだね。最初から勝負にならないから」
「なんだと……! そんなに俺が格下だと言いたいのか!」
【はい】でもなく【いいえ】でもなく、【勝負にならない】……? なんだこの違和感は。わからない。福下さんの反応にヒントが隠されてるようで、俺はそれを見つけられない。俺の洞察力がまだ足りないと言うのか?
「じゃあ、質問です。私ことショコラが福下さんと勝負したら、勝つのは福下さんの方ですか?」
「それも、いいえだね。僕ではショコラちゃんに勝てない」
福下さんと佐治さんの勝負では、福下さんが勝ってる? そして、福下さんとショコラとの勝負では福下さんは勝てない……? ということは、ショコラ>福下>佐治という序列が出来上がっているってことか?
「一正さんは成長して体が大きくなったから、相手を超えていることに気づいたんですか?」
「いいえ」
ビナーの質問が【いいえ】か。体の大きさは関係ない? じゃあ、成長したってどういうことだ?
「一正君が比べているものは数字の大小かい?」
「素晴らしいよ。コクマー。答えは【イエス】。数字の大小を比べていたんだ」
福下さんが答えた瞬間にコクマーさんがため息をついた。
「アウル君。キミはかなり
「あは。バレた? 流石コクマー。真実に辿り着いたのなら答え言っても構わないけど」
コクマーさんはもう真相に気づいたのか? 俺は全く見当もつかない。数字の大小って言われても……? 大抵のものは数字の大小で競っているんじゃないのか?
「そうだそうだ行ったれ! コクマーちゃん! はっはっは。残念だったなアウルちゃんよお! ウチのエースが瞬殺してくれるらしいぞ」
「いや、やめておくよ。獅子王君。キミは自力でアウル君と決着を付けたいだろ? さっき瞬殺してやるとか言ってたじゃないか。止めはキミに任せるよ」
「あ、いや……その。ええ……?」
獅子王さんが困惑している。コクマーさんが倒してくれることを期待していてイキっていたのに、譲られても困る状況だ。
「大丈夫ですよ獅子王さん。私がサポートしますから」
ビナーが獅子王さんを励ましている。良い娘に育ってくれて嬉しい。育てた覚えはないけれど。
「比べている数字は年齢ですか?」
ビナーの質問で俺はふと思った。なるほど。その可能性は十分ありえると。年齢が上の相手はお互いが生きている限りは生涯勝てないはずだ。あれ? でも、最初から勝っていたってどういう状況だ……?
俺は脳細胞を稼働させてよく考えてみた。年齢を競っているとしたら、追いつける可能性? うるう年か! 相手がかなり年上かと思ったけど、成長してうるう年という知識を身に付けたことで2月29日生まれの人間に年齢が上だったと知ったのか?
「いいえ」
うん。さっきの推理が全部無駄になった。……? 本当に無駄になったのか? 俺はさっき、かなり良い所を突いたのかもしれない。成長して知識を得た! そうだ! 子供の知識では、気づかなかったけど。成長して勉強してから身に付ける知識で世界が変わることはありえる。コペルニクス的転回っぽいなにかが起こったのか!?
「福下さん! もしかして、成長して気づいたって言う部分は、知識を得たから気づいたということですか?」
「そういうことだね。ショコラちゃん」
ショコラの質問の回答を受け取った一同。獅子王さんと佐治さんは「あ」とだけ言った。もしかして、この2人も真相に気づいたのか?
「一正が比べていたのは、名前についている数字の大小かな? アウルちゃん?」
「はい。そうですね」
獅子王さんの質問と福下さんの回答を受けた時にコクマーさんのガワがニヤリと笑った。
「一正は、自分の名前が一という弱い数だと思っていたけれど、正が数の単位であることを知って、自分がかなり大きな数であることを知った」
「正解! おめでとう」
「え?」
ビナーがぽかーんとしている。一方で、俺は「あー」という感じだった。言われてみれば、そんな単位あったかもしれない。今、言われて思い出した。
『一正の友人に【
しかし、成長した一正は知識をつけて【正】が10の40乗を表す大きな数であることを知って、数字の大小の勝負に最初から勝っていたことを知ったのだ』
「ふっ決まったぜ」
「見事なごっつぁんゴールだったね獅子王」
「コクマーちゃんに譲ってもらったとはいえ、勝ちは勝ちだ。ショコラちゃんのパスも中々に良かったな」
「いえ、私はビナー様の質問で、あの質問を思いついたのですから」
『うるう年の知識を得たんじゃないか?』って発想がなければ、出てこなかった質問だ。ビナーの功績もかなり大きい。
でも、解せないことが色々とある。
「あの。福下さん。質問いいですか?」
「ん? どうぞ」
「あの、佐治さんと福下さん。福下さんと私。それぞれ戦った時の結果はなんだったんですか?」
「ああ。僕たちは名前に数字が入ってない。だから最初から“勝負にならない”。そして、僕がされたのは、勝つかどうかって質問だ。勝負にならないなら当然、勝つかどうかって質問に対する返答は“ノー”だ。僕は一言も、佐治に勝ったとも、佐治が負けたとも言ってないし、ショコラちゃんの時も、ショコラちゃんが勝ったとも、僕が負けたとも言ってない」
「ええ……屁理屈じゃないですか」
「これがアウル君の
コクマーさんの言いたいことはわかる。確かに大人気ない。
「知識がなくても、名前の数字の大小を比べていることに気づけば、正が単位であることに気づけるんじゃないかな? 「正は数の単位ですか?」って質問が来たら、僕は「はい」と答えるだろうし」
「なるほど。勉強になりました。問題ありがとうございます福下さん。数の単位について興味が沸きました」
流石、ビナー。前向きである。俺がキャラデザとモデリングを担当しただけのことはある。
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